2019年(令和元年11月) 37号
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桑原研郎シェフの「鶏レバーパテをクロスティーニで」
撮影:塩川陽一
撮影・編集:塩川陽一
桑原 研郎(くわはら けんろう)
1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。
「今日作るパテは酷(コク)のある料理だから、甘みのある方が美味しいですね」。桑原研郎シェフは、一般的なパテには使われていない蜂蜜を今回あえて使う理由を、こう説明してくれた。
カウンターの上に、これから使う調味料と香辛料を並べ終えると、今日の料理の主材料となる鶏レバー250gを丹念に洗い始めた。
「鶏レバーを洗います。白い筋を外し、レバーの中には血管が詰まっているので、そこは水で洗い流します。その後はザクザク切ってボールに入れ、水で洗うと、水に血液が溶け出てきますので、ザルに空け、新しい水で何度も繰り返してレバーから血を取り除いていきます。地味な作業ですけど丁寧に何度もやります。何度もやるうちに少しずつ水が透き通り、汚れが少なくなります。今、5回目ですけど、こんなもんで大丈夫です」
血液を洗い流した鶏レバーをザルに空け、水気を切っておく。次に、ニンニクをみじん切りにし玉ネギは縦の細切りにしておく。
「玉ネギは5ミリくらいは幅があっても大丈夫です。ニンニクを切る時は、縦に切目を入れて、それを横にして先の方からみじん切りにしていきます」。こう説明し、ニンニクをさらに細かいみじん切りにしていくと、炒める前から食欲をそそる香りが立ち上ってくる。
「これだけ細かく切ると、ニンニクが焦げ付きやすいので注意してください。炒めるのは、加熱用オリーブオイルを使います。必ずフライパンが冷たい状態でニンニクを入れオリーブオイルを注ぎます。では、弱火で……」
こう言ってガス台に火を点け、しばらくの間、腰に手を当てフライパンをじっと見つめている。やがて、フライパンの柄を持ち、前後に数回、ガス台の上を水平に揺する。間を置き、再び前後に数回、フライパンを水平に揺する。そのうちニンニクの香りが立ってきた。
「香りが立ってきましたね。ニンニクがキツネ色になってきますので、ここで細切りの玉ネギを入れます。しばらく炒めたら、先ほどの鶏レバーを入れます。ここで少し塩をします」
指先で摘まんだ塩をパッとフライパンの上に散らす。
「鶏レバーが炒まってきたら、ここで火を強めてウイスキーを入れます」
強火にして、研郎シェフがウイスキーを一気に注ぐと、ボッとアルコールに引火して燃えた。「次に赤ワイン、ローリエ2枚、カルダモン2粒、蜂蜜大さじ2杯を入れて、しばらく煮込みます」
先ほどまでは、時折フライパンを前後に揺するだけだった研郎シェフの動きが忙しくなってきた。フライパンの材料を煮込んでいる間に、フードプロセッサーを準備しておく。煮込む時間は、わずか3分ほどだ。ガス台から降ろしたフライパンからローリエとカルダモンを取り出し、煮込んだ材料をフライパンからフードプロセッサーに直接流し入れる。
「ここで無塩バターを入れて攪拌します。バターの油で液体が固まりますので……。10秒間ほど2回攪拌し、次に、攪拌しながら生クリームを入れると、こんな色になります。軟らかさはこれくらいですね」
フードプロセッサーの縁に付いたドロドロの鶏レバーパテをゴムのヘラで削ぎ落としながら、掬い上げるとポタポタと落ちるペースト状になったベージュ色のパテ。研郎シェフが説明する。
「最後に松の実を入れます。フードプロセッサーがない場合はミキサーでも大丈夫ですから」
指で摘まんだ塩を振り入れてコショウを少々。もう一回軽く攪拌した後、ゴムヘラに付いたパテを人差し指で掬って口に運んだ。
「うん、美味しい。味が整ったら、パウンドケーキの型にラップを敷いてパテを入れ、粗熱を取って、ひと晩冷蔵庫に寝かせます」
これで鶏レバーパテの調理は終わりだ。研郎シェフは、パウンドケーキの型に流し込んだパテを冷蔵庫に入れた。その代わりに、固まった鶏レバーパテをが出してきた。準備周到なのだ。前日に試作をして、冷蔵したものであった。
さて、軽くトーストした厚切りのバゲットに、たっぷりの鶏レバーパテを載せ、大きく口を開けてバリバリと噛み砕く。ハードな食感と共に鼻の奥にフワッと芳しい香りを感じる。何の香りなのかなと考えるうちに、口全体に鶏レバーの香りが広がり、時折、パキッと松の実が歯に当たる。その瞬間に、新たな食欲が蘇り、大きな口を開けて再びバリバリっとバゲットを噛み砕く。味にまろやかさと奥深さを感じるのは蜂蜜の効果なのだろう。研郎シェフに無理を言って赤ワインをグラスに注いでもらった。「うん、やっぱりこうでなくっちゃ」と、木陰で会話を楽しむ大人の昼食に満足だ。
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