2017年(平成29年2月) 20号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203

 お休みの日のカフェ山猫は、静かだ。板張りの床にコツコツと靴音が響く。店の奥から料理家あさみ智子さんの快活な声が聞こえてきた。

 「台湾帰りだから、私。今日は、台湾でお粥と同じくらい常食されているおやつを作りますね。『とうふぁ』って言って、豆の花って書くんです。お豆腐に甘いぜんざいみたいなのが掛かっているんですけど、掛かっているお豆さんを選べるんです。白とか緑とか黒豆とか色んな色の豆、5種類ぐらいあって一杯150円ほど。今日は、それをベースにしたおやつ。温かくしても食べられて、ぬるくても冷やしても食べられるから」

 健康志向の台湾料理に感激したあさみさんは、まだ旅の余韻が冷めやらぬようだ。

 「私、お豆大好きだし、油なしだからすごいヘルシー。トレッキングに行った時にも茶屋があって、豆花はもちろん、肉まんやあんまんみたいなものの専門店があるんです。そんなちょっとしたおやつでも、すっごく体にいいものなんで、そこが台湾の気に入っているところなんですね。食文化は何でもあるんですよ。広東料理だったら豚が丸ごと下がっていたりとか、韓国系の店だったら牛肉の料理とか。でも私、肉を食べないので、野菜や穀物類を選ぶんですけど、その幅が広いんですよね。オイルが入ってないっていうのは、昔の日本、鎌倉時代の食事みたいで、今の日本では失われた食文化ですよね」

 地元宮崎県綾町で採れたオーガニック素材を扱うレストランを経営しているあさみさんのこだわりが伝わってくる。

 「始めにココナッツミルク豆腐を作っておきますね。ココナッツミルク200グラムと豆乳200グラム。この豆乳は、近所の豆腐屋さんの豆乳やから、普通の豆乳より濃いんです。ココナッツミルクも通常のものではなくて、オーガニックのものだからサラサラしてないんですよね。それに粉寒天を5グラム混ぜて、フツフツとなるまで少し炊きます」

 ココナッツミルクと豆乳に粉寒天を混ぜ、塩をほんの少々加えた白い液体を、片手鍋に入れて中火より弱めの火に掛けてかき回していると、ほどなく鍋の縁が小さく泡立ち始めた。ここで火を止めて、粗熱を取るため放置しておく。

 「次は煮小豆です。昨夜からひと晩水に浸しておいた地小豆なんです。ほんとうはコトコト鉄鍋で炊きたいところなんですけど、2時間ほど掛かってしまうので、今日は、圧力鍋で10分で炊いちゃいますね。小豆200グラムに水は3倍。てんさい糖100グラムは小豆が炊きあがってから加えますね。普通は、ここで白砂糖を使うんでしょうけど、白砂糖は体を冷やしますので、私は使いません。砂糖大根から採ったてんさい糖は体を温めるんですよ。てんさい糖に含まれるオリゴ糖が、腸の中のビフィズス菌の栄養源となってお腹の調子を整えてくれるんです。だから体に穏やかなんですよ」

 あさみさんは、大きなステンレス製の圧力釜を持ち出して、少量の小豆を強火で炊き始めた。まもなく圧力釜の蒸気弁から水蒸気が勢いよく噴き出し始める。このまま10分続ける。コトコトという感じではないが、時間短縮のためにはやむを得ない。

 「私、10代後半から10年間ほどモデルの仕事をしてたんですね。渋谷交差点にあるビルの全面広告のモデルになったり、関西空港が完成する直前に広告の撮影をするので伊丹空港からヘリコプターで飛んだり、西表島にリゾート施設ができる時のモデルもしましたね。でも、そんな仕事に違和感を感じてて、長男が生まれる前に、窓から見える風景は自然の緑だけの所と決めて宮崎に移住して来たんです。当時から動物の肉をまったく摂らない食事をしてました。動物好きだったから、何で人間のために動物が殺されちゃうんだろうってシンプルな考えでしたね」

 あさみさんは、そんな話をしながら、粗熱の取れたココナッツミルク豆腐を冷蔵ケースに入れて冷やす。まもなく10分間を告げるアラームが鳴って、圧力釜の火を止めた。

 「蒸気弁のピンが下がるのに5分ほど掛かるから、5分待ちます。ココナッツミルク豆腐は常温でも固まりますけど、ちょっと冷やすと早いから」

 煮小豆の仕上げに加える蜂蜜が結晶化しているのに気付いたあさみさん、圧力釜の蓋を開けるまでの間に、水を少し入れたボールを火に掛けて蜂蜜の瓶を浸けて湯煎し、元の液状に戻した。

 圧力鍋が大きすぎるので、てんさい糖を加えてから小ぶりの片手鍋に煮小豆を移し、蜂蜜200グラムを加える。あさみさんが満足そうに言う。

 「いい具合に小豆が炊きあがりましたね。これに蜂蜜を加えます。ほら、これでめちゃくちゃ色が変わったのが分かりますか。一気に漆黒になったでしょ。これで照りが出ます。蜂蜜を加えると香りがすっごくいいんです」

 蜂蜜を加えた片手鍋を弱火に掛けて、5分程度、風味を損なわないように練って照りが出てくると完成だ。

 固まったココナッツミルク豆腐を冷蔵ケースから取り出し、大さじで掬い取って器に盛ると、まだ湯気の立っている煮小豆を上から掛けた。

 ココナッツミルク豆腐を少しだけ口に含む。優しい豆乳の香りが鼻に抜けていく。甘いというよりは、どこか遠くからやって来た甘みが漂う感じだ。次に、煮小豆と一緒に口に運ぶ。ぐっと甘みが強くなる。小豆は少々硬めだ。小豆の食感が食べているという実感を増幅させる。

 ひと碗いただくだけで、心身共に、充実のボリュームだ。デザートというより小腹押さえのおやつに適している。

 

※ 西日本では「炊く」と「煮る」は同義語に使われます。京都府出身のあさみ智子さん

 の言葉に合わせて「炊く」としました。

料理家・あさみ智子(ともこ)

1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。

2014年に現在地の綾町に移転。一男二女の母。

 

① ひと晩水に浸した小豆など材料を揃える

② ココナッツミルクと豆乳、水で溶いた寒天を弱火に

③ ひと晩水に浸けた小豆を圧力釜で炊き上げ、てんさい糖を加える

④ 結晶した蜂蜜は湯煎すると元に戻る

⑤ 粗熱の取れたココナッツミルク豆腐を冷蔵庫で冷やす

⑥ 作業をし易くするため、圧力鍋で炊いた小豆を小鍋に移す

⑦ 炊きあげた小豆に同量の蜂蜜を加える

⑧ 固まったココナッツミルク豆腐を器へ盛る

⑨ ココナッツミルク豆腐の上に煮小豆を掛ける

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