2020年(令和2年4月) 41号

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吉岡良祐シェフの「新たまねぎドレッシング」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

 平日の昼下がり。夕方の開店を待つ「Japanese Restaurant りょう」のカウンターには、まだ雑然とした雰囲気が漂う。広げたままの伝票や買い足した食材が並ぶ中に、色付き始めたばかりで小粒のマンゴーが大量に入った大きなビニール袋が置いてある。

 「捨ててしまう摘果マンゴーを農家から貰ってきて、追熟させてドレッシングを作るんです。捨てているものを加工して付加価値を付けるのは意味があるかなと思って……。ブランド化されたマンゴーは価格が高くて、ぼくらには使いづらいんですよ」と、良祐シェフが説明する。

 なるほど、捨てていた摘果マンゴーを加工して農家に還元できれば、資源の有効活用としても農家にとっても良い考えだ。どうやら良祐シェフは、このマンゴードレッシングを本日の料理にと考えていたようだが、摘果マンゴーは一般に手に入らないため却下。という訳で、良祐シェフの本日の料理は、季節の食材として新たまねぎを使ったドレッシングとなった。

 必要な材料を器に入れて調理台の上に並べていく。新たまねぎ、オリーブオイル、白砂糖、岩塩、蜂蜜、それにレモンを1個。

 「岩塩の味がマイルドなんですよ。匂いを抜くには海の塩が良いんですけどね」と、薄いピンク色の岩塩を使う理由を説明する。ドレッシングを作るのは、これらの材料全部を一度にミキサーに入れて攪拌すれば終了だ。3分ほども攪拌しただろうか。良祐シェフが、ミキサーから直にドレッシングをスプーンで掬い取り、掌に受けて味見する。

 「オリーブオイルの香りが強いですね。新たまねぎだから、あっさりしていて香りが弱められてしまうんですよね。ヒマワリ油のような癖のない油が良かったかも知れないです」と、ちょっと反省の弁だ。

 出来上がった「新たまねぎドレッシング」にディップして戴く春の焼き野菜が、本日の次の料理だ。ここで春野菜の準備である。

 筍、新じゃがいも、蚕豆(そらまめ)、アスパラガス、碓井豆(えんどう豆)、春子(どんこ)椎茸、ミニトマトを揃えた。「筍を食べやすい大きさに切ります。硬い所があったら切り落としておきます」と言いながら、良祐シェフはむいた筍の先端の若葉を切り落とし、薄く巻いている皮を1枚だけ剥いだ。椎茸は石づきを切ってから傘を4つに割る。アスパラガスは根に近い3分の1ほどの皮をむく。新じゃがいもは皮付きのまま1口大に切る。蚕豆(そらまめ)は殻のヘタを切り落とし、殻の中へ空気が入るようにしておく。ミニトマトもヘタを取る。

 「碓井豆(えんどう豆)は焼いた後で殻を外しますので、そのままで……」と言ってから、良祐シェフは良く磨かれたアルミ製のフライパンをガス台に掛けた。

 「アルミのフライパンは熱伝導が良いんで万遍なく火が通り、使いやすいですね。菜種油を引いて春野菜を焼いていきます。最初は新じゃがですね。椎茸、碓井豆(えんどうまめ)、アスパラガスに筍……」と声に出してフライパンに春野菜を並べる。材料を並べ終えると、良祐シェフは一瞬だけ、フライパンを前後に揺すった。それから「焼き目を付けていきますね」と、トングで春野菜を一つ一つ丁寧に裏返していく。フライパンから湯気が立ち上ってきた。焦げた匂いも少し漂う。

 「焼き色が付いてきたら、下味を付けていきます。塩を振って、料理酒を振り掛けていきます」。

一気に料理酒が弾けるジャジャーと大きな音が厨房に響く。

 「料理酒を入れたら蓋をします。弱火にして蒸し焼きにしていきます。30秒くらいしてアルコール分が飛んだところで、火を止めて5分ぐらい待ちます。蓋がぴったり出来なかったら、アルミホイルを蓋の下に挟み込むと良いですね。密封していれば5分ぐらいで蒸し上がります。余熱が取れるくらいまで置いていいんですが、ガス台から外さないでください。ガス台から外して調理台の上に置いたりしますと、急激に冷めてしまうので生煮えになってしまいますよ。IHでも同じですね。IHならば保温にすれば尚良いかも知れません」

 5分に掛けたタイマーが鳴っても、良祐シェフはすぐにフライパンをガス台から外さず、しばらく置いてからフライパンの蓋を取った。

 「新じゃががあるからですね」と、良祐シェフはフライパンの中の状態をイメージしていたのだ。「酒蒸しすることで、野菜がふっくらしてきますんで……」と、言いながら蒸し上がった春野菜を一つずつ大皿に盛り付けた。

 「新たまねぎドレッシングはサラダに掛けても良いけど、今日は春の温野菜にしてみました。ディップで戴くバーニャカウダ風なんですよ。もちろん全体に掛けても良いんですよ」

 ガラスの器に入った「新たまねぎドレッシング」を、温かみが残る酒蒸し椎茸に付けて戴く。ほんのりした甘みと酸味。椎茸を噛みしめると山の香りが口の中に広がる。次には新じゃがいもを戴く、ほっこりとした酸味の次に土の香りが口に広がる。筍はシャキシャキした歯応えが魅力。蚕豆(そらまめ)一粒を、ドレッシングを潜らせて口に運ぶ。豆の青臭さがドレッシングと相殺されてまろやかな口当たりとふくよかな酸味の後味。「新たまねぎドレッシング」が個性ある春野菜の旬の旨さを引き立てながら、一括りの野菜料理にしている。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修業し5年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。現在、宮崎市内で3店舗を経営。

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