2018年(平成30年10月) 29号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

 「今日はカセットコンロで作りますわ」と、良祐シェフ。「簡単なセットでプロの料理をということで……」

 「豆乳を使った台湾のスイーツです。豆乳の上には本来、蜂蜜を掛けて、それに果物を載せて食べるんですけど、それでは芸がないなと思って、無花果(いちじく)を蜂蜜で煮たのを載せることにしました。せっかくの台湾料理だからアジアンチックな果物がいいかなと思って……。上に載せるのは何でもいいんですけどね」

 家庭で「作ってみたい」と思って貰える簡単なスイーツをと、良祐シェフにはお願いしていたが、カセットコンロとは驚きだ。

 「無花果を煮るのは砂糖でも良いんですよ。でも蜂蜜を使うと甘さに深みが出ますよね。一気に高級感が出るんですよ。蜂蜜を使うとミルクティーが一気にロイヤルミルクティーになりますからね。魔法の食材ですよね」

 「テーブルの上でできるスイーツですね。まず、豆乳、生クリーム、アガーを鍋に入れて熱します。プツプツ泡が上がってきたら砂糖と蜂蜜を入れて、火を止めます」と手順を説明しながら良祐シェフは、ゴムヘラで鍋を掻き混ぜ、ものの5分ほどで火を止めた。簡単なスイーツとは言ったものの、あまりにも簡単。

 「鍋が冷めないうちに、豆花をお玉でガラスの器に移しますね。ワイングラスを使うと可愛いんですけど、今日は大きめのカットグラスにします。アガーというのは寒天の粉です。海藻系は60℃じゃないと溶けないんで使いやすいですね。ゼラチンというのは難しいんですよ。一旦固まった後でも25℃で溶けますからね。夏場なら室温で溶けてしまいますし、固める時もひと晩寝かせるか2晩寝かせるかで硬さが全然違いますから。ゼラチンは簡単に考えているけど、突き詰めたら滅茶苦茶難しいです。だから今日はアガー系。海藻系を使うと失敗がないんです」

 ガラスの器に移した豆花は、冷蔵庫に入れて3時間ほど冷やす。(撮影では、時間を短縮するために氷水にガラスの器を浸して冷やした)。

 「豆花を冷やしている間に無花果の蜂蜜煮を作ります。本来は、無花果を下茹でして晒して皮の灰汁を抜いてコンポート(蜜煮)していきたいのですが、あまりにも難し過ぎるので、今日は家庭でも簡単にできるように皮を剥いてからコンポートしますね」

 無花果のヘタを切り取り、皮を縦に丁寧に剥き始める。その途端、良祐シェフの目つきが真剣になり、周りの空気がシンと緊張した。無花果の皮を剥くだけなのに、包丁を持つことでシェフとしての気質が垣間見えたようだった。

 皮を剥き終わった無花果を真ん中から縦に半分に割る。白っぽい果肉に包まれた内側に、無花果の赤いツブツブの美しい果肉が現れた。さらに4つに切り分けると、鍋にワインを入れ、切り分けた無花果を並べた。

 「無花果を煮る時の落とし蓋をクッキングシートで作りますね」と、良祐シェフ。30センチほどにカットしたクッキングシートを扇形に折り、鍋の半径に長さを合わせて切り落とした。扇形の尖った先を1センチほど切り、扇型の数カ所に切り込みを入れて広げると、鍋の大きさにピッタリ合った落とし蓋の完成だ。

 「木製の落とし蓋よりは軽い落とし蓋の方が、適当に浮いてきれいに対流してくれるんで、少ない地(煮汁)でも完璧に上まで廻してくれるんです」と、クッキングシートでその都度作る落とし蓋の効用を説く良祐シェフは、プロの隠し技を披露して得意顔だ。

 「火を点けていきます」と、良祐シェフは作ったばかりの落とし蓋を無花果の上に被せ、鍋を揺すり始めた。クッキングシートの落とし蓋が鍋の中を浮遊するようにフワフワとしている。すぐにワインの香りが立ち上ってきた。「一旦ひっくり返します」と、鍋の中の無花果を裏返す。もう一度、僅かに火を通すと完成だ。

 「キャラメリーゼを無花果に絡めてあげます。おっ、きれいきれい」と、良祐シェフは満足そうだ。無花果の粗熱をとってから、冷やした豆花の上に盛り付ける。ミントの葉をアクセントに添えて完成だ。

 豆花だけを掬ってひと口食べてみる。まったりとした食感が優しさを醸し出す。次は、無花果の蜂蜜煮と一緒に口に含む。何とも優しく上品な甘さだ。気持ちが落ち込んでいる時に口にしたらと、想像してみる。

 包み込むように優しく慰めてくれる涙のデザートである。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修行し、3年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。

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