2020年(令和2年8月) 45号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/
編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F
市川和希料理人の「豚の蜂蜜味噌」
撮影:塩川陽一
撮影・編集:塩川陽一
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宮崎市の繁華街で自分が経営する店の休日に出勤して今号の料理を作ってくれたのは、和希料理人。「店を開けている日の日中は、西都市の自社の畑を世話しないといけないし、西都市や佐土原町、新富町、日南市の農家から野菜を仕入れているので、その農家を日に分けて毎日回っているんです。店で使う野菜の9割ぐらいは農家から直接仕入れで間に合いますね。野菜ソムリエの資格を持っているので野菜にはこだわっています。自社畑は実家が農家なので自分の畑を借りて作っているんです」
野菜に対するこだわりが伝わる。
「油味噌は沖縄や南九州の郷土料理なんですけど、今日は粗挽きの豚肉と蜂蜜を使います。家庭での常備菜、ご飯の友として人気がありますよね。冷蔵庫に入れておけば2か月は美味しく食べられますよ。焼きおにぎりと野菜スティックで食べていただきます。このピーマンは大きくてパプリカに似ていますけど、ちぐさピーマンといって病気に弱くて一旦は廃れたんですけど、肉厚で雑味がないんですよ。
それで親父ともう一人の農家で復活させたんです。大きいので重さで枝が折れちゃったりして、収量が上がる品種でもないんですけど、美味しさがピカイチなので……。今は大根がない時なので、早くできる須木村の大根を探して、キュウリは西都市の先輩が作ったものです。トマトは自社畑で採りました。無農薬はもちろんですが、収穫前には水を遣らないで水分を抜いて旨みを濃縮させています」
野菜の説明を聞いているうちに、撮影の照明が準備できたようだ。さっそく調理が始まる。
「ショウガを刻みます。豚肉が粗挽きなので、ゴロゴロした食感を残したいので刻みますけど、