2016年(平成28年2月) 10号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203

 「アーユルヴェーダはインドの古典医学のことで、簡単に言えば心と体、行動や環境を含めた全体の調和が健康に大切だとする考え方なんです、その考えに基づいたカレーと言えば堅苦しくなってしまうので、それを食べやすく仕上げることが今回のインド式ダルカレーのテーマかなあ」

 料理家あさみ智子さんの話は、いきなり難解な話題に突入だ。

 「病気になってから治すより、病気になりにくい心身を作るための料理と言ってもいいですね。インドでも北から南、民族などで、固有の料理がありますから、ここは宮崎、それで綾町の干し椎茸を使って地域色を出したいと思います。ルーを用いないスパイスだけのカレーです。最後に蜂蜜を使うのは、仕上げをまろやかにして万人に受け入れてもらうための工夫ですかね。体によろしい物が不味いと受け入れてもらえないので、体によろしくて食べやすくってことです」

 少しは解りやすくなったが、何となく理屈っぽいなと思いながらも料理は始まった。調理台の上には、小さなボールに入ったダルカレーの材料が並んでいる。ガラスの器に入った多様な材料を見ると、ふだん我が家で作るカレーとの違いは歴然だ。

 「干し椎茸とダル(赤レンズ豆)は、早くから水に浸して戻しておきますね。それと、折角のアーユルヴェーダ料理なので、玄米を使ってサフランライスにしましょう」

 あさみさんは、そう言うと真っ先に、玄米を(白米の場合の2倍の)水で仕掛け、宮崎県産の八角、岩塩少々を投げ入れ、土鍋で炊き始めた。続いて、菜種油が熱々になった鉄鍋に包丁で押し潰したニンニク2片とタマネギのみじん切りを入れ、木ベラでちょっとかき回した。

 「ニンニクは球根だから、叩いて起こさなきゃって言うんですよね。インドの料理人もイタリアンの料理人もそう言うんです。シルクロードで繋がった文化だと思うんですね。ローリエを加えてタマネギが焦げるまでじっくり炒めます。焦げていいんです」

 タマネギを炒めている間に、水に戻した干し椎茸を細かく切り、それをフードプロセッサーに掛けてペースト状にしておく。

 「干し椎茸は、見えない材料にするってことですね。ペースト状にすることによって、味がすぐに染みる効果がありますね。ニンニクとタマネギがいい香りになってきました。ここでカレーの色と甘みが決まっちゃうんですよね。もうちょっとだけ、時間掛けさせてください。もうちょっと」

 あさみさんは、焦げ茶色になって鍋の底に貼り付くタマネギを炒め続ける。

 「ああっ、大好きなクミンシードを忘れていました。毒消しに良いと言われてて、副鼻腔炎の人などにすごく良いといわれてるスパイスですね。あ、もう焦げた匂いがしてきましたね。これにガラムマサラを加えます。万能スパイスですね。インドでは各家庭によって違うといわれるものです。これは、コリアンダーでございますね。こうしてスパイスが合わさりました」

 焦げ茶色になったタマネギにスパイスが加わり、鉄鍋の底を木ベラで前後左右に混ぜ続ける。ひときわ良い匂いが漂い始めた。

 「こうやって香りが上がって焦げてきた時に、トマトを入れるのがアーユルヴェーダ式でございます。自分が食べたいようにトマトはもっと入れますね。ここで岩塩も加えます」

 トマト1缶と水1カップを鍋に加えると、ジュジュジュジューッと大きな音がして、小さな泡がたくさん湧き上がっていた鍋が一瞬で静かになった。

 「クミンシード、ガラムマサラ、コリアンダー、これらは姿を消してもらって構わない材料なんです。この後は、ジャガイモの乱切りとフードプロセッサーで細かく砕いたリンゴとニンジンを放り込んでいくだけです。ここで、ペースト状にした干し椎茸も加えますね。みじん切りでも良いんですけど、見えない材料にしたいからですね。結構、量が増えてきましたけど、液体分が蒸発してたくさんはないんですよ。シックな感じの仕上がりになっちゃうんです。だから、ナンに付けるようにパンに付けても全然大丈夫」

 さらに、自家製のマンゴーチャツネとレーズン、ターメリックを加える。

 「ターメリック(ウコン)は、苦くなっちゃうから少しで良いと思います。黄色味と保存料みたいなものですね。加えると匂いが一転しますよね。ターメリックは、肝機能を上げるから風邪予防に良いっていいますね」

 鍋はグツグツ、グツグツと煮立っている。ここで先ほどよりは大きめの乱切りにしたジャガイモを再度加え、カカオも少し加える。

干し椎茸

ダル(赤レンズ豆)

タマネギ

ニンニク

ニンジン

リンゴ

トマト缶

岩塩

ジャガイモ

カカオ

蜂蜜
ローリエ・クミンシード・ガラムマサラ・コリアンダー・マンゴーチャツネ・レーズン・ターメリック・黒コショウ

 

2〜3枚

50グラム

1玉

2片

1本

4分の1

1缶

小さじ1杯

2個

5グラム

20グラム

 

 

 

 

適量

(注)サフランライスの材料は除いてあります。

料理家・あさみ智子(ともこ)

1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。

2014年に現在地の綾町に移転。一男二女の母。

 「あとはダルを入れてお仕舞いですね。アーユルヴェーダの考え方に基づいたということで、自分なりのカレーにしてますから」

 ダルを加えると、蓋をして弱火で炊き続ける。

 「ほんとうは1時間くらい炊きたいですね。それから一旦、火を止めて人肌くらいの温度まで冷ましてから、もう一回、火を入れると味がギュッと増すんですよね。これは1つのコツですね。そしたらアーユルヴェーダではすごくいいとされているんですけど。理想を言えば、最初のタマネギを炒めるのに2時間掛けるんです。トマトを入れてから、それが煮詰まるまで1時間ぐらいやるんです」

 弱火にして炊き続ける間は、コーヒータイムだ。厨房の中はスパイスの香りが充満している。

 「うーん、良い匂い。私ね、子連れでインド行ったことあるんですよ。虎を見たいというんで、周りから反対されたけど連れて行ったんです。ひとりで行った時より子連れで行ったら、こんなにも違うのかと思いました。リキシャにはタダで何回も乗せてもらいましたよ。子どもがバックパックで歩いているから乗りなさいって。娘なんかは、お釈迦様って言われて、長男はシバって。神様を乗せるんだから、お金は取れないって。デカン高原の方では、村の長老が朝から見えて、何だろうと思ったら、拝ましてくれって言って、最後はお布施ですよ。あなたは、神様を連れて歩いてるから絶対に悪いことは起こらないって。その時のインドは、ほんと良い思い出しかないですね。市場でも野菜はフレッシュじゃないですか。オーガニックか有機栽培か慣行栽培か、品物見たら判るから、オーガニックの野菜買うとメチャクチャ美味しいですよね。子どもを連れてインドへ行くなんて、何考えてんだと言われて行ったけど、ほんと親切にされましたね」

 インド式ダルカレーの話からインド旅行の話へ、あさみさんのインドに対する思い入れは相当なものだ。夢中になって話を聞いているうちに、1時間が過ぎていた。鉄鍋の蓋を取ると、ダルカレーの表面に小さな蒸汽穴ができてプツプツと噴き出している。

 「あっ、美味しそう。この時点で一旦火を止めて、蜂蜜を垂らして黒コショウを入れます。良くかき混ぜたら、もう一度火に掛けて仕上げですね。蜂蜜を垂らすことで、スパイシーカレーがまろやかになり照りが出ますよ」

 ジャガイモの形だけは残っているが、他の材料は全て一体化してアーユルヴェーダ・ダルカレーとなった。木製の四角い皿に盛られたダルカレーに粉末のトウガラシを少し振りかけ木製のスプーンで口に運ぶ。「んっ」と思うほど、まろやかな味だ。スパイシーと言うには、ほど遠い。これは、タマネギをじっくり炒めた効果なのか、蜂蜜の効果なのか。私の好みから言えば、もっとスパイシーが良いと思えた。しかし、このダルカレーの味は奥が深い。根がカレー好きの私。奥行きのある味に惹かれて食べ続けるうちに、頭の芯がジワッと熱くなり、ほんのり額に汗が滲んできた。体全体を温めるアーユルヴェーダ・ダルカレーの魔法なのだ。

① 調理台に並べられた材料

② ニンニク、タマネギ、ローリエを
 炒める

③ ガラムマサラ、コリアンダーを加える

④ トマトと水を加える

 

⑤ ニンジンのみじん切りを加える

⑥ ジャガイモの乱切りを加える

⑦ダルを加えてから弱火で1時間煮詰める

⑧ 一旦火を止めて蜂蜜を加える

 

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