2017年(平成29年3月) 21号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203

 「タンバルエリゼっていうフランス王宮のアイスクリームをドーム型の器に盛ったデザートがあるんですが、今日はアイスクリームではなくクリームチーズの蜂蜜ムースをタンバルエリゼの器の中に盛るというお菓子を作ります。蜂蜜のコクだけで作るムースのスイーツですね」

 吉岡良祐シェフは、いつも唐突な料理を提案してくれるので覚悟はしていたが、フランス王宮のお菓子とは、いきなりの先制パンチで驚きだ。

 「3つの工程がありますけど、冷やして固めないといけないので、クリームチーズの蜂蜜ムースから作っていきますね。文明の利器ミキサーを使います。牛乳250ccとクリームチーズ40g、砂糖25g、それに蜂蜜20ccを一緒に容器に入れて混ぜます。クリームチーズをよく馴染ませるためなんです。よく混ざれば時間は適当で良いんです。クリームチーズは粘度があるもんで、手ではなかなか混ざらないんです」

 およそ1分ミキサーに掛け、白い液体を鍋に移し、IHクッキングヒーターに載せる。

 「ゼラチンが入らないと固まってくれないんで、ゼラチンを溶かすために火に掛けます。牛乳は沸いたら分離するんで、沸く直前にゼラチンが溶ける温度があるんです。あまり強い火に掛けると、鍋の底が焦げますよ。40℃か50℃あれば、ゼラチンは動物性なんで溶けるんですけど、沸騰させると固まる能力が弱くなるんで、必ず、火を止めた後でゼラチンを加えてください。ここは大事なんです」

 吉岡シェフは、IHに掛けた鍋の中に何度も小指の先を入れて、牛乳の温度を確認している。

 「これは粉ゼラチンを水でふやかしたんですね。さ、ゼラチンを溶かしていきます。火はもう止めてあります」

 ヘラを使って鍋の中で丹念にゼラチンを溶かす。

 「もうダマがないぐらいに溶けましたね。これをボールに戻します。ムースというのは泡ってことなんですよ。蜂蜜ムースなんで、泡を食べるスイーツということですね。次は、生クリームを泡立てていきます」

 生クリームを入れたボールを斜めに持って、吉岡シェフが泡立て器を突っ込んでは引き上げるように回転させていく。調理台が6つもある大きな料理教室にシャカシャカと泡立て器の音がおよそ1分響いた。

 「角がちょっと立つくらいまで泡立てます。先ほどゼラチンを溶かした牛乳ベースのボールがありますね。それに、この泡立てた生クリームを合わせていきたいんです。どうするかと言えば、ゼラチンの入っている方を冷やしていくと、固まる寸前にトローッとしてきます。泡立てた生クリームと同じ粘度になったところで少しずつ合わせていくんです」

 氷水の入った大きめのボールに、ゼラチンを溶かしたクリームチーズや牛乳のボールを浮かべ、中でクルクル回しながらヘラでかき回す。

 「回すと遠心力で液体がボールの側面に広がっていくんですね。広がると表面積が大きくなって冷えやすくなるんです。もうそろそろトロッとしてきましたね。ここからは一瞬で固まりますので要注意です。もう少しというところで氷水から引き上げると、後はボールの冷たさでゆっくり固まっていきます。ここは重要なところですね。こっちの温度が高いと、合わせた時に生クリームの泡が消えちゃうんです。固まる寸前で少しずつ合わせてやると、泡が消えないできれいなふわーっとしたムースになるんです。いっぺんに合わせると、固まってダマダマになるんで、少しずつです。急がない、急がない」

 吉岡シェフは、自分に言い聞かせるように少しずつ何度もトロリとした白い液体を加え、泡立てた生クリームと一体化していった。それからラップを敷いた深バットに流し込み冷蔵庫に収めた。

 「次は、ラングドシャにいきます。最初に170℃でオーブンの火を点けときますね。室温に戻した無塩バターをボールに入れ、泡立て器でほぐしていきます。室温が低い時は、湯煎してボールを温めるのもいいですね」

 泡立て器がボールに当たるシャカシャカ音が響く。

 「バターがペースト状になったら粉糖を加えて良く混ぜ、次に卵白50gを少しずつ混ぜ込んでいきます。約卵2個分ですね。これも少しずつです。ダマが無くなってから加えていきます。濃度が全然違うので一度に加えると分離しちゃってなかなか混ざらないですよ」

 シャカシャカシャカシャカ、泡立て器の音が続いている。

 「バターと卵白が馴染んだら、ふるっておいた薄力小麦粉を加えます。ここからは泡立て過ぎるとグルテンが出てきて粘っこくなるので、ヘラでサックリ混ぜます」

 薄力小麦粉が混ざり合ったら、天板の上にクッキングペーパーを敷き、その上にクレープを焼くように丸く4つに分けて広げていく。

 「焼き上がったら器としてクシャクシャにするんで、ここでは多少いびつな形でも問題ないです。冷えるとパリパリになるけど、焼きたてはしっとりしてますからね。オーブンで焼く時間は15分ぐらいです」

