2016年(平成28年8月) 14号

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桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・暖かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

 イタリア南部の寂れた漁村にポツリと建つ小さなレストラン。窓辺に置かれた正方形のテーブルには深いグリーンのテーブルクロスに純白の小さなオーバークロスが掛かっている。水滴が流れ落ちる冷えた水のグラスと赤ワインのグラスが一つずつ。私は、本日のメインディッシュ「地鶏とイチジクのロースト 赤ワインと蜂蜜のソースで」を待っている。

 桑原研郎シェフは、ミルクパンに赤ワイン200ccを注ぎ、それに蜂蜜大さじ2杯を加え、強火のレンジに掛けて柄の長いスプーンでかき回し続けている。

 「ひたすら加熱するだけです。結構煮詰めるんですよ。もう泡立ってきましたね。3分の1の量になるまで煮詰めます。赤ワインはあまり高級でない方がいいですね。色が薄いというか、ミディアムボディとか言いますけど、渋みのないサラッとしたワインが蜂蜜の甘みと合わさって肉との相性がいいんです」

 ミルクパンをスプーンでかき回すシャーシャーという音が、厨房の静けさを一層際立たせている。ブクブクと泡立ってもしばらくは加熱を続ける。相当煮詰まったところで火から下ろし、加えた無塩バター5グラムを完全に溶かすように丁寧にかき混ぜる。バターを溶かすとわずかにとろみが付いたようだ。最後に塩コショウを少々加え、常温で置いておく。これでソースは完成だ。

 研郎シェフは、地鶏もも肉の両面に十文字の切れ目を入れ、両面に塩コショウをする。ピュアオリーブオイルを熱したフライパンにニンニク半かけを潰して投げ入れ、オリーブオイルに香りを付ける。

 「肉を入れます。皮の側から入れます。油の量は少ない方が良いです。鶏肉の皮からドンドン脂が出てきますから。中火でじっくり焼いていきます。皮目をパリパリにしたいんです。中まで火を通すのが難しいんですよ。蓋をして中まで火を通しますね」

 蓋を被せて中火で焼き続ける。「イチジクを切ります」。研郎シェフは、フライパンを火に掛けたまま、「まだ、熟れてないですね」と呟きながらイチジク一個を皮ごとくし形に切っていく。

 「オッオーッ」。フライパンの蓋を取ると、ぶわっと蒸気が噴き出してきた。ジジジジーッと肉の焼ける音が響く。研郎シェフが、竹串を肉に刺した後、唇の下の窪みに押し当てて熱さを確かめている。「いいかな」と呟くと、無塩バター5グラムをフライパンに入れ、くし形に切ったイチジクを入れて、バターでイチジクの皮を焼くような感じで少し熱を加える。「よし、これで良いと思います。盛り付けます。肉は半分に切ります。ばっちり火は通ってます。いい具合です」と、研郎シェフ。地鶏とイチジクを大きな皿に盛り付け、赤ワインと蜂蜜のソースを上から垂らすと完成だ。

 「宮崎の食材を使いたくて地鶏の肉を使いましたけど、相当硬いですね。地鶏は手に入り難いし、若鶏の方が良いですね。肉でも魚でも一番美味しいのは皮と身の間ですよね。イチジクはあまり完熟より、これで良かったのかも知れませんね。熱しますからね」

 研郎シェフは地鶏の硬さが気になるようだ。私は、まず蜂蜜を使った赤ワインのソースをスプーンですくって味わってみる。

 バターの香りが鼻に抜ける。ほんのりとした甘みと酸味、それに苦みまでも僅かに感じる。絶妙のバランスだ。いよいよ地鶏にナイフを入れて、ひと口味わう。皮はパリパリで香ばしいが、研郎シェフの言うように肉の硬さはやはり気になる。イチジクを一切れ口に入れて衝撃が走る。地鶏の硬さを感じていただけに、イチジクが口の中でとろけていくように柔らかい。食感の落差の衝撃とでも言うのだろうか。

 ふっとレストランの窓から漁港へ目をやると、年老いたひとりの漁師が操縦する木造船が入江を回り込んで姿を見せたところだった。さあ、あの無精髭の漁師と一緒に、地鶏とイチジクのローストを赤ワインと蜂蜜のソースで戴くことにするか。このイチジクの旨さに彼もきっと驚くことだろう。

 そんな旅の夢を抱かせてくれる魅力が、この料理にはあった。

① 赤ワイン200ccをミルクパンに

② 蜂蜜を大さじ2加える

③ 3分の1になるまで泡立て煮詰める

④ 火から下ろして無塩バターを溶かす

 

⑤ 地鶏に十文字の切れ目を入れる

⑥ 地鶏の両面に塩コショウを少々

⑦ ニンニクの香りが付いたら皮側を下に

 

⑧ 蓋をして肉の中まで火を通す

⑨ 肉を焼く間にイチジクを切る

⑩ 肉に竹串を刺して火の通り確認する

⑪ 無塩バターとイチジクを加える

⑫ イチジクの皮をバターで焼き火を止める

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