2016年(平成28年10月) 16号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/ 編集:ⓒリトルヘブン編集室
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桑原志織さんの「栗のカトルカール」
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|「カトルカールというのはフランス語で、カトルは4、カールは4分の1という意味で、無塩バター125グラムと砂糖125グラムと卵125グラムと粉125グラムというように、4つの材料を同じ量ずつという意味なんです。レモンのカトルカールとか色々なカトルカールを作りますけど、栗のカトルカールは栗の甘さがあるから砂糖を減らして、キビ砂糖75グラムと蜂蜜25グラムとで100グラムにしています」
|栗の渋皮煮を丸ごと入れたパウンドケーキと言う方が分かりやすいかも知れないが、フランスで料理に目覚めた桑原志織さんにとっては、パウンドケーキではなくカトルカールなのだ。
|「栗の渋皮煮は3日間ぐらい掛けて作るんですけど、火を入れては冷まし火を入れては冷まし、お鍋の中に置いたまま繰り返すと、冷める過程で味が浸みていくんですね。普通の煮物でも加熱している時ではなく、冷めていく時に味が浸みていくんです。渋皮煮は、すぐには間に合わないので先に作っておいたものを使いますね」
|志織さんが揃えた材料を並べてみると、大きな栗の渋皮煮がひときわ存在感を主張している。
|「バターと卵は、早めに冷蔵庫から出して室温に戻しておきます」
|大きめのボールに入れた無塩バター125グラムを、泡立て器でシャカシャカとクリーム状になるように練っていく。そこにキビ砂糖75グラムを加えてシャカシャカと練り、さらに蜂蜜25グラムを加える。志織さんが溶いた卵を秤に乗せると126グラムあった。
|「ちょっと多いですね」と、1グラム分の卵をスプーンで掬い取る。続いて、薄力小麦粉75グラムとアーモンドプードル50グラム、合計125グラムの粉とベーキングパウダー2グラムを篩(ふるい)に掛ける。
|「ほんとは粉は前もって合わせておくんです。毎回、出来が違っても困るから、材料はきっちり計ります。一遍に入れてしまうと分離して膨らまないことがあるので、バターと砂糖を練った中に卵と粉を交互に、何回かに分けて入れますね。ちょっと空気を含ませるようにかき混ぜます。どっしりしているんだけどフワッと立ち上がらないと、美味しくないので……。最後にラム酒を入れます」
|これで生地は出来上がりだ。材料を合わせてかき混ぜるだけのようだが、正確に材料を計る、何度にも分けて少しずつ加えていくなど、簡単そうだが厳密が求められる。
|クッキングシートを敷いたケーキの型に生地を1センチほど敷いて、その上に栗の渋皮煮を並べ、その上から更に生地を流し入れ、最後はゴムヘラで上を平らに均していく。
|「中に気泡が出来たりするので、高い所から5回ぐらい落として空気を抜きます」と、生地の入った型を両側から挟むように持ち上げて、10センチほどの所からトンと落とす。いよいよオーブンで焼く段階まで辿り着いた。
|「200℃で予熱をしていたんですけど、180℃に下げて、オーブンの下の段に入れて焼きます。長く焼くので、上の段だと火が近すぎて表面だけ焦げて、なかなか火が通らないから180℃に下げて、10分10分と様子を見ながら50分間焼きます」
|そう言いながら志織さんは、最初の10分のタイマーを掛ける。最初の10分が終わると、オーブンの中で型の前後をひっくり返して、さらに10分間焼いた。
|「今、20分焼いたところなんですけど、ここで一つすることがあって、まだ中は全然焼けてないんですけど、ここで膨らむ部分を開けてやるんですよ。そうすることで火が通りやすくなって中も焼けやすくなります。それに10分毎に前後をひっくり返してやるとむら無く焼けますよね」
|膨らみ掛けている生地の上に縦に包丁を入れ、さらに10分のタイマーを掛け、10分後に型の前後を入れ替えた。40分間焼き上げたところで、型の上から包むようにアルミホイルを被せる。
|「これからが最後の10分です。もうけっこう膨らんできているんですけど、これで焼き色は良くなっていますから、アルミホイルを掛けて残り10分を焼きます。何回も試して、『これだ!』という自分のレシピを持ってないと、分量が違うと焼き時間も違ってくるし、毎回焼き上がりが違うと嫌ですから」
|お菓子作りは、材料の正確な計量と厳密な時間管理が必須のようだ。50分間が経った。ようやく焼き上がった栗のカトルカール。それまでは時間管理に気を取られていて気付かなかったが、何時しか厨房にはバターの焼ける匂いなのか、ほんわりと幸せを感じさせるカトルカールの香りが漂っている。
|「念のために竹串を刺してみて、何も付かなかったら焼き上がりですね」
|すっかり冷ましてから、さっそく戴いた。栗と生地を一緒に頬張る。栗の柔らかさと生地の柔らかさがしっとりと程よく、食べ終わると栗の風味が口の中に残った。志織さんが「しっとり」の訳を教えてくれた。「蜂蜜を加えたことによってしっとりします。栗と蜂蜜が合いますよね。端っこも食べてみてください。なかなかお客さんには出さないけど、端っこが美味しいですから」。なるほど、少し焦げ目のある外側を食べるとサクッと香ばしく、外側には外側の美味しさがある。昔、どこかで聞いたことがある「一粒で2度美味しい」という宣伝文句を思い出した。
桑原 志織(くわはら しおり)
栄養士。1976年宮崎市生まれ。福岡女子短期大学 食物栄養科卒業。観光で訪れたフランスで出合った食材や菓子の色鮮やかな魅力に取り憑かれ、料理と菓子の勉強を始める。その後もパリ近郊の料理教室を受講するなどして、研究を続けている。現在は一女を育てながら、宮崎市の欧州料理レストラン「ボンターブル」のデザートとケータリングを担当。現在は、ケータリング料理ラボを立ち上げるため準備中。
① 材料を揃え計量しておく
② バターと砂糖を混ぜ合わせてクリーム状に
③ クリーム状になったバターに蜂蜜を加える
④ 割った卵を正確に計量する
⑤ 小麦粉とアーモンドプードルをふるう
⑥ 溶いた卵と粉を数回に分けて交互に
⑦ ケーキ型に3分の1ほど生地を敷き栗を
⑧ 栗の上にも生地を入れ型を満たす
⑨生地を入れた型を持ち上げトンと
数回落とし空気を抜く
⑩ 200℃に予熱し180℃に下げて下段で
焼き始める
⑪ 10分ごとに型の前後を入れ替えて焼き、
20分後に真ん中に切れ目を入れる
⑫ オーブン下段で50分焼き終わると竹串を
刺して熱の通りを確認する
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