2014年(平成26年)10月・2号

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岡山県苫田郡鏡野町 山田養蜂場

ローヤルゼリー採集の日、朝日の中で巣箱から王台を取り出す

今年最後のローヤルゼリー採集

ローヤルゼリー採集の最盛期だった盛夏に養蜂部を訪ねてから3か月後、2度目に訪ねた10月上旬には、今年最後の採集を行うと、景山さんから聞いていた。

吉井川が眼下に蛇行する塚谷の養蜂場は、巣箱の周りの草むらが朝露に輝いていた。秋の深まりを感じさせ、空気が清々しい。

「一般的には9月に入ったら、もうローヤルゼリーの採集はやらないんじゃないかな。10月に入ってからは、日本のどこでもやってないと思いますよ。最盛期からみると、量が半分以下になってるんで。4月終わりごろから始めて、最盛期は7月中旬。8月の一か月間は、ダニ退治の期間なのでローヤルゼリーの採集は休んでます」

10月6日の採集作業は、景山さんや塚元謙志さん(28)など3人だった。それぞれが一連の作業を同時に進めていく穏やかなチームワークである。朝露でしっとりしている巣箱の蓋を開けると、王台が並ぶ移虫枠をそっと抜き取る。夏の最盛期には、30個ほどの人工王台を付けた桟を5、6本ほど移虫枠に挟み込んでいたが、この季節になると2本だけになっていた。抜き取った移虫枠にびっしりと集(たか)っている蜜蜂を、景山さんがハチブラシでそっと追い払った。蜜蜂を扱う様子を見ていると、蜂を騒がせないように注意を払い、一つ一つの動作を急がないでゆっくり行っているのが分かる。

繊細な集中力で移虫作業

塚谷養蜂場の作業小屋は、おとぎ話に出てくるような緑色の小さなテントだ。巣箱から取り出した移虫枠を、作業小屋に運び込むと、蜜蜂が王台に被せた蜜ロウを削り取るなどの下準備をした後、ローヤルゼリーの採集が始まった。蜜蜂の侵入を防ぐために網を張った窓辺で、景山さんが採集作業をしている。膝の上に載せた王台を手前から向こうへ、向こうから手前へひねりながら、ずらりと並んだ王台一つずつからローヤルゼリーをすくい取っていく。両膝に挟んだプラスチック製の容器の縁にヘラの先を擦りつけて、小指の先ほどのローヤルゼリーを中に落とす。その瞬間には、次の王台のローヤルゼリーをすくい上げているように見える早さだ。

その傍らで塚元さんが、ローヤルゼリーを採って空になった王台に、生まれたばかりの幼虫を巣房から移す移虫作業を進めていた。王台に幼虫が居ることで、若い働き蜂がローヤルゼリーを溜めようとする自然界の営みを、人為的に行わせるためである。体長1ミリほどの幼虫を移虫針ですくい取り、移虫針のバネを押して王台の中へ幼虫を押し出す。塚元さんの移虫作業も、ほとんど目に止まらぬ早さだ。誰もが、自分の手元に意識を集中しているため、緑色の小さなテントの中は、声を掛けるのさえためらうほどの静かな緊張感が漂っていた。

巣箱から取り出した王台

王台からすくい取ったばかりのローヤルゼリー

巣箱に移虫枠を収め、網ぶたを軽く叩いて蜜蜂を追い払う

人工王台の付いた移虫枠を、巣箱から抜き取って作業小屋へ運ぶ

女王蜂のフェロモンが群れを維持する

ローヤルゼリーは、女王蜂がサナギになるまでの食べ物であるが、厳密に言えば、幼虫のすべてが生まれて最初の3日間はローヤルゼリーを食べている。しかし、王台に居る女王蜂になるべき幼虫だけが、4日目以降もローヤルゼリーを与えられ、働き蜂となる幼虫に与えられるのは花粉と蜜を混ぜた食べ物に変わる。女王蜂が、働き蜂に比べて寿命が30倍以上にもなり、毎日2000個ほどの卵を産み続ける能力を獲得するのは、唯一のエネルギー源としてローヤルゼリーを摂取し続けるからなのだ。

自然界の蜜蜂社会は、次世代の女王蜂と働き蜂を育てつつ、女王蜂の存在をフェロモンの匂いで共有して維持されている。もし、何らかの理由で卵を産む女王蜂が居なくなれば、群れは、自分たちの社会の消滅を避けるために新しい女王蜂を誕生させなければならない。その切実な行動が、幼虫の居る働き蜂の巣房にローヤルゼリーをせっせと溜めることなのだ。この自然界の営みをうまく利用してローヤルゼリーを採集するのが養蜂の技術である。

しかし、実際に、女王蜂が居ない状態にすると、幼虫を産み続けることができなくなってしまうので、養蜂家たちは、女王蜂を下段の巣箱に入れておいて、上段の巣箱との間に隔王板(かくおうばん)と呼ぶ板を挟み、女王蜂を上段の巣箱へ移動できないようにしておく。そうすることによって、上段の巣箱では女王蜂のフェロモンが薄くなって、働き蜂は女王蜂が居ないと錯覚してしまう。そういう状態にした巣箱に、生まれたばかりの幼虫を移虫した人工王台を入れると、自然界と同じく新しい女王蜂を誕生させようとして、若い働き蜂がローヤルゼリーを溜め込んでくれるという訳だ。

人工王台からローヤルゼリーをすくい採る

1ミリの幼虫を扱う移虫作業は、慎重を要する

人工王台に移す前の生まれたばかりの幼虫

幼虫を移し終えた枠を持って巣箱に戻しに行く

若い蜂がローヤルゼリーを溜める

若い働き蜂がローヤルゼリーを溜め込むのは、移虫してから72時間までがピークとされる。そのため養蜂家は、最も効率の良い3日間周期でローヤルゼリーを採集し続けている。沢山の卵を産む女王蜂が巣箱に居る状態を作ることによって、3日間周期の採集が可能になるのだ。卵を沢山産めるとは、どのような状態を指すのだろうか。加藤さんの説明では「蜜がほどよく溜まっていて、卵を産み付ける空の巣房があって、育児する若い働き蜂が居て、蜜を集める外勤蜂も多い」状態だ。

「蜂を減らさない状態を作っておくことが重要で、沢山の群れでその状態を維持するのは結構大変ですし、難しいです。若い蜂が重要なんです。若い蜂がローヤルゼリーを出してくれますので。若い蜂というのは、生まれて5日目から10日目くらいですかね。蜂の寿命は、夏だと40日間くらいで、秋になると50日間ぐらいはいけるんじゃないですか」

およそ80箱もの巣箱を一か所で管理している加藤さんは、ローヤルゼリーを継続的に採集できる蜜蜂の状態を維持することに挑戦し続けている。

移虫針の先に載せた幼虫を人工王台に移す

塚谷の作業小屋で、気持ちを集中して移虫作業をする小関さん

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