2019年(令和元年9月) 36号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/

編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

あさみ智子さんの「ターメリックと蜂蜜の季節の

野菜スパイスシード炒め」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

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     「今は極端に野菜がない時期なんですよ。オクラがあってカリフラワーがあって……、ロティで包んで食べる青いものは、もうオクラぐらいなんですね。ターメリック(ウコン)は今、お花が咲いている時期なんです。今日の料理のポイントは、ターメリックとハニー、あとはひよこ豆かな」

     あさみ智子さんにはこれまで、蜂蜜を使った料理を色々と考えてもらったが、今回は「蜂蜜を活かす」というには難しかったようだ。「最後に蜂蜜を上から掛けるというのでも良いのかな」と呟く。少々迷いがあるようだ。

     約束の時間より早く店に到着してしまった。歩くとコツコツと心地良い音が響く無垢板床の店内は、昼食の客が引けた後の静けさだ。独特の香りがするプーアル茶を淹れてもらった。激しい外の雨音を聞きながらガラスの茶器を両手に包むようにしていただく。湿気を含んだ店内の冷たい空気は、遠く中国雲南省の田舎茶屋に居る気分に誘ってくれた。

     さて、あさみさんは、今日の料理の手順が決まったようだ。厨房に入ると迷わず小鍋に少しの水を入れて、ガス台に火を点ける。次には、ガラスのボウルを秤に載せて、小麦粉(薄力)250gをきっちり計る。「できれば地粉が良いですね。強力でなければ、中力でも構わないです。続いて岩塩ですね、5gぐらい入れます」とあさみさん。小麦粉と塩を軽く人差し指で混ぜ合わせると、先ほどガス台に掛けた小鍋の湯をボウルに取りぬるま湯を作る。「ここでぬるま湯なんですけど、150gです」。小麦粉にぬるま湯を入れ、さっくりと混ぜる。

     「そんなにコネコネとしなくても、混ぜるだけで良いと思います。打ち粉15gは別に考えておいてくださいね。(打ち粉をしながら)ボウルの中で耳たぶの硬さになったら良いです。打てば打つほどモチモチになってきますから、フワフワのところで止めておきます。まだ生地は温かい状態ですね。ここで形を整えて休ませます」

     布巾を水で湿して軽く絞り、生地が入ったボウルの上に被せ、乾燥を防ぐ。生地を寝かせておく間に野菜の下準備だ。

     「お水は少しでいいんです。お野菜を軽く下茹でしとくんですよ。カリフラワーの芯の所を十字に切りますね。芯を下にして鍋に入れて少々塩をしたら、蒸すみたいな感じで蓋をします。沸騰したら1分ぐらいで充分です。そうすると美味しい状態で食べられます」

     あさみさんの話を聞いているうちに鍋の水が沸騰してきた。沸騰したら、ひと呼吸置いた感じで鍋の蓋を取る。「非常に美味しそう、いい香りです」。

     カリフラワーをボウルに取り出すと、沸騰した湯にオクラを入れて1分ほど茹でる。「色が少し鮮やかに変わる程度です」と、あさみさん。続いてエリンギを縦に切る。「食感を残すために手で裂くと良いですね。赤ピーマンも種が付いたまま縦に切ります。先ほど茹でたカリフラワーも芯の所から手で裂いていきます。一口でパクッと食べられる大きさに切り揃えておくと良いですね」

    茹でたオクラは斜めに包丁を入れて半分にし、へたは切り落とす。

     「季節感を出すために、突如として梨も入れようと思って……。豊水梨を一口大に切ってください。新ショウガが上がってきましたね。とっても柔らかくて、香りも甘いですね」

     新ショウガは皮のままスライスし千切りにし、ニンニクはへたを切り落としたら包丁の腹で押し潰して細かく刻む。ここまで下ごしらえを終えると、厚手の中鍋を火に掛け菜種油を馴染ませる。

     「ニンニクを入れます。続いて新ショウガを入れます。香りが良くなってきたところで、ベイリーブスを1枚。ああ、良い香りですね、良い香りが出てきました。続いてクミンシードですね、今日は種のスパイスですね。小さじ一杯くらいで充分です。コリアンダーシード、黒マスタードですね。こちらを投入しました。エリンギを入れました。それにナッツを、カシューナッツですね。クルミでも結構ですね。香りを逃がさない程度に熱を伝えていく感じです。シード、来年の春に実りをもたらしてくれる種。続いて、梨です。今度は甘い香りに転じました。赤ピーマンです。鍋を揺すったりしなくて大丈夫です。先ほど湯がいておいたカリフラワーを入れます」

     あさみさんは間を置かないで、下ごしらえした材料を次々と鍋に投入していく。ジッジッジーと鍋が激しく音を立て続ける。木シャモジで上下をひっくり返すように軽く混ぜる。そこに、前もって別にベイリーブスを入れて塩ゆでしておいたひよこ豆をゆで汁ごと加える。

     「ここに岩塩を小さじ2分の1ほど、それにターメリックですね。今、花を咲かせてくれてますね。粒コショウです。最後にオクラを入れると、もう天地返しだけで良いですね。カリフラワーがミルキーな色に変わっているのが出来上がりの印です」

     鍋の火を止めると、スパイスシード炒めを包んで食べるロティ(薄く焼いた無発酵のパン)作りだ。

     休ませておいた生地を4つにちぎり、打ち粉をした調理台でめん棒を使って伸ばしていく。

     「ギュウギュウと押さえない、軽くですね。直径20㎝ほどに伸ばしたら、フライパンで焼いていきます。鉄板が良いですね。鉄板は煙が出るくらいまで良く熱します」

     熱々の鉄製フライパンの底に薄く伸ばした生地を広げる。広げた生地の上から、焼きムラが出来ないよう指で押して厚みを修正していく。3本の指を使ってクルッと生地をフライパンの上で回転させる。焼けてきたところで、ひっくり返すと真ん中がぷっくり膨らんできた。これで焼き上がりだ。フライパンの熱が冷めない内に次々と焼いておく。

     「これ、薪の火でやると雰囲気が盛り上がりますね。ポイントは鉄板でやることだと思います」

     さて、これで季節の野菜のスパイスシード炒めはでき、巻いて食べるロティもできた。最後は、大ぶりの木の鉢に盛り付けたスパイスシード炒めにたっぷりと蜂蜜を掛けて完成だ。

     たっぷりの季節の野菜をロティに巻いてかぶり付く。口いっぱいに頬張ってみると、あさみさんが「香りを逃がさない程度に熱を伝えていく」と言った意味が理解できた。カリフラワー、オクラ、赤ピーマン、カシューナッツ、ひよこ豆、それぞれが素材の旨みを主張しながら口の中で弾ける。クラッシック音楽のハーモニーというより個性溢れるジャズセッションといった感じだ。初秋の日射しを浴びて、両手で掴んだロティにワイルドにかぶり付く昼食に最適だ。

    料理家・あさみ智子(ともこ)

    1969年京都府生まれ。幼い頃から料理好き。自然を求めて育つ。東京でファッションモデル中心の活動をした後、1994年にオーガニックな環境を求めて、宮崎市へ移住。料理を仕事として、オーガニック関連店の立ち上げに係わり、ケータリングや料理教室をしながら精進し、2006年に玄米菜食.comを立ち上げ、カフェ山猫を始める。

    2014年に現在地の綾町に移転。一男二女の母。

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