2016年(平成28年12月) 18号

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 「ちょうど今日、冬至なんで、柚子本来の味と香りを楽しむシンプルな料理を作りますね。お正月に使う日本の伝統的な料理になります。編み笠柚子といってですね、近ごろは阿波踊りで被っているのを見るくらいですけど、顔をすっぽり覆うような鳥追笠の形に柚子を仕上げます」

 和食シェフ吉岡良祐さんは、こう説明すると拳ほどの大きさの柚子2個を籠から取り出し、ヘタの部分を包丁の先でくり抜いた。

 「この編み笠柚子というのは、柚子料理の中でも特殊で、実と表面の黄色い皮の間の白皮の部分だけを使った料理なんです。それで、表皮を薄く剥いていくんですね。ほんとはですね、おろし金で皮を削ってもいいんですよ。でも、ぼくは、柚子の皮を別の料理に使いたくて包丁で剥きますけどね。家庭でやる時には、おろし金で表面を削るほうがやりやすいですね」

 吉岡シェフは、柚子の皮剥きに集中しているのか、突然無口になった。柚子の黄色い表皮が、透けるように薄く長く、包丁を持つ親指の辺りから湧くように出てくる。

 「今日は2個だけにしますが、あまり少ないと香りが弱くなってしまいますんで、たくさん炊くのとちょっとだけ炊くのでは美味しさが変わってきます。最低でも2個は必要ですね。表皮が剥けたら、真ん中から半分に割ります。今回は、実も種も取り除きます。今日使うのは、白皮だけです」

 吉岡シェフは再び無口になって、スプーンで実の袋の部分を掬い取るように、白皮から取り除く。じっと手元を見つめている私に、「薄皮を破らないように慎重にですね」と呟く。

 「今度はですね、米の研ぎ汁で、この柚子を茹でていきたいんです。そしたら色も綺麗に出るし、モチモチ感が出ますね。米の研ぎ汁がない場合は、生米で代用しても良いですね。生米を入れることによってモチモチに仕上がりますね。火を点けます。ちょっと時間がかかります。研ぎ汁の量と柚子の量とは、あまり関係ないですけど、研ぎ汁が少ないと、柚子同士がくっついちゃいますからね。ここは、炊くではなく茹でるです」

 強火で10分間ほど茹でていると、柚子の色が出てきた。

 「クッキングペーパーで作った落とし蓋をします。対流を良くするんですね。落とし蓋をすることによって、柚子全体をボイルできます。落とし蓋がないと柚子が浮いちゃうんですよ。落とし蓋は重い必要はないですよ。鯛のあら炊きなどをする時には、逆に軽い方が上の身に照りが乗ってくれるんですよ」

 火を点けて15分ほどしたら、強火から中火に切り替える。

 「最初から落とし蓋をしてても良かったんですけど、ガンガン湧いてきたら、それ以上の温度にはならないんで、それを維持できる火力にしておけば良いんです。電気代(ガス代)が勿体ないんで」

 最終的に茹でた時間は、24分間だった。茹で上がった柚子の白皮を、破らないよう慎重に水を張ったボールへ移す。

 「流水で晒していきます。白皮の内側に筋があるんですね。これを竹串で持ち上げるようにして取り除いていきます」

 又も、吉岡シェフはしばらくの間、無言で集中している。

 「この筋を取らないと、口に触るというか、ちょっとざわつきがあったりしますから。丁寧に取り除きます。次に、和食では、同蜜と言うのですが、同じ量の水と砂糖それぞれ150ccで炊いていきます。ここからは、鍋の砂糖水が湧いて水分が無くなるまで煮詰めていくだけですね。これも落とし蓋をして、沸騰したら火を弱めて沸騰状態を保っていきますね」

 しばらくすると、砂糖水が泡立ち始めた。泡の力が落とし蓋を鍋の上まで持ち上げている。吉岡シェフは時折、落とし蓋を外して、柚子の状態を見ながら煮詰まっている砂糖水をスプーンで柚子の上に掛けている。同蜜で煮詰め始めて20分余。

 「最後の仕上げをしていきます。ここで蜂蜜を加えます。ああ、いい匂いですね。蜂蜜が柚子の香りを引き寄せるというか、急に香りが変わりましたね」

 吉岡シェフが、その香りの変化に感激の様子だ。

 「時間を掛けて炊くことによって、もっともっと透明なきれいな飴状の柚子ができるんですね。ほんとは、柚子をたくさん入れて柚子の成分をもっと出した方が良かったですね。通常だったら、鍋が冷えてから一旦柚子を取り出して並べ、冷蔵庫で寝かせます。これは柚子の保存食なんで、出来上がったから『はいどうぞ』という料理ではないです」

 そう言われながらも、今回は鍋を氷水で冷やして貰い、出来上がったばかりの「編み笠柚子」を、さっそく一つ戴く。

 煮詰めた割りにはふくよかな存在感があり、爽やかな甘みが口に広がった。その甘みが、一瞬のうちに柚子の香りだけを残してスーッと抜けていく。上品だ。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修行し、3年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。

① 柚子の表皮を薄く剥く

② 半分に割り実と種を取り除く

③ 落とし蓋をして研ぎ汁で茹でる

④柚子の白皮の茹で具合を確かめる

 

⑤ 茹でた白皮を流水に晒す

⑥ 白皮の内側の筋を丁寧に取る

⑦白皮の形を整え150ccの水を加える

⑧水と同量の白砂糖を鍋に加える

⑨ 落とし蓋をして炊き詰める

⑩煮詰める途中で煮汁を上からかける

⑪ 煮詰まってから最後に蜂蜜

⑫ 煮詰まった柚子の白皮

■クッキングペーパーで落とし蓋を作る方法

 クッキングペーパー(正方形)を2つに折って、更に2つに折る。最初の4分の1の正方形に折ったクッキングペーパーの閉じている角を先端にして、対角線を谷にして2つに折り三角形にする(写真①)。それを更に2つに折り、細長い三角形を作る(写真②)。鍋の大きさによっては、更に2つに折って細長い三角形を作る。その細長い三角形の頂点を、使用する鍋の中心に置き、鍋の縁に合わせて三角形の底辺を折る(写真③)。その折り目を鋏で切り落とした後(写真④)、三角形の両側の辺に数カ所の切目を入れて空気抜きを作る(写真⑤)。最後に、三角形の頂点を少し切り落として開くと、使用する鍋の大きさにピッタリの落とし蓋が出来上がる(写真⑥)。

 「この落とし蓋は、使用する鍋の種類、大きさを問わないんです」と、吉岡シェフ。

① クッキングペーパーを対角線で折り、

    三角形に

② 閉じた角を頂点にして更に折り、

    細長い三角形に

③ 鍋の中心に三角形の頂点を合わせ裾を

    鍋縁で折る

④ 鍋の縁に合わせて折った三角形の裾を

   切り落とす

⑤ 三角形の両辺に数カ所鋏を

    入れ空気抜きを作る

⑥ 三角形の頂点を少し切り落とし

    広げると完成

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