2020年(令和2年7月) 44号

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桑原研郎シェフの「ガスパチョスープの冷製パスタ」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

「何か夏らしいものを作りたいなと思ってですね」と桑原研郎シェフ。今号の料理を依頼してから一週間、考え辿り着いたのがスペイン料理の冷製スープ「ガスパチョ」と冷製パスタの組み合わせだ。「冷製パスタは日本人が考えた料理で、イタリアでは食べないです」と、研郎シェフ。そういうことならば、洋風日本料理ということになるのか。

 「最初にパプリカを焼きます」と、ガスコンロに直接金網を置いてパプリカを直火で焼く。表面が万遍なく焼けるように、トングでパプリカをクルクルと返しながら焼いていく。

 「全体がもう真っ黒になります。で、スルって皮が剥けます」

 真っ黒に焼いたパプリカをボールの水に浸けて、薄皮を剥くように指先で擦ると黒焦げになった薄皮が簡単に取れ、中から真っ赤なパプリカの肌が現れた。皮を剥がす時に崩れたパプリカの端を研郎シェフが口に入れる。「県産のパプリカは甘い。他所のに比べると断然甘い」と、驚いたように声を出す。

 続いてトマトの湯剥きだ。ミニトマト4個のヘタを包丁の先でくり抜き、頭に十文字の切り込みを入れる。「こうしておくと湯がいた後、スーッと皮が剥けますから」と言って、研郎シェフは沸騰した湯で20秒くらいトマトを湯がく。

 「材料の皮や種をなるべく丁寧に取り除いておくと、最後にフードプロセッサーで攪拌した時に口当たりが滑らかになりますね」

 熱湯から取り出したトマトを一旦冷水に浸けてから手に取ると、気持ち良くペロリと皮が取れていく。「この種を抜くんです」と、半分に切ったトマトを片手に持ち、レモンを搾る時のようにギュッと絞ると、ポタポタと種が落ちる。(動画の撮影ではトマトの切断面が下になり、種が落ちる場面を撮れないため、後でスプーンで掬い取った)

 「次はパプリカの種ですね。キッチンペーパーで拭くように取るのが水気も取れて良いのかも知れない」

 パプリカのヘタの部分を大きめに切り取ってから半分にし、種と白い綿を取り除き、キッチンペーパーで表面に残っていた焦げた表皮を丁寧に擦り取る。パプリカの香りが漂ってきた。「これをフードプロセッサーに掛けます」。およそ50秒攪拌する。ここに半分に割った平兵衛酢(へべす)を指先でギュッと絞る。続いてワインビネガーを大さじ1杯、蜂蜜大さじ1杯を加えて攪拌しようとして、研郎シェフが「お塩を忘れていました。3つまみ入れます」と、塩を加えて、フードプロセッサーを数秒だけ回す。「1回味見します」と蓋を開けると、パプリカの香りがフワッと立ち上り鼻をくすぐる。スプーンで掬ってスープを口に運んだ研郎シェフ。「よしっ」と納得の表情だ。

 このスープの粗熱を取り冷蔵庫で冷やす。

 冷蔵庫でスープを冷やす間に、キュウリの皮を剥いて種を取り、縦に割って賽の目切りにしておく。セロリも同じように、ピーラーで皮を取った後で縦割りにして賽の目切りにしておく。玉ネギは8分の1ほどをみじん切りにしておく。ここまで準備しておけば、いよいよパスタを茹でるだけだ。

 「袋に書いてある標準茹で時間は2分なんですけど、3分間茹でます。茹で過ぎでゆるっとなるぐらいまで茹でて、氷水で締めると丁度良くなりますね。茹で上がった時に丁度良い硬さだと、氷水で締めるとカチカチになってしまいますので……。2人分で80グラム。天使の髪という意味のカッペリーニという細いパスタを使いますね」

 大きな寸胴鍋一杯に沸騰した湯に大さじ3杯の塩を入れて軽く掻き回してから、カッペリーニをパラパラと鍋に入れる。

 「細いだけに麺の茹で加減が難しそう」と、研郎シェフが独り言のように口にする。ピッピッピッとタイマーが鳴る。茹で上がったカッペリーニを寸胴鍋からトングで金属製のザルに掴み上げ、直ちに流し台へ。ザルの中のカッペリーニを流水で丁寧に冷ましてから、大きなボールに溜めた氷水にザルごと浸けて、パスタを揺らすようにして冷水を絡める。「パスタが冷えたら水気を切ります」と、パスタの入った小さなザルを流しの上で強く上下に振った後、2、3本のパスタを摘まんで口に含む。硬さを確認しているのだ。ここでも「よしっ」と納得の声だ。

 「後は冷やしたソースと絡めて、具材を載っけてという感じです」

 冷やしたカッペリーニをステンレスのボールに移し、そこに冷蔵庫で冷やしておいたガスパチョスープを大さじ5杯入れ、トングで絡めるように良くかき混ぜる。ここで研郎シェフ、ボールの底からスープをスプーンで掬って味を見る。黙ってガスパチョスープを大さじ2杯足して、「少し塩をします。味薄い。塩を2摘まみ」と言い、再び掻き回した後、パスタ2、3本を指で摘まんで味を見る。「うん、旨い」と納得の声だ。

 大ぶりの黒いスープ皿に赤味を帯びた細いカッペリーニをトングで捻るように盛り上げ、その上にさいの目に切ったキュウリやセロリを散らす。頂上にはカニ缶を山盛りにし、その上にキャビアを盛り上げるように載せていく。赤味を帯びたカッペリーニの上に盛られたカニ缶の白とキャビアの黒がコントラストを醸し出し美しい一品となった。周りに散らしたキュウリとセロリの緑色が効いている。食欲をそそる涼しげな色合いのパスタだ。

 冷えた炭酸水と一緒に戴く。「ん、ん、美味しい」と、横で一緒に食べていた研郎シェフが感激の声を出す。フォークに巻いて口に運ぶ。パプリカの香りが印象的で、少し酸味のある優しい口当たりのパスタだ。パスタに絡んだキュウリとセロリの口当たりがシャキシャキとして夏気分。「これが家でできたらすごいですね」と、研郎シェフ。確かに、この「ガスパチョスープの冷製パスタ」が我が家の夏の食卓に並べられたら感嘆の声が上がること間違いなしだ。

 灼熱の太陽の下でパラソルの陰に身を潜め、照り返す地中海を眺めて食すスペインの夏気分の一品である。

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