2018年(平成30年9月) 28号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

 「今日の料理って、すごい料理をしてる感じがして、作ってて楽しいんですよ。自分が手を加えることによって、そのままだと食べられないものを食べられるものにするっていう実感というんですかね」

 料理を始める前に研郎シェフの説明を聞くだけで、大層な料理が始まる予感がしてくる。何といっても「牛ほほ肉の赤ワイン煮」なる料理を食べたことはもちろん、見たこともないのだから楽しみだ。

 「煮込めば煮込むほど肉が軟らかくなるんですよ」と言う研郎シェフの頭脳には、すでに盛り付けられた皿のイメージが浮かんでいるようだ。

 始まりは静かだ。ニンジン、タマネギ、セロリを切る心地良い音が静かな厨房に響く。シャキシャキシャキシャキ……。

 大きめのバットに野菜を入れた後、まな板の上に取り出された牛ほほ肉の塊2つを見て驚いた。ドシンと音がしそうな存在感で、これだけでも豪勢な料理だ。この牛ほほ肉の両面に塩、コショウをした後、先ほどのバットに敷いた野菜の上に乗せ赤ワインを注ぐ。それが半端な量ではない。ワインボトル2本分だ。これを豪勢と言わずして何と言うのだろう。

 「高いワインでなくていいんですよ。渋みの少ない軽めのワインがいいですね」。トクトクトクトクといつまでもバットに注ぎ込む赤ワインの量に驚く私の気持ちを和らげようと、研郎シェフが声を掛ける。次には、たっぷりの蜂蜜を注ぎ掛け、肉に馴染ませる。ロックグラスに半分ほどの量がある。

 蜂蜜をよく馴染ませたなら、バット全体にラップをして、丸一日冷蔵庫で寝かせておく。「肉をワインでマリネするんですね。つまりワインを肉に染み込ませるということです」と、聞き慣れない料理用語に戸惑う私に研郎シェフが説明する。

 丸一日冷蔵庫で寝かせた牛ほほ肉をバットから取りだし、両面に小麦粉をまぶし、オリーブ油を熱したフライパンで肉の両面をこんがりと焼く。ジジジジーッ……。肉が焼ける音が食欲をそそる。時折、パチッと油の弾ける音。フライパンを揺する音。ガスレンジとフライパンが擦れる音。全ての音が食欲に直結していく。

 焼き色が付いた肉を厚手の鍋に入れ、バットの中の野菜と肉の漬け汁も肉と同じ鍋に漉し器で漉して入れる。バットに残した野菜は、オリーブ油を熱したフライパンで充分時間を掛けて炒め、この炒めた野菜も肉と同じ鍋に入れる。これで再び、全ての材料が一つの鍋になったのだ。

 本来ならばここで、レシピにあるホールトマト2缶も鍋に加えなければならなかったのですが、取材をした調理の際にはホールトマトを加えるのを忘れていました。したがって動画に、ホールトマトを加えるシーンは登場しません。しかし、実際に作られる際にはホールトマトを加えることを忘れないようにしてください。読者の皆さまにお詫び致します。

 さて、そこへローリエ、クローブ、セージ、オレガノの香辛料を更に入れ、だんだん弱火にしながら煮込むこと4時間。手間が掛かり、念の入った料理なのだ。

 4時間も煮込めば野菜はほとんど煮崩れる。このほとんど煮崩れてスープ状態になった野菜を漉してソースを作るのだ。研郎シェフが冒頭で言っていた「煮込めば煮込むほど軟らかくなるんですよ」を、ここで初めて合点することになる。したがって時間がないからと4時間煮込むところを3時間にするようでは、せっかくの「牛ほほ肉の赤ワイン煮」が台無しになるということだ。腹を決めてじっくり煮込むことで、料理をしたという充実感が得られるというものである。

 メインの料理はここで終了だ。後は、付け合わせのジャガイモのソテー、それにシメジ茸とエリンギの炒めものを添えて盛り付けだ。最後に先ほど漉した野菜を煮込んだソースを掛ければ完成である。

 これだけの時間と手間を掛けた料理。背筋を伸ばしていただく。デミグラスソースの香りが漂い、牛ほほ肉の筋繊維が口の中で糸のようにほぐれていく。こってりとした見た目とは異なり、ワインの酸味が口の中に残るさっぱり系だ。ここで渋みの効いた赤ワインのグラスは必須である。デザートには金柑のシャーベットなどを求めたい。

桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

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