2018年(平成30年9月)28号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/
編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F
採蜜が終わった群には越冬のためにダニ剤を入れていく
からだ全体が黄色い毛虫を見つけてスマホで撮影する里美さん
力仕事の多い養蜂の仕事だが、女性2人で働く蜂場には笑い声が絶えない
合同作業の合間に少しの休憩をする川端さん(右)と里美さん。一人で作業をしていた頃にはなかった心の和む時間だ
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地べたにバンと投げられるより良いかな
歌志内市の学校裏蜂場からも合同するための群を運び出していた。次に合同するのは当別町の蜂場だ。ここの蜂場は単箱と継ぎ箱の間に隔王板を入れた採蜜のための状態が続いている。下の段の巣箱に居る女王蜂が上の継ぎ箱に上がって来られないように隔王板を挟み、単箱の巣板は産卵のためで、継ぎ箱の巣板は蜂蜜を溜めるためとなっている。蜂蜜が入った巣板から少しずつ抜いてはいるが、基本的にはまだ、当別町の蜂場は夏の状態なのだ。
内検しながら「ちょっと心配」と、呟いて川端さんが継ぎ箱の蓋を開けると、6枚の巣板が入っていた巣箱の端に、たっぷりと蜜が溜まった巣板一枚分のムダ巣ができていた。やはり、内検の間隔が空き過ぎていたようだ。ムダ巣はちぎり取って巣門の前に置き、もう一度、蜜蜂に吸ってもらうことになる。
当別町の蜂場では、採蜜群の隣の空き地に越冬群の巣箱を設置するため、運送用パレットを置いて、その上に合板を敷き巣箱を置いた。
川端さんがパレットの置き方を里美さんに伝えている。
「この壁を蜂が登って来られるように、パレットに板がある面を前に置いて」
蜜蜂を払った際に、巣箱に戻ろうとする蜜蜂がきちんと巣門にたどり着けるようにするためだ。その他にも川端さんは、巣箱を内検する際に蜂を払うたび、巣門の前に麻布(あさぬの)を広げて、その上で蜂を払っている。
「蜂が地べたにバンと投げられるより良いかなって。それに麻布があると巣に戻りやすいんですよね」
あくまでも蜜蜂のことを考えた配慮だ。
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内検を行うまでに時間が空いたため、巣箱に大きなムダ巣が
できていた
川端優子さん(左)と田髙里美さん
蜂蜜で一杯になり全体に蜜蓋ができた巣板
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憎いキイロスズメバチ潰して、長閑な
時間
ふっと内検の手を休めた川端さん、傍に置いてあった白い虫捕り網を手に巣箱の間を抜けて、クルリっと網を空中で振った。網の中にキイロスズメバチが一匹。川端さんは容赦なく網の中のキイロスズメバチを踏みつぶした。羽音で来襲に気付いていたのだ。
「今年はオオスズメバチが少ないんですけど、天敵がいないもんだからキイロスズメバチが大量に来ていて……。オオスズメバチ5、6匹が一斉に来たら、一気に(蜜蜂の)一群がやられてしまうけど、キイロスズメバチは蜜蜂を一匹ずつしか捕っていかないからオオスズメバチに比べれば可愛いんだけど、それでも憎いですね」
これを機に、休憩時間となった。川端さんと里美さん、準備していたクーラーボックスから飲み物を取り出して、ゴクゴクと喉を潤している。
「ああーっ、長閑な時間。こないだまでは戦場のようだったけど……。水飲む時間ももったいなくて、ご飯食べる時間ももったいなくて」
川端さんが採蜜に追われた夏の時間を振り返っている。
合同のため一旦巣箱を追い出された蜜蜂が一斉に帰ってきた
巣箱の中まで入り込んでいたキイロスズメバチの死骸
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蜜蓋を厚くして、蜜蜂も越冬の準備
翌朝は、土場の蜂場で、前日に続いて抜き蜜をして越冬群に合同させる群を作る作業から始まった。
ハイブツールで巣板を抜くための隙間を作りながら川端さん、「もう蜜が乾いた音がしますもん。前回は(蜂蜜の糖度が)84度とかあったから、もう……」
抜き蜜のサイクルに作業が追い付いていないようだ。巣板を取り出してみると、巣箱に残っていた5枚全てが全面に蜜蓋ができている状態である。
次々と蜜巣を抜き出して、新たな巣板を補充していく。
「空巣1で、薄いの2で」と、里美さんへ指示を出す。蜜の溜まっていない巣板1枚と少しだけ蜜を溜めている巣板2枚を補充すると伝えているのだ。
