2017年(平成29年5月) 23号

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 昼下がりのカフェ山猫の店内は、静かで板張りの床を歩くと遠い土地からやって来た旅行者の気分になれる。店内を涼しく緩やかな風が吹き抜け、窓に掛かった白い薄地のカーテンがわずかに揺れている。

 ランチタイムの喧噪から解放されたあさみ智子さんが、「雑穀とバナナのタルト」の材料を小さなガラス器に入れて並べてくれていた。

 「最初にやっておかなければならないのは、アマランサス50gを5倍の量の水で炊いておくことですね。15分ほど掛かるので忘れずにね。アマランサスは稗(ひえ)みたいな感じで、最近スーパーフードとして注目されているのですが、古代南米のインカ文明の時から食べられていたそうです。昔の日本もそうですけど、南米は雑穀を多く食べていたのじゃないですか。トウモロコシもそうですけど。さっき火に掛けたアマランサスが微かに透明になってきてますね。今で半分ぐらい。ちょっとポリポリする舌触り。そういうのって食欲をそそったりするじゃないですか」

 あさみさんは、時間を超越するような食文化の話をしながら、タルト生地の材料を混ぜ始めた。

 「押し麦20gと大豆粉20g、ふすま20g、ヘンプシードナッツ30gですね。それに菜種油を20gとピンク岩塩を一つまみ。とても南米っぽいですよね。すでに、これでもう美味しいですもん」

 ここまでの材料をガラスのボールに入れて、強く捏ねるように混ぜ合わせ、ギュッと強く片手で握ると小さな細長い塊ができるが、すぐにポロリと崩れてしまう。あさみさんは、意を決したように小麦粉を取り出してきた。

 「ほんとは入れたくないんですけど、繋ぎとして小麦粉を20g入れますね。小麦粉を入れないと、焼き上がって切る時に壊れちゃうと思うんですね」

 小麦粉を加えて、さらに混ぜ合わせていく。

 「やはり、小麦粉を入れると、急にまとまりが良くなりますね。これでもう味をみることができます。塩は種類によって使う量が違ってくるので、何グラムというのではなく、好みで適宜加えてください」

 先ほど火に掛けたアマランサスが炊きあがったようだ。

 「水分が無くなって、ご飯みたいになったでしょ。今回はスイーツだけど、お食事的要素が強いです。アマランサスが炊けたので、フィリング(詰め物)を作りますね。生地は、混ぜ合わせた後で1時間は寝かせたいですね。すっごく良い匂い、お芋さんのような独特の古代の香り。古代の食事には粟だとか稗だとか穀類が全部入っていたそうです。それが結局すばらしかったんですね」

 フィリングの材料を別の深めのボールで混ぜ合わせる。バナナ1本を5ミリほどの厚さで輪切りにする。ゴマ、砕いたクルミ、種を取ったデーツ(ナツメヤシ)、本葛、それに炊きあがったアマランサスを入れて混ぜ、それにゴマ油大さじ1杯と蜂蜜を80g、岩塩を一つまみ。スパイスとしてシナモンを少し。これらを混ぜ合わせておく。

 寝かせておいたタルトの生地をナマコの形にして4つに切り分け、その一つを両手の親指を使って型に均等に貼り付けていく。材料が足らなければ残っている3つの一つから取り足して、全体で3つの生地の型を作る。

 「タルトを作るって難しく考える人が多いんですけど、むちゃくちゃ簡単。ナマコを作ってパンを成形する時みたいに1個1個やっていくと案外簡単。さっき材料の写真を撮る時にバナナが写ってないけど、今回はバナナを材料に入れることにこだわりました。甘みはデーツで引っ張っちゃう訳ですよ。糖尿病や高血圧の人も食べられるように、砂糖は使わずにデーツが持っている甘みを使います。ここに蜂蜜が入るんですね。このまま食べても美味しいですよ。これを焼いて保存を効かすんです」

 型に合わせて貼り付けた生地に、混ぜ合わせたフィリングを入れていく。最後に柑橘類の乱切りをトッピングして、基本180℃のオーブンで15分焼くのだが、オーブンの大きさや形式で焼き時間は変わる。表面に少し焦げ目が付く程度がベストなので、15分を目処に、目で確認することをお勧めする。

 冷め切るのを待てずに、ほんのり温かみが残る「雑穀とバナナのタルト」を戴く。ナイフを入れるとボロッと崩れ、中から柔らかいフィリングがねっとりと溢れ出た。フィリングをフォークで一掬いし口に運ぶと、多様な大きさの穀類の粒が食感を主張してくる。そこにバナナの柔らかな果肉が穀類の粒を包むように絡む。複雑な食感。甘い。脳を刺激するような甘さだ。トッピングの日向夏を口に含むと、その酸味が甘さの余韻を和らげてくれた。

 これからは食欲の落ちていく季節。淡泊になりがちな食事を補うティータイムのスイーツには、絶妙のボリュームと栄養補給になるだろう。

料理家・あさみ智子(ともこ)

1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。

2014年に現在地の綾町に移転。一男二女の母。

① 雑穀を主にした材料を揃える

② 生地の材料を捏ねるように混ぜる

③ 繋ぎとして小麦粉を加える

④ 混ぜ合わせた生地をナマコの形にして寝かせる

⑤ 炊きあがったアマランサス

⑥ バナナを輪切りにする

⑦ ゴマ、クルミ、デーツなどを加えてゴマ油を

⑧ さらに蜂蜜を加える

⑨ 材料全てを器に入れ終わる

⑩ 寝かせた生地を型に貼り付ける

⑪ 生地の型に混ぜ合わせたフィリングを

  入れる

⑫ 柑橘類のトッピングをしてオーブンに

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