2018年(平成30年11月) 30号
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編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F
あさみ智子さんの「蓮根と干し椎茸のクリームパスタ」
撮影:塩川陽一
撮影・編集:塩川陽一
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大正13年に建てられた民家を改装したカフェ山猫は、時間の蓄積を感じさせながらモダンの風が吹く。店休日の今日は、床を歩く靴音も気になるほどで、ひんやりとした空気が心地良い。
「今日はクリームパスタを作ろうと思います。豆乳を使いますけど、牛乳や生クリームでも全然問題ないですよ。これ、国富(隣町)の蓮根なんですよ。椎茸は、綾町内の農家で作っている天日乾燥のものです。これが美味しいんですよ。カチカチまで乾かしてないので水で戻さなくても細く切れますよね。こんな大きな椎茸はお店では売ってないですよ。私はお肉を摂らないから、椎茸は欠かせない食品なんです。カルシウムとビタミンDが豊富な森の恵みですもんね」
あさみさんは店が休みだという気楽さもあるのか、ゆったりと準備を始めた。太めの蓮根をスライサーでカットし、干し椎茸の切り落とした軸を縦に薄く包丁を入れ、笠の部分も細切りにしていく。調理台の上には、昨夜から準備しておいた蜂蜜漬けのレーズンとオリーブの実が古風な絵柄のあるグラスに入れて置いてある。
「ペカンナッツはクルミより甘みが強いし鉄分が多いんですよ。これとクルミをクラッシュしますね。オーガニックでは椎茸と木の実はセットですよね」。小さな厚手のグラスにペカンナッツとクルミを入れ、麺棒の端でトントンと細かく砕いていく。
「お湯が沸いたところに大さじ一杯の塩を入れます。調理には岩塩を使いますけど、ここではシシリアの海水塩を使います。パスタの袋に書いてある茹で時間は8分となってますけど、自分は5分で上げます」
鍋のお湯を更に沸騰させてから球状に乾燥させたタリアッテレを四つ、鍋に入れた。「このパスタは卵が入ってないんですよ」。こう言いながらあさみさん、茹で上がるまでの時間でパスタに絡める具材の準備だ。鍋にたっぷりのオリーブオイルを入れ、傍らのガス台に点火するとすぐ、スライスしたニンニクを入れて軽く2、3回掻き回した。
「香りが立ってきましたね。ニンニクから気泡が出て、薄いキツネ色になってきたらローリエを入れます。ローリエは必ず葉を折ってから鍋に入れますよ。こうすると一気に香りが立ちますからね。続いて切っておいた蓮根と椎茸を入れます」
熱したオリーブオイルの鍋に、次々と材料を入れ軽く掻き混ぜる。厨房に食欲をそそる香りが立ち込めてきた。パスタの茹で上がりを知らせる5分アラームが鳴る。あさみさんはパスタ鍋の火を止め、湯の中に浮かぶタリアッテレをいきなりトングで掴み、材料を炒めた鍋に入れ大雑把に掻き回す。そこに水切りをして塩をまぶしたサイコロ切りの豆腐とハーブを一つまみ入れ、最後に、ナッツの蜂蜜漬けを加えてサッと混ぜ合わせて豆乳を入れた。クツクツクツッと沸騰直前になれば出来上がりだ。
出来上がった「蓮根と干し椎茸のクリームパスタ」を木製の皿に盛り付けながら、あさみさんは「白ワインが合いますよ」と、すでに楽しみながら大勢で食する食卓をイメージしている。
弾き返すような歯応えのあるパスタだ。ニンニクの香りが鼻の奥をくすぐる。撮影を終えて一緒に食べている塩川カメラマンは食通だ。「和の感じだけど、和じゃないね。こりゃ旨いね」と、勢いよくパスタを掻き込んでいる。クリーム系でありながら、クリームパスタのようなモッタリ感はなくサッパリとしている。多様な食材が複雑な食感を演出し、食欲を刺激してくる。パスタを食べ終え、皿に残ったスープをバゲットに浸して食べると、じわっと満腹感に満たされてきた。
テーブルの横では塩川カメラマンとあさみさんが、お茶を飲みながら人生の話をしている。このパスタは、人生を語らせる奥深さを持っているのかも知れない。
料理家・あさみ智子(ともこ)
1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。
2014年に現在地の綾町に移転。
一男二女の母。
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