2020年(令和2年4月) 40号

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桑原研郎シェフの「ハニーブルーチーズケーキ」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

 このところの新型コロナウイルス禍の影響なのか人通りの少ない昼前、夜の繁華街の一角にある桑原研郎シェフの店へ向かう。話題はどうしても新型コロナ禍になってしまう。「影響は甚大です。もう街が潰れそう」と、研郎シェフの表情は深刻だ。

 気持ちを取り直して今日の料理に取り掛かる。「今日は蜂蜜とゴルゴンゾーラを使ったベイクドチーズケーキです。このチーズケーキはレモン果汁が大事ですね。味はもちろんですが、レモン果汁を入れないとケーキが茶色くなるんです」。研郎シェフはこう言いながら、常温に戻した材料を秤で正確に計量し、一種類ずつ小さな器に入れていく。

 フードプロセッサーの周りに材料の入った小皿を並べ終えると、「チーズケーキの土台から作りますね。最初に薄力粉をフードプロセッサーに入れます。続いて無塩バター、三温糖、それに卵黄を2個。それでは回します」と研郎シェフ。

 フードプロセッサーのモーターが回る音が伝わってくる。ゴッゴッゴッゴッーと30秒ほども回しただろうか。一旦止めて、捏ねている生地の固さを確かめる。「もうちょっと回します」と、5秒ほど回して生地の塊を取り出し、団子状に握る。ちょうど野球ボールくらいの大きさだ。「これを伸ばしていきます」と、耐熱ガラス製の平皿にクッキングペーパーを敷き、その上に両手の指先を押し付けるように土台の生地を平皿全面に薄く伸ばしていく。平皿の縁には親指を使い型に沿って押さえ付けていく。

 「土台の形ができたら、焼いた時に膨らまないようフォークで底に穴を開けます」。研郎シェフが、生地の底全面にトントントントンとフォークを突き立てて穴を開けていく。後は、予熱して160℃になったオーブンで10分間焼けば、チーズケーキの土台は完成だ。

 「人生って色々あるんですね。自分は何もしなくってもコロナとかあるっちゃかい。2020年って、オリンピックで明るい年って思っちょったけど……」

 最近の客の入り具合に弱気になっているのか、土台が焼き上がるのを待つ間、研郎シェフが塩川カメラマンにしみじみ話している。間もなく10分経つという時、オーブンの扉を少し開けて焼け具合を確認した研郎シェフ、「もうちょっと焼こうかな。あと5分焼きます」。合計15分間、160℃のオーブンで焼いたチーズケーキの土台を取り出した研郎シェフが、焼き上がったばかりの土台に掌を近づけて余熱を確かめている。

土台が焼き上がると、いよいよチーズケーキの生地作りだ。

 「最初はクリームチーズだけを攪拌します」と、常温に戻しておいたクリームチーズをフードプロセッサーに入れ、ほんの5秒ほど攪拌する。「クリームチーズがペースト状になったら、ゴルゴンゾーラを50グラム加え、ここでまた攪拌します」。再び5秒ほど攪拌してフードプロセッサーの蓋を開ける。「レモンジュース半個分ですね」と、半割りにしたレモンをギュッと片手で搾る。フードプロセッサーに入ったレモンの種を丁寧に取り出した後、卵3個を割って直接フードプロセッサーに入れた。「これで一旦攪拌します」と3秒ほど回すと、容器の内側にせり上がって付いた生地をゴムヘラで掬い取り、蜂蜜50グラムを加え、更に3秒間ほど攪拌した。「最後に生クリームを200cc入れます。攪拌します」と、3秒ほど2回に分けて攪拌する。これでチーズケーキの生地が完成だ。

 出来上がった生地を先ほどオーブンで焼いた土台に流し込み、予熱で160℃にしたオーブンで35分間焼けば完成である。焼き上がって粗熱を取り、半日ほど冷蔵庫で冷やしてから切り分ける。

 研郎シェフが「ハニーブルーチーズケーキ」を切り分けて木皿に盛り、金柑とイチゴを添えた。最後にデコレーションパウダーをサッと振り掛け「これで完成でございます」と、ちょっと気取った言い方をして勧めてくれた。

 出来上がったばかりのハニーブルーチーズケーキを研郎シェフと一緒に戴く。

 「甘い、ちょっと砂糖を少なくしよ。甘塩っぱいを目指していたんですけど、ちょっと甘さが勝ってしまったですね。もっと塩っぱいを前面に出したかったんですけどね」と、研郎シェフは反省の弁だ。

 三角に切り分けられたチーズケーキの先端をフォークで切り取り、口に運ぶ。塩っぽさを舌先に感じる。濃厚なチーズの香りとクリーミーな舌触り。研郎シェフが言うほどには甘さを強く感じない。僅かに酸味もあって絶妙な味のバランスだ。プロの料理人が求める味の繊細さに驚く。

 淹れたてのコーヒーを戴きクリーミーなチーズケーキを食べているうちに、新型コロナウイルス禍の時代に居ることをいつしか忘れ、花吹雪が舞う清々しい風と戯れる夢を見ている気分になっていた。

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