2019年(令和元年8月) 35号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/

編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

アイコトマトのビネガードリンクとお洒落クラッカー

撮影・編集:塩川陽一

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     今号が初登場の料理研究家・杉松泰子さんは、車で一時間ほどの小林市まで無農薬のアイコトマトを調達に行き、8月から露地物が出始めている「へべす」は自らが農園を訪ねて収穫してくれたのだという。クラッカーに載せるりんごも、宮崎県内では唯一と思われる高地のりんご農園を訪ね、県内では8月が旬となる「つがる」を準備してくれていた。杉松さんは地産にこだわり、旬にこだわり、安全にこだわる料理研究家なのである。

     宮崎市の母なる大淀川を遠くに眺める高台に建つ杉松さんのご自宅を訪ねた。テーブルの上には材料がきれいに整えられて準備万端である。

     「トマトを切ってミキサーに入れます」と杉松さん。動画撮影を始めると、ややかしこまった感じで声に出し、手順を説明する。小さな楕円形で真っ赤なアイコトマトの真ん中を斜めに包丁を入れて二つに切る。トマト400グラムを次々と小さなミキサーに入れていくと、すぐに一杯になった。

     次に、濃い緑色のピンポン球ほどのへべすに包丁を入れる。清々しい柑橘の香りが漂う。半球体となったへべすをギュッと指で搾る。果汁が滴り落ちる。2つ目のへべすに包丁を入れた時、「あれっ、これ種がある。へべすって種ないんですよ」と手を止めた。そのへべすは脇に除けて3つ目に包丁を入れると、それにも種があった。杉松さんはもう一つへべすを切る。ようやくきれいな幾何学的断面が現れた。半切りのトマトで一杯になったミキサーに、りんご酢小さじ2杯、へべすの搾り汁小さじ2杯、オリーブオイル小さじ2杯、それに蜂蜜小さじ2杯を入れる。ミキサーのスイッチが入った。ガッガッガッガッと台所にミキサーの回転音が響く。しばらくの後、静寂が戻ると、濃厚なビネガードリンクがひとまず完成である。

     今号は、親しい仲間とのおしゃべりタイムがテーマだ。ビネガードリンクと一緒につまむもう一品、お洒落クラッカーを作る。

     地産にこだわる杉松さんが調達してきた宮崎産のりんご「つがる」を8等分にする。「夏の間に採れるりんごというのが、感動なんですよね」と杉松さん。りんごを2ミリほどの厚さで薄切りにして、塩水にさっと浸して取り出す。「長く浸けておくと、果肉が柔らかくなって美味しくなくなりますからね」。すぐにペーパータオルで水分を拭き取り、2枚重ねて盛り付け用に取り置く。

     次に、カシューナッツとアーモンドのナッツ類とクランベリーとブルーベリーのドライフルーツを半分に切っておく。「細かく刻んでおくと良いのですが、半分にするくらいで大丈夫ですね」。ここまで準備を終えると、クラッカーにクリームチーズを塗り、先ほどの2枚重ねたりんごを載せる。りんごの横や上に刻んだナッツとドライフルーツを並べる。クラッカーの狭い空間にナッツやドライフルーツを慎重に並べる杉松さんの表情が真剣味を帯びている。クラッカーに盛り付けが終わると、「後は、蜂蜜ですね。最後にシナモンを振り掛けます」と、ホッとした表情で自らに言い聞かせるように杉松さんが声に出した。

     ビネガードリンクを注いだワイングラスの縁には、へべすの輪切りが添えられている。へべすの淡い黄色と濃い緑色が、オレンジ色のビネガードリンクに爽やかさを添えている。小さなクラッカーは、三角形のりんごとナッツとベリーで満載だ。クリームチーズの白にりんごの皮の小さな赤が映えて美しい。杉松さんは盛り付けの配色にもこだわる料理家なのだ。

     さぁ、玄関のチャイムが鳴って賑やかな笑い声が聞こえてきた。夏の終わりの休日の午後、気心の知れた仲間たちとおしゃべりタイムの始まりだ。

     良く冷やしたアイコトマトのビネガードリンクを注いだワイングラスを手に取る。輪切りのへべすを避けて、一口含む。酸味のある濃厚な液体。独特の香りが鼻の奥をくすぐる。トマトの香りなのか、りんご酢なのか、へべすなのか。トマトの果肉の粒々が新鮮な印象を与えてくれる。「一滴もお水が入ってないので」と杉松さん。濃厚なドリンクなのに、さっぱりとしている。

     お洒落クラッカーを一口で頬張る。ナッツがカリカリっと砕ける。フワッとした甘みが口の中に広がり、りんごがサクッと存在感を示す。もう一口、ビネガードリンクを口に含む。今度は酸味が強く感じられた。へべすの輪切りをしゃぶってみる。へべすのさっぱりとした酸味と皮の渋みが、口の中をすっきりと蘇らせてくれた。「へべすって、独特の香気と風味があって、何に掛けても美味しいんですよ」。杉松さんが遠い目をして窓の外を眺めている。夏の名残りの夕陽が柔らかいオレンジ色に輝き、秋の気配が忍び寄ってくるのを感じさせる。

    杉松 泰子(すぎまつ やすこ)

    夫の転勤で国内外に在住した際、様々な国の料理や国内の郷土料理など食文化に触れた経験が、現在、料理研究家として活動するアイデアの基になっている。毎日作る自宅の料理をSNSに投稿したことから料理研究家の道に。 2013年に調理師免許を取得し「食卓に彩りと笑顔を」をテーマに、簡単でヘルシーなメニューを日々研究・考案。 メディア出演、料理教室、講演活動、食育活動など多方面で活躍している。 現在、宮崎県食育団体IKUMI(育味)代表、宮崎県立農業大学校評価委員、宮崎県水産試験場評価委員を務める。「おーつかぷらざ」料理教室講師を務め、自宅での料理教室を主催。一男一女の母。

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