「流蜜している時期に比べると、蜜蓋が厚く硬くなってきていますね。寒くなると蜜が結晶してしまうので、蜜蓋を厚くして結晶を防ごうとしているのかなって思ったりするんですけどね。蜜蜂も越冬の準備をしているのでしょうね」
川端さんの観察眼はさすがに細かく、蜜蜂に愛情を注ぐ養蜂家ならではだ。
しかし、こんな失敗もある。内検を進めていた川端さんが、「あれっ、上に女王居るかも」と、素っ頓狂な声を出した。隔王板は挟んであるのに、継ぎ箱の巣房に卵が産み付けられていたのだ。女王蜂が居る巣板なのに気付かないで継ぎ箱に入れてしまったのか、隔王板をすり抜けて女王蜂が継ぎ箱に上がってきたのか。産卵を始めた巣板は、蜜が溜まっていても採蜜はできない。この巣板は継ぎ箱から単箱へ移動させ、産卵のための巣板に役割が変わることになる。
蜜蜂一匹一匹の命を大切に
内検を終えると、単箱の縁を歩いている蜜蜂を一匹一匹指で払ってから隔王板を置き、継ぎ箱を被せている。川端さんの蜂一匹の命を大切に扱う気持ちが、そんな自然な動作の中に伝わってくる。
それに川端さんは、内検で巣枠を一旦取り出して空になった継ぎ箱を、別に用意しておいた継ぎ箱と入れ替えている。面倒なのに、その理由を尋ねると、「そのまま継ぎ箱を載せちゃうと、継ぎ箱の下に付いている蜜蜂がかなりの量潰れちゃうので継ぎ箱を順繰りに入れ替えることで、継ぎ箱の下に付いている蜜蜂を潰さないで済むんです」と、教えてくれた。
なるほど、ここにも蜜蜂一匹一匹の命を大切にする考えが活きている。
採蜜に備えて据え付けた遠心分離機を磨く
里美さんが初めて作った蜜ロウを取り出した川端さん
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知らない間に引っ越しちゃってるよ
翌日の朝、土場の蜂場から越冬のための群を当別町の蜂場に運び込むと、土場の蜂場には一箱の巣箱も残っていなかった。しかし、朝日が差し込む蜂場に数十匹の蜜蜂が飛び交っている。巣箱を運び出す以前に採蜜に出掛けた働き蜂が帰る巣箱がなくなっていて戸惑っているのだ。
「仕事に行って帰ってきたら、知らない間に引っ越しちゃってるよって、裏切られた感半端ないですよね」と、里美さんが大笑いしている。
川端さんが蜂場の真ん中に蓋を開けたまま蜜巣を入れた巣箱を置いてやると、蜜蜂たちは自然と蜜を求めて巣箱に集まってきた。
「これだけの数だから、元々の群は違っていても争うことなく巣箱に収まると思うんですよ。今日の夕方に巣門を閉めて、明朝に今朝運んだ蜂場に持って行ってやれば、女王蜂の居るそれぞれの群に帰って行くと思うんですよね。間違って他の群に入って行っちゃえば、殺されちゃいますけどね」
川端さんは淡々としたものだ。
里美さんが川端養蜂園で働き始めて約半年になる。
「これ元気ないなって、蜂の様子は一目で分かるようになったけど、まだ、ワンシーズンですから。初めて顔を刺された時は嬉しかったんですよ。あ、刺されたなっていうくらい。私、変態なんかも知れない。刺されるなんて仕方ないじゃないですか、蜂だから。自然が好きで、本来そういうものだと思ってきているから。蜜蜂は刺すから怖いって言う人が居るんですけど、蜜蜂は自分の家族を守るために命を賭けて刺しているんだよって伝えているんです。始めの頃は刺されるとぼっこぼっこに腫れていたのに、今、ぜんぜん腫れないもんね。幸せじゃないですか。こうやって毎日、自然の中でご飯食べて、幸せだよ」
里美さんの話を横で聞いていた川端さんが嬉しそうだ。
「なかなかこの仕事やりたがる人居ないからね。蜂怖がらないし……」
ギリギリまで待って越冬準備
急速に秋が深まる北海道だ。早めに越冬の準備を終わらせたいと思うのは人情だ。しかし、川端さんの考えは少し違っていた。越冬は、巣箱の下に麦わらを敷き詰めて上にも被せ、巣箱の左右と上にコンパネを載せて外側はブルーシートで覆う。巣門は開けたままにしておき、板を斜めに立て掛けて少しは蜂が出入りできる状態にしておく。そうすることで、蜜蜂たちが自ら巣箱の中を掃除し、外へゴミを持ち出してくれるのだという。
「越冬の状態にすると、蜂はまったく飛べなくなるので、できるだけギリギリまで待ってやらないとね。11月に一回はドンと雪が降るんですよね。でも、その雪は根雪にはならないので、その雪の中でも越冬の準備をしなくてはならないのです。12月に入ると、ようやくゆっくり出来ますね。そう言えば、世間は今、3連休ですよね。やっぱり世間とずれてるわ」
川端養蜂園で暮らす蜜蜂たちの幸せを思った。
仕事を手伝ってくれる友人の助けを借りて、採蜜の準備に遠心分離機を運ぶ
ムダ巣を入れた巣箱を土場に運ぶ里美さん。この後、土場で蜜ロウ作りが始まる
土場でムダ巣を溶かして蜜ロウを作る川端さん(右)。作業の一つ一つを里美さんに伝えていく
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