2016年(平成28年4月) 11号

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コーヒードリッパーにセットしたフィルターの中にあるのは、コーヒーではなく柔らかそうな白い固まりだ。ドリッパーの下に置いてあるボールの底には、黄みがかった透明の液体が溜まっている。

「あっ、その液体はホエーって言うんです。日本語では乳清(にゅうせい)と言って、栄養がいっぱいあるみたいです。だからカレーに入れたり、そのまま飲んでも良いんだとか。低脂肪で良質なタンパク質で、必須アミノ酸をたくさん含んでいるんだそうですよ。今日のサンドイッチは、ホエーを取り除いた水切りヨーグルトがポイントなんですよね。生クリームだけだと、だれてくるというか、持ち運びもできないので……。水切りヨーグルトが入ることによって、しっかりしたクリームになって味もさっぱりするんです。普通のプレーンヨーグルトなんですけど、ひと晩コーヒーフィルターに入れて置いておくと水が切れるんですよ。4、5時間でも水切りはできると思うけど、できるだけしっかり水を切ってクリームチーズのような固さにしたいので…」

志織さんが前夜から準備していた水切りヨーグルトの説明をする。サンドイッチ用の12枚切り食パンは、お気に入りのパン屋さんで「きめが細かくて柔らかいパン」を選んで買ってきたものだ。

「イチゴを入れるフルーツサンドは、3月下旬ごろからイチゴの箱売りが出始めると作りたくなりますよね。普段は、ゆで卵を刻んでマヨネーズで和えたのにハムとキュウリを挟むなどの定番が多いんですけど。先日、北海道の友だちからアスパラが届いたので、茹でたアスパラを挟んでみたら、すごい断面がきれいだったのですよ。今日のイチゴも色と形を重視で選びました。イチゴが小っちゃい方が切り口がきれいだから、酸っぱいと思うけど、今日は丸ごと挟んで縦に切ろうと思って……。大きいイチゴだったら輪切りにして挟んでも良いんですけどね」

先が細くなった小さめのイチゴを一つずつ洗い、ペーパータオルで丁寧に水気を拭き取っていく。

|「大事なのは、洗ったイチゴの水をきれいに拭き取っておくことかな」

志織さんが独り言のように呟いている。イチゴのヘタを切り取り、バナナを5ミリほどの厚さで輪切りにした後、パンの耳を2枚重ねて切り落とす。

|「切り落としたパンの耳は、時間がある時にフードプロセッサーで砕いてパン粉にしておくと重宝しますよ」

さて、これで準備は整った。ここからが、パンに塗る肝心のクリーム作りである。

ひと晩しっかり水切りしたプレーンヨーグルトに、蜂蜜100グラムを加えて泡立て器で混ぜ合わせる。

|「最初、蜂蜜の量は80グラムぐらいでも良いかなって思ったんです。昨日、試作して味を見たんですけど、たっぷり目に蜂蜜が入ってて水切りヨーグルトに蜂蜜の味と香りがした方が美味しかったです。イチゴの酸っぱさを和らげるというのもあるので、中に挟むフルーツが例えばマンゴーだと100グラムも入れなくても良いかも知れないですね。蜂蜜はヨーグルトの酸味を消す役割もありますけど、砂糖ではなくて、蜂蜜を使うのは蜂蜜とヨーグルトの相性が良いからなんですよね。蜂蜜に含まれる糖分がヨーグルトのビフィズス菌の餌となって、腸内での働きが活発になるんです。もう一つは、蜂蜜の甘みは砂糖より強いのにカロリーは砂糖の3分の2ぐらいというのも魅力ですよね」

純生クリームは、大きめのボールに入れてハンドミキサーで形が残る固さまで泡立てる。それに、蜂蜜を混ぜた水切りヨーグルトを加えて混ぜ合わせると、パンに塗るクリームは出来上がりだ。

「サンドイッチは3等分に切るから、切り口がきれいに見えるように意識してイチゴとバナナを並べますね。切り口から見えるのはイチゴだけですけど……。パンの内側にクリームをたっぷり塗ります。後は、パンが乾燥しないようにラップして最低30分ぐらいは冷蔵庫で冷やし、クリームがしっかりしたところで3つに切れば完成です。パン一斤あれば6組できるから、フルーツサンドって沢山は食べられないので6人分はあるかな。サンドイッチは週に一回ぐらいします。娘の詩(うた)が中学生になって、お弁当が始まったので普通の卵やハムのサンドが多いけど、デザート系のサンドを1個か2個は必ず入れます。水切りヨーグルトを使うと良いのはお弁当に持っていけることですね。生クリームだけだと冷蔵しておかないとクリームが溶けてしまいますから」

プレーンヨーグルト

 

百花蜂蜜

純生クリーム

サンドイッチ用食パン

イチゴとバナナ

■ イチゴとバナナのフルーツサンド

      材料(6人分)

400グラム

 (水切りする前)

100グラム

200cc(脂肪分48%)

1斤(12枚切り)

適量

(又は、季節のフルーツ)

桑原 志織(くわはら しおり)

栄養士。1976年宮崎市生まれ。福岡女子短期大学 食物栄養科卒業。観光で訪れたフランスで出合った食材や菓子の色鮮やかな魅力に取り憑かれ、料理と菓子の勉強を始める。その後もパリ近郊の料理教室を受講するなどして、研究を続けている。現在は一女を育てながら、宮崎市の欧州料理レストラン「ボンターブル」のデザートとケータリングを担当。現在は、ケータリング料理ラボを立ち上げるため準備中。

イチゴの鮮やかな赤ときれいな切り口が表現された小ぶりのフルーツサンドをひと口頬張る。ふわっと柔らかいパンの食感。イチゴの酸味が舌の付け根を刺激するが、クリームの甘みが追いかけるように酸味を包み和らげてくれる。フルーツサンドは溶けるように口の中から消え、残るのはクリームと蜂蜜の香りだけだ。

サンドイッチで思い出すのは、私が小学生の頃の運動会の弁当だ。午前中の競技が終わると、運動場のトラック周りに陣取った子どもたちと家族が敷物を広げて一斉に弁当の時間が始まる。母が朝早くから準備した重箱に、いなり寿司と巻き寿司、それに唐揚げと卵焼き、カマボコが定番。その他に、タッパーに必ず詰められていたのがハムとキュウリのサンドイッチと卵サンドだった。トマトの薄切りが挟んである時もあった。

実は、このサンドイッチが苦手だった。パンが湿っぽくて甘くない。じとじとして甘くないパンは、喉を通っていかなかった。母が朝早くから私を喜ばせようと作ってくれたサンドイッチを、美味しく食べられない後ろめたさは私のトラウマとなって、未だにサンドイッチは苦手な食べ物の一つだ。

香りだけが残り、溶けていくように口の中から消えた志織さんのフルーツサンドが、私のサンドイッチに対するトラウマを解消してくれたかも知れない。

① ヨーグルトは前夜から水切りをしておく

② 洗ったイチゴの水はしっかり拭き取る

③ 水切りしたヨーグルトに蜂蜜を加える

④ ヨーグルトと蜂蜜を良く混ぜ合わせる

 

⑤ 生クリームを形が残るまで泡立てる

⑥ 4と5を混ぜ合わせ、たっぷりパンに塗る

⑦ フルーツを並べ、クリームを塗った

    パンで挟む

⑧ ラップして30分以上冷やす

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