 170℃のオーブンにラングドシャの素を広げた天板を入れ、15分のタイマーを掛けると、いよいよ最後の工程、飴のドーム作りだ。

 「シルクフィレと言って、絹の糸みたいな糸飴です。鍋にグラニュー糖100g、それに15ccの蜂蜜。蜂蜜は入れなくたって飴は出来ますけど、蜂蜜を入れる事によって粘度が保たれます。グラニュー糖だけでは湿度とか温度に弱い飴になっちゃうんです。蜂蜜が入ることで食べる時にコクも出ますよね。砂糖って混ぜると再結晶するんで、混ぜないようにしてキャラメリーゼ(少し焦げる)しないといけないから、水を足してあげた方が失敗しないです。水を50cc足しますね。今のIHは安全のために温度リミッターが付いているので、焦がし料理のキャラメルは作れないんです。今回はガス火でやりますね。キャラメル作りのポイントは、最初のうち砂糖を混ぜないことなんです」

 グラニュー糖を入れ、蜂蜜と水を加えたままの鍋を、火に掛ける。かき混ぜたくなるのをじっと我慢する。次第に砂糖の周辺から色が変わり始める。鍋に焦げ付くのではと心配だ。

 「まだまだです。まだです。もうマックスの強火、焦がすまで強火です。もう少ししたらキャラメリーゼが一気に始まってくるんで、ほんとはもっと強火がいいんですね。だいぶ色が出てきましたね。これでさらに火に掛ければプリンに掛けてある飴になるんですよ。でもこれ以上、飴にしたくないんで濡れた布巾で鍋を冷やします。冷えると粘度が出てくるんですね。ここまできたら、温め直して柔らかくしたり、冷やして固めたりしても大丈夫なんです」

 ドロッした飴を右手に持ったフォークの先で掬い取り、左手には大きめのお玉を逆さに持って、右手に持ったフォークの先を前後に振りながらお玉の底に糸状の飴を被せるように振り掛けていく。お玉の底全体が糸状の飴で覆われたら、飴が垂れた裾野をハサミで切り揃え、ラングドシャに被せる網目状の飴ドームが出来る。

 焼き上がったラングドシャは器として利用するため、温かく柔らかいうちに丸く形を整えておく。冷蔵庫で冷やして置いたクリームチーズの蜂蜜ムースを適当な大きさに切り分け、ラングドシャの器に盛り付ける。最後に網目状の飴ドームを被せればフランス王宮のスイーツ、タンバルエリゼが完成だ。

 大皿に盛り付けられたクリームチーズの蜂蜜ムースが入ったタンバルエリゼは、フォークとナイフを入れるのをためらうほどの存在感があった。意を決して飴ドームの真ん中にナイフを入れる。ドームはパリッと砕け、ラングドシャの中にクリームチーズの蜂蜜ムースが姿を見せた。飴ドーム、蜂蜜ムース、ラングドシャと、3つの味と香りを楽しむスイーツである。ここは香りを楽しむためにもヨーロッパ風に紅茶でアフタヌーンティーとしたいものだ。アールグレイはミルクティにして、ダージリンならストレートでさっぱりと。それにしても、このボリュームはデザートというより小腹抑えのアフタヌーンティーに相応しい。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修行し、3年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。

① クリームチーズ等と一緒に蜂蜜を

  ミキサーに加える

② クリームチーズや牛乳をゼラチンを

  加えるために温める

③ ゼラチンを加え溶かす

④ 生クリームを泡立てる

⑤ ゼラチンを溶かしたクリームチーズを

  冷やす

⑥ 生クリームとクリームチーズを

    少しずつ合わせる

⑦ 室温に戻した無塩バターをほぐす

⑧ 無塩バターに粉糖を加える

⑨ 粉糖がクリーム状になったら卵白を

    少しずつ加える

⑩ 卵白の次はふるった小麦粉を加えヘラで

  混ぜる

⑪ クッキングペーパーを敷いた天板に

    丸く広げる

⑫ グラニュー糖を入れた鍋に蜂蜜を加える

⑬ グラニュー糖、蜂蜜の上に水を加える

⑭ グラニュー糖か?飴色になるまで

  混ぜないで煮詰める

⑮ 焼き上がったラングドシャを器の形に

    丸く整える

⑯ 煮詰めた飴をフォークで掬い、お玉の

    底に糸状に振り掛ける

⑰ ドーム状になった飴の裾を切り揃える

⑱ ラングドシャの器に盛り付ける

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