2018年(平成30年10月)29号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/
編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F
工業団地の蜂場を案内する小野寺さんの蜂場は、一関市内にもう一つ弥栄蜂場がある
弥栄蜂場で内検をする小野寺さん。左後ろの作業小屋や巣箱を囲む風避けの塀は小野寺さんの手造りだ
採蜜が終わり越冬のための餌となる蜜や花粉をどれ位溜めているか内検する小野寺さんは巣枠つかみ器を使う
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Z養蜂は憧れの車の名
「Zに特に意味はないんですけど……。私、昔あった日産のフェアレディZが大好きでね。40年以上前になるけど20歳代の頃、ツーバイツーとかツーシーターとかね。あの当時はすごく格好良かったという記憶だね。当時、240万、250万という価格だったからね。結局は乗れませんでしたね」
養蜂業の社名としては一風変わった「Z養蜂」という名称について尋ねると、小野寺章(おのでら あきら)さん(66)は、忘れかけていたことが突然溢れ出たという感じで話し始めた。
「Z養蜂は20数年前ですわ。その頃は趣味でやってましたからね。本業はカラオケスナックをやってましてね。夜の仕事なんで、昼間は暇なんです。店の名前が『パブスナック Z』。80人くらいは入れる店でした」
カラオケスナックの名にも『Z』。小野寺さんがいかに『フェアレディZ』に憧れを持っていたかが伝わってくる。
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内検の前に無害で殺菌性の強い微酸性電解水を準備する
燻煙器に入れる麻布に火を点ける
小野寺さんが作った給水用の給餌器を巣門にセットする
巣箱に当たる風を防ぐ塀は小野寺さんの自作だ
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巣箱だけが残って一群から
カラオケスナックの経営者だった小野寺さんが、養蜂家に転身するにはどんな切っ掛けがあったのだろうか。
「20数年前でしたね。私の実家がある一関市の農村地域でね、お袋が直径3、40センチもある大きな桑の木にできていた洞の中に日本蜜蜂の自然巣を見つけましてね。女王蜂も一緒に箱に入れると蜂が居付いてくれると聞いてはいたんですけど、どんな箱に入れて良いのか分からない。そこで、すぐに市内の本屋さんへ行って養蜂の本を探し、本の最後のところに養蜂道具の問屋さんが載っていたので、電話して巣箱を買ったんですね。その箱が届いてから日本蜜蜂の自然巣を採りに行って箱に入れたまでは良かったんですけど、次の日に行ってみたら巣箱が空になってましてね。それで養蜂道具の問屋さんにもう一度電話をしてみたら、西洋蜜蜂というのが居るよと教えてくれて、巣箱だけが残っていましたからね。勿体ないということで西洋蜜蜂を一群と遠心分離機も一緒になった道具を一セット買ったんですね。10万円くらいしたのかな。最初は、自宅の裏庭で一群から始まったんです」
「そしたら届けを出さないといけないということで、岩手県養蜂組合に入ったんですが、一関市には養蜂をされる方がいなくてね。それで、他所の養蜂屋さんと交流して勉強させてもらって、本を買って勉強して養蜂が始まったんです」
長い間、カラオケスナックの経営と養蜂を両立させていた小野寺さんに大きな転機が訪れる。
「2011(平成23)年3月11日に東北の大震災がありましたね。あの年にカラオケスナックは止めました。それからは昼も夜も養蜂ですね。趣味の延長から始まったんですけど、次第に頭から蜂が離れないという感じになりましたね。私が蜂を飼っているのか、私が蜂に飼われているのか、分からない状況でした。蜂の顔を見ないと落ち着かないというか。蜂に恋しているようなもんかも知れないですね」
巣房の中には越冬の餌となるオレンジ色の花粉と蜂蜜が
蓄えられている
巣板全面に蓋ができた蜂児の巣房が並ぶ。この蜂が誕生して
越冬し、春には主に育児係の働き蜂となる
気温が上がらないため巣門の前で塊となった蜜蜂たち
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電気も引きたい 井戸も掘りたい
私が訪ねた10月中旬は、慌ただしい採蜜の時期を終えて、養蜂家にとって時間に余裕はあるが難しい時期でもある。内検をしながら蜜蜂が溜めている蜂蜜や花粉の量を確認して、5か月先の雪解けまでの期間をイメージした上で、越冬中の具体的な対策を群ごとに考えておかなければならない。それと同時に、今期最後の採蜜をする準備として蜜蓋の掛かった蜜房の巣板を取り出しておくのだ。そんな時期である。
弥栄(やさかえ)養蜂場の作業小屋では、すでに石油ストーブに火が点いていた。今にも雨が降り出しそうな空模様のためか肌寒い。小野寺さんは温かいコーヒーを淹れて私を迎えてくれた。ここの蜂場の作業小屋や防風塀も全て小野寺さんの手造りだと言う。
「ある種、変わってないとできないかも知れないね、養蜂家。空いた時間で全部自分で作るから時間が掛かるんですよ。電気も引きたいし井戸も掘りたい。そうすれば何時になっても終わりはないですよ」
「岩手の場合だと、まだ、蜂球(気温が低いと蜜蜂が寄り添って塊になり、熱を逃がさないようにする状態)ができているんですよ。その状態だと、ダニ剤を入れても効かないですね。11月には巣箱を持ち上げてみて、越冬するのに蜜が足りないような群には添加物としてリジンや砂糖、塩を混ぜた養蜂飼料を給餌してやりますね。完全に囲うのは12月に入ってからです。巣箱一つ一つを上も下も全体を稲藁で覆うと厚さ10センチくらいになりますかね」
つまり、本格的な越冬の準備には早過ぎるという訳だ。明日は、今年最後の採蜜を予定しているというが、この日「特に作業はしなくても良い」と、小野寺さんの腰は重い。
最後まで残っていた継ぎ箱の巣門の前で蜜蜂を巣板から払い内検する
巣房に残されている花粉が少なかった巣箱に
ビーハッチャー(代用花粉)を与える
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缶ジュース買って冷やした
「養蜂は私一人でやってまして、採蜜する時だけには蜜蓋切りなどを手伝ってもらいます。自宅の裏庭で蜂を飼い始めた当初は、スナックの共同経営者も一緒に手伝ってくれていたんですよ。ある時、ライオンズクラブの皆さんとハワイ旅行に行くことになってですね。『今からハワイに行ってくるからね』と、裏庭の蜂に挨拶に行ったんですよ。そしたら彼女が耳たぶを刺されたんですよ。大変だぁということで、すぐ病院へ行きましてね。冷やしてもらって、注射を打って塗り薬ももらって、大騒動の末に無事にハワイ旅行へは行くことができたんです」
しかし、スナックの共同経営者だった博子(ひろこ)さん(71)は、再び蜜蜂に刺されることになってしまった。博子さんが言う。
「トチの樹が群生している所があるんですね。市内から一時間ほどの祭畤(まつるべ)という標高800メートルほどの所なんですけど。そこでトチの蜜を採るために蜂場へ行っていた時でした。こんどは頬を刺されたんです。朝9時ごろでした。採蜜は終わって片付けをしている時だったんですが、もう面布は外して私は散歩をしていたんです。採蜜終わったばかりだったから、蜂が荒れていたんですかね。その時は冷やせば良いと分かっていたので、自動販売機で缶ジュースを買って冷やしたんです。それが良かったのか、あまり腫れなかったですね。それからは蜜蜂には近寄らないですよ。今考えると、裏庭で蜂を飼い始めた時には、こんなに沢山の蜜蜂を飼って養蜂を専門にやるとは思ってなかったですからね」
小野寺さんが博子さんの話を引き継いだ。
「それで懲りてね。蜂場の現場で採蜜をやる場合には蚊帳を吊るんですけど、その中に一匹でも蜜蜂がいると『蜂がいた、蜂がいた』と騒いでますよ。体質もありますから。祭畤で刺された時も『刺された、刺された』って、大騒ぎになりましてね。養蜂をやってて刺されないということはないですからね。蜂に刺される痛みは、何年経っても最初に刺されたのと同じですね。それでも(私は蜜蜂が)好きだから我慢できるんでしょうね。最初は手袋してましたけど、ここ数年は素手でやってますね。巣枠を持ち上げた時に一緒に蜂を摘まんでしまって刺されることが多いですね」
巣門の前で巣板から払われた蜜蜂が一斉に巣箱へ
戻ろうと地面を歩く
翌日に予定している採蜜のために、
蜜蓋を切る包丁を研ぐ
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蜜蜂も巣箱一つ一つで性格が違ってね
今にも雨が降り出しそうな雲行き。気温は上がらない。小野寺さんは、作業小屋でコーヒーを飲みながら話を続けてくれた。
「巣箱によって蜜蜂も色々違いますよ。蜜をいっぱい持って来る奴、プロポリスで巣枠とか網がベタベタしている群もあるし、ムダ巣をいっぱい作るのもあるし、人間と同じですよ。人それぞれに性格が違うようにね。蜜蜂も巣箱一つ一つで性格が違ってね。蜂に教えられることいっぱいありますよ」
「そういう群ごとの特性を見極めた上で、攻撃的な群からは新しい女王蜂を作らないようにしています。温和しい群の女王蜂を王籠に入れて、巣箱の中に1日か2日置いておくと群に馴染むんですね。そうして女王蜂を入れ替えちゃうんです。王籠に入れておかないと、働き蜂に食い殺されてしまいますからね。蜜をいっぱい持ってくるとか、病気に強いとか。そういう特性の良い群だけを集めて新しい群を作っていきます。蜜蜂にも品種というものがありましてね。うちでは温和しくて蜜をたくさん集めてくるゴールデン種を入れています。3年に一回は新しい女王蜂と巣板3枚分ぐらいの新しい蜜蜂を箱がらみで仕入れているんです。近親交配を避けるためですね。ゴールデン種だから、皆、同じという訳ではないです。そこが面白くてね。今、申請しているのは60群。採蜜の最盛期には結構な群がいますけど、申請は1月1日でしますからね。アカシア30群、トチ30群。私が独りでやるには、それで一杯一杯ですね」
内検を終えて作業小屋に帰る小野寺さん。手に持つのは太陽光に当たらないよう黒いビニールで覆った微酸性電解水の噴霧器
工業団地の蜂場下にある自家菜園で白菜に付いた虫を捕る小野寺さん
弥栄蜂場には栗の大木が2本。巣箱の前に収穫しなかった栗の実がころがっていた
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