2017年(平成29年1月) 19号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/ 編集:ⓒリトルヘブン編集室
〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203
桑原研郎シェフの「パプリカとジャガイモの滑らかスープ(パッサート)」
1 - 1
<
>
桑原 研郎(くわはら けんろう)
1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・暖かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。
「ぼくは高校の時、乗馬をしてたんですよ。その時の職員だった方が、退職してから自分の畑を半分潰して馬を飼ってですね。それで馬が藁の上に糞を出すじゃないですか。それを堆肥にして循環型の農業をしてるんですよ。ジャガイモやらキャベツ、白菜を作って、出来たから取りに来いって言ってくれるんです。今日は、その方のジャガイモを使いますね」
研郎シェフがジャガイモの皮をピーラーで剥きながら、青春時代のひとこまを思い出したように声を弾ませて話し掛け、調理が始まる。
皮を剥き終わったジャガイモ3個は、炒めやすい大きさに切っておく。
「次はパプリカ、五島列島のパプリカです。種をきれいに取ります。種の周辺の白い綿のような部分もきれいに取ります。綿が残っていたら、苦みが出てきますね。料理の差って、こういう細かいところで出てきますよね。パプリカの色は、ぼくが黄色が好きなんでしょうね。黄色い野菜を扱っているだけで、ちょっと元気になるんですよね」
パプリカ3個も乱切りにして、ジャガイモと一緒に炒めるのだが、その前にニンニクを炒めて香りを引き出しておかなければならない。
「ニンニクは芯がありますから、これを取ります。で、包丁の腹で押し潰して刻むとみじん切りが出来ちゃいます。この方法が香りが立ちますね」
無塩バター10グラムとピュアオリーブオイル適量の両方でニンニクを炒める。
「弱火です。冷たい温度から弱火でニンニクを炒めて、香りを出していきます。ニンニクはすぐ焦げちゃうんですよ。ニンニクを炒める時間を判断するのは香りです。色よりも香り。このニンニクの香りが食欲をそそりますよね。お腹いっぱいなのに、何か食べたくなるんですよ。キツネ色になったら炒め過ぎなんで、香りが立ったなあと思ったら、パプリカとジャガイモを入れます。新しい素材が鍋に入ると、熱はその素材の方に行っちゃうんで、ニンニクにはそれ以上火が通らないんです。炒めるということは、素材が持っている水分を取り出して、甘みを引き出すことなんですね。ニンニクの香りが染み込んだオリーブオイルを素材に絡ませたら、強火で炒めます」
「しばらく炒めます。地味な作業が続きます」。研郎シェフは木のヘラで丁寧に鍋のパプリカとジャガイモをかき回し続けている。
「ジャガイモは、まだ硬いですが、ここで水をヒタヒタまで入れます。コンソメを1個入れます。そしてローリエも1枚。これが入ると入らないでは全然違いますからね。これで中火にして、しばらく煮込みます」
グツグツと煮て10分以上は経っただろうか。充分に煮えたら鍋の火を止め、熱を冷ます。ローリエは、この時点で取り出しておく。粗熱が取れたら、鍋の材料をフードプロセッサーに入れ攪拌する。容器にへばり付いた材料をヘラで削ぎ落としながら、2、3度攪拌すると、ほとんどスープの出来上がりだ。しかし、ここからが「滑らかスープ(パッサート)」の本番だ。フードプロセッサーで攪拌しスープ状になった材料を、研郎シェフはシノワと呼ぶ器に入れてスリコギでゴシゴシと裏漉しを始めた。シノワが無ければ、細かい目のザルでも良いのだが、ともかく裏漉しを丁寧にしなければならない。パッサートとは、裏漉しという意味のイタリア語なのだそうだ。つまり、今回の料理の核心は、この裏漉しにあったというわけだ。先ほどから無言でゴシゴシとシノワに入れた材料をしごいていた研郎シェフが、シノワの底に溜まった黄色くねっとりしたものを見せる。
「これがパプリカの皮です。これは使えない分です。もう完成に近づきました。裏漉しした材料を温め直すと、もうスープです」
裏漉しした材料を手鍋に移して、もう一度弱火に掛ける。小さじでひと掬いして味を見た研郎シェフ。「うめーっ!すごい、滑らか。なかなかこんなスープ……。良かった。よし!」。興奮気味だ。「自分で作ってて嬉しい!」。そんな研郎シェフの様子を見てると、こちらまで嬉しくなってくる。
「ここで蜂蜜を加えます」と、弱火に掛けた手鍋に、最初大さじ1杯ほどの蜂蜜を加えた。よくかき回して味を見た研郎シェフ、「まだ、入れても良いですね」と、さらに大さじ半分ほどの蜂蜜を加える。ここで蜂蜜を加え過ぎると、全てが台無しだ。慎重を要する。再度かき回して味を見た研郎シェフ、納得の表情だ。
「これはパプリカの甘みを引き立たせる料理なんです。これを食べた人は、パプリカってこんなに甘いんだと感じて食べると思うんですよ。だから、ある程度蜂蜜の誘導もあって甘みが引き立ってないと意味がないところがあります。そのためには、砂糖ではなく蜂蜜でなければならないんですね。塩を一つまみ入れます。塩も塩分の立たない、天然の岩塩を削った塩を使います。尖った塩味じゃないんですよね、この塩は」
さらに手鍋をかき回して、味を見た研郎シェフ。「美味しい!大丈夫です。盛り付けます」。スープ皿に盛り付けると、パルミジャーノチーズを削って振り掛け、黒胡椒をカリカリと潰して掛けた。
優しい色合いの「パプリカとジャガイモの滑らかスープ(パッサート)」を、木製スプーンで掬って口に運ぶ。食べるというより、スープが舌に吸い込まれていく感じ。口の中で溶けていくような不思議な食感だ。あまりに柔らかく優しいスープなので、もの足りなさを感じなくもない。
そんな私の表情を察知した研郎シェフ、「今日は、スープで食べていただいたんですけども、パスタに絡めても良いし、白身魚のソテーの上に掛けてもらっても良い、汎用性のあるソースなんですよ」と、教えてくれた。
① パプリカなどの材料を揃える
② 種と綿もきれいに取って乱切りにする
③ ニンニクを包丁の腹で押し潰す
④ バターとオリーブオイルでニンニクを
炒める
⑤ ニンニクの香りが立ったら材料を加える
⑥ 香りを絡め熱が通ったら水を加える
⑦ コンソメ1個とローリエ1枚を加える
⑧ 充分煮えたらフードプロセッサーに掛ける
⑨ スープ状になった材料を裏漉しする
⑩ 裏漉しで残ったパプリカの皮は捨てる
⑪ 裏漉ししたスープに蜂蜜を加える
⑫ パルミジャーノチーズを削り掛ける
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi