2020年(令和2年1月) 38号

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吉岡良祐シェフの「牛肉の平茸マリネ焼き」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

 前夜のレストラン業務が忙しく、片付けが終わったのは午前4時。寝癖のある髪のまま良祐シェフは厨房に立っていた。

 「今日は、キノコの酵素を利用して肉を軟らかくしますね」

 良祐シェフは昨夜の疲れも見せず、ニンニクをみじん切りにした後、平茸を手で裂き始めた。

 「平茸が持つ酵素で肉が軟らかくなるんです。手で裂くことで酵素が出やすくなるんで、細かく裂いていきましょう」

 こう言いながら、まな板の上に牛肩ロースのブロックを2つ置いた。

 「牛肉に塩コショウをします。万遍なく塩が行き渡るようにしますね。塩コショウが出来たら、肉を袋に詰めますけど、フリーザーパックを利用すると作業がし易いです。続いて、先ほど裂いた平茸を一緒に入れていきます。ここでオリーブオイルを加えます。それにニンニクですね。料理酒もここで入れ、袋の上から肉を揉むようにして、オリーブオイルとキノコとを馴染ませていきます。チャックの端を少しだけ開けた状態で、袋の底の方から肉を包むように巻いていきます。巻き終わったらチャックを完全に閉めますね。空気が抜けた状態で、ひと晩冷蔵庫に寝かせておきます」

 さて、時間はひとっ飛び。冷蔵庫でひと晩寝かせた牛肉の肩ロースのブロックが2つ、目の前にある。良祐シェフがフリーザーパックから肉を取り出し、再び軽く塩コショウをする。

 「油をひいて、牛肉をフライパンに載せてから、火を点けます。温度が上がるまでは強火で大丈夫。熱がフライパン全体に伝わったら中火でじっくり焼いていきます」

 ジィジィジィジィと、油が弾けるような肉の焼ける音が厨房に満ちてきた。

 「しっかり焼き色を付けていきますね」と、トングで肉の塊を挟んで焼き色を確認する。「良い感じになってきましたね。焼き色が付いたら反対側も焼いていきます」。良祐シェフが何度もトングで肉を持ち上げて焼き色を確認する。

 「しっかり焼き色が付いたら火を止めて、肉を包むようにアルミホイルを被せ、余熱を肉に通していきます。10分ぐらい休ませてあげるといいですね。余熱を通してやると、中がきれいなロゼ色で組織を壊さないで焼き上げることができます。肉を美味しく食べるには、ここは家庭でもできる肝心なところですね。フライパンの温度が68℃以下になれば、肉にはもう熱が通らないので、『肉を休ませる』状態になります。動かさないで置くことで肉を急激に冷まさない訳ですよね」

良祐シェフは料理がひと区切りするごとに、手が勝手に動くように布巾でまな板を拭き取っている。職人の技が体に染み込んでいる感じだ。肉に余熱が通るのを待つ間に合わせ調味料を作る。バルサミコ酢の入った小さなボールに濃口醤油とはちみつを加え混ぜ合わせた。

 「はちみつを加えることで濃度が出るので、合わせ調味料が絡みやすくなって味がしっかり乗ってくれますね」

 こう言いながら、良祐シェフ、フライパンのアルミホイルの上に手の甲を当て熱の状態を確認してからひと言。

 「火を止めた後の温度だったら、熱が通り過ぎてガチガチになることはないので、慌てることはないです」

 火を止めてから10分余りして、フライパンから肉を取り出して皿にのせ、肉汁が残る同じフライパンにバター20gを入れてから、火を点けた。

 「中火くらいで良いです。バターが程よく溶けてきたら、平茸を入れてバターを馴染ませます。平茸は血液をサラサラにする効果も結構高いですね。しんなりしてきたら合わせ調味料を入れて少し煮詰めます。煮詰めることによってはちみつの効果がより発揮できますので、2、3分ほど煮詰めますね。煮詰めて塩コショウで味を調えたら平茸ソースの出来上がりです」

 木皿に盛り付けられた「牛肉の平茸マリネ焼き」の一切れを、平茸ソースに絡めながら箸で口に運ぶ。肉の焼き具合は、表面には火が通っているが中はロゼ色のミディアムレアといったところか。肉の軟らかさも印象的だが、こってりとした平茸ソースが旨い。ほんのりとした甘みがあり、肉汁のコクが平茸に絡んで奥深く上品だ。

 傍らで、良祐シェフが本日の肉を弁護するように話し始めた。「今日は牛の肩ロースを使いましたが、筋が入っていることがあるので、家庭で作るにはモモ肉の方が良いでしょうね。でもこれは肉々したしっかり肉なんで……。キノコと肉、最高の組み合わせですよね。鹿肉なんかを使っても良いですね。平茸ソースが活かされるでしょうね」

 4人分の量だったはずだが、ついつい半分ほどは一人で食べてしまった。赤ワインでもあれば完食したかも知れないと、未練がましく店を出た。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修業し5年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。現在、宮崎市内で3店舗を経営。

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