2019年(令和元年5月) 33号
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あさみ智子さんの「はちみつロールパン」
撮影:塩川陽一
撮影・編集:塩川陽一
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約束の午後4時に店を訪ねると、閉店時間なのにふた組のお客さんが最後のお茶を楽しんでいた。ひと組は外国から来ておられるようだ。緩やかな自然の風が店内に流れ居心地が良いのだろう。あさみさんが「もう一寸待ってあげて」と、目で私に合図する。しばらくして、うっすらと額に汗を滲ませたあさみさんが「実は、今日のはちみつロールパンの試作品をお店で出してみたら、とても評判が良くて全部なくなってしまって、本番で作る前に見てもらえないんです」と、すまなそうに言う。
「さっそく作り始めますね。今日は、はちみつの力を借りようと思って、糖度が高いから発酵に力を貸してくれますからね。生地にはオリーブオイル、ナツメグも入れますね。塩は岩塩を使います。にがりの多い海塩よりもよろしいかと……。始めに生地を捏ねます。水の温度や性質でも変わってきますので、あまり厳密に考えないでくださいね。ボールの底面を利用して馴染ませていきます。パンなのでずっと捏ね続けてもいいんですけど、今日はベーキングパウダーを使って早めに仕上げます」
厨房の温度が高く、あさみさんは生地がだれるかと気掛かりのようだ。
「暑い所より寒い所の方がいいんですけどね。このままピザ生地としても使っていただけるので、生地の分量を覚えておくといいですね」
「軽く打ち粉をして丸めていきます。中へ中へですね」
ボールの底へ何度か打ち付けた後、打ち粉をした調理台の上で4等分してから丸めて置いた。この時点で冷蔵庫に寝かせておくと生地に腰が出るのだが、この日は一気に作業を進める。
「続いて中に入れる具材を作りますけど、生地に白ごまが入ってますから、混ぜ入れるのは何でもいいですからね。今日は文旦を使いますね、レモンでもグレープフルーツでも、皮を薄く切ってパンの生地に入れてもいいんですけど、ほんの少しだけ。果肉も入れますね、夏バテにいいですね。ボールに果肉を入れてピールを入れて、豆乳を入れます。豆乳の代わりに大豆をフードプロセッサーで回したのを入れてもいいです。具材にはなたね油です。干ヤマブドウを入れます。今日のパンは、お砂糖を使わないので食事パンですね」
ボールで混ぜ合わせた具材を置いておき、先ほど4等分した生地を麺棒で伸ばしていく。
「なるべく伸ばした方が美味しいですね」と、小さく細長い三角の形に伸ばしていく。
「キャンプへ行った時でも、すぐに作ってあげられますね。先ほど混ぜ合わせた具を伸ばした生地の真ん中に広げます。果肉がゴロッと入っているのは、食べている時に嬉しいですよね。具を広げたら細長い三角形を縦に半分に折って、それを細い方からクルクルと巻いていきます」
ここで、あさみさんの口から「よし!」と言葉が漏れた。
クルクルと巻いたパン生地をオーブンのバットに均等に並べる。「オーブンシートを敷いてもいいですけど、今日は直に並べますね」
予熱したガスオーブンに入れて、250℃で8分間焼けば、「はちみつロールパン」の完成だ。表面には、美味しそうな焼き色が付いている。さっそく熱いコーヒーと一緒に手づかみでいただく。
一口かじると、サクッと崩れるように口の中にこぼれ落ちてくる。ほんのりとした甘みと同時に文旦の香りが鼻の奥をくすぐる。中から干ヤマブドウが顔を覗かせ、二口目を催促している。噛むうちに生地のもっちり感が出てきて、パイではなくパンだったのだと改めて意識したが、食事パンにしては胃に軽く、もう一つとつい思ってしまう美味しさだ。手軽に作れて柑橘の香り、清々しい夏の朝食には絶好だ。
料理家・あさみ智子(ともこ)
1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。
2014年に現在地の綾町に移転。一男二女の母。
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