2017年(平成29年7月)25号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/

 編集:ⓒリトルヘブン編集室〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203

 ビルの16階にある坂本昌子さんのアトリエには、ボリュームを落としたBob Harzの「Somebody Loves Me」がそっと流れている。

 今回は「夏向きのスイーツ」をとお願いしていたので、どんなローフード スイーツを提案してくれるのかと興味津々で訪ねたのだが、「パフェ」だと聞いて少々気落ちしてしまった。実は、私、パフェなるものを食べたことがないのだ。決して甘い物を食べないということではないが、店に入って「パフェをお願いします」と言えない。頭の禿げた年寄りが頼んではいけないものなのだ、と思い込んでいる。パフェは、女子高校生の食べ物である。

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     反応の鈍い私の表情を見て、坂本さんはパフェの説明から始めた。

     「パフェって、グラスの中にアイスクリームとかコーンフレークなどと一緒に、フルーツが入っているものなんですけど、それをローフード流に作ろうと思っているんです。ローフードは乳製品を一切使わないので、生クリームのようなクリーム類は全てナッツで作っていくんですね」

     「グラノーラも通常だと小麦が入っているのですが、ローフードは小麦を使用しないので、蕎麦の実(アレルギーのある方はオートミール)やヒマワリの種、カボチャの種などを使ったローフードのグラノーラを使います。通常だとグラノーラってオーブンで2、3時間焼くんですね。ローフードのグラノーラは、焼かずにドライフードエアという乾燥器を使います。酵素は、温度が48℃以上になると死滅してしまうので、48℃以下で13時間くらい乾燥させた酵素の摂れるグラノーラなんです。これをパフェの中に一緒に入れて、甘いスイーツなんですけど、ちゃんと酵素が摂れて、体にも良くて栄養価も高いというパフェなんです。フルーツは今、桃が美味しい季節なので桃をベースに色んなフルーツを入れますね」

     単純なパフェでないことは理解できたが、逆に難し過ぎてプロセスが見えてこない。ともかくは、手順一つ一つを追っていくことにしよう。

     「最初はアイスクリームから作っていくんですけども、レモンとヨーグルトとナッツを使ったレモンアイスクリームというさっぱりした夏向きのアイスクリームです。それでは、レモンを搾りますよ」

     坂本さんが、半分に割ったレモンを搾り器に押し付け、捻るようにグイグイと搾る。

     「丸々一個分、レモンを搾りまして……。アイスクリームメーカーという機械を使うんですけども……。その前に、3時間ほど浸水させたカシューナッツなんですけど、酵素を抑制する物質が除かれて柔らかくなっています。これをバイタミックス(Vitamix)というアメリカ製の高速回転ブレンダーに入れます。レモン汁も全て入れます。ここで蜂蜜40グラムを入れて、お塩一つまみも入れまして、豆乳グルトという豆乳のヨーグルト350ccも入れまして、タンパーという棒で押さえながら攪拌します。棒が中に入ることによりまして万遍なく粉砕が出来るようになりますんで……」

     坂本さんがバイタミックスのスイッチを入れる。タンパーで軽く押し付けながら、およそ2分間の攪拌だ。

     「これで完成です。これを冷蔵庫で冷やしてしまうと硬くなってしまうんですよね。アイスクリームメーカーだと、20分くらいでフワフワのアイスクリームが出来るんです。ただ、材料を入れる容器を19時間前から凍らせておかなければならないんですね」

     バイタミックスで攪拌したアイスクリームの材料をアイスクリームメーカーの器に移しながら、坂本さんは何気なく説明してくれるが、「パフェなんて」と思っていたことを反省。少なくても19時間前からスケジュールを立てて準備をしてくれていたのだ。

     「アイスクリームが出来るまでの間にホイップクリームを作ります。基本は、ここでも3時間浸水させていたカシューナッツ200グラムなんです。ローフードでは色んなナッツを使うんですけども、カシューナッツが一番使われますね。蜂蜜は50グラム、お塩を2つまみと水50ccをバイタミックスに入れて、また、ちょっと回します。材料はほんとシンプルなんです」

     先ほどアイスクリームの材料を攪拌して洗ったばかりのバイタミックスが再び登場だ。タンパーで軽く押さえるようにしながらバイタミックスで攪拌する。約1分間である。

     「すみません、味見を少し。甘さが……はい、大丈夫です。食べてみられますか」と、私にもタンパーの先に付いたクリームを差し出してくれる。

     人差し指で掬い取ると、とても柔らかく滑らかなか感触だ。口に含む。ナッツの香りがフワッと鼻に抜けていく。穏やかな甘さが舌に残った。

     「実は、今日は、マルコポーロという香りの高いフランスの紅茶があるんですけども、これが桃との相性が非常に良いので、ゼリーにしてパフェの中に閉じ込めようと思ってるんですね。普通ですと動物性のゼラチンを使うのですが、植物性でアガーという凝固剤がありまして、熱することなく、お水で溶かして作る体に優しいゼリーになります。少しだけ甘さを加えているんですけども、砂糖ではなくてメープルシロップという自然の糖分から出来るものなんです。もうずいぶんアイスクリームがフワフワになってきてますね」

     大きめのグラスに盛り付けられたグラノーラとアイスクリームとナッツのクリーム、それにゼリーと沢山のフルーツを目の前にして、若干気持ちが引けていた。まずはトッピングのサクランボを口に運ぶ。本題を避けようとしているのではないが、いきなりクリームにスプーンを突っ込むのには躊躇があった。次は桃だ。もちろん桃は桃、旨い。ホイップクリームをスプーンの先で少しだけ口に運んだ。フワッと消えるようで食べた実感がない。もうひと口もうひと口と口に運ぶが、何とも頼りない。いつの間にか、ナッツのクリームもアイスクリームも一緒になってしまい、私の舌では区別が付かない。

     気付いたら、大きなグラス一杯だったパフェを完食していた。ほのかなナッツの香りとフワッと舌の上で消えてしまう食感だけが、夢の中の出来事のように思い出される。ひょっとしたら、坂本さんと2人きりだったので、気が動転していたのかも知れない。

    坂本昌子(さかもと しょうこ)

    自らの難病を克服するため7年前からローフード生活を始めた結果、病気を完治できたことから多くの方にローフードの良さを広めたいと、2014年に日本リビングビューティー協会ローフードマイスター1級を取得し、自宅にて「Raw Food BLOMMA」として料理教室を開設。宮崎産の有機野菜や添加物フリーなものを素材として使用し、ローフード料理のフルコースを紹介している。その他、毎月「食卓に楽しめる空間」として、インテリアショップPlejourが取り扱う器を使ったテーブルコーディネートも提案している。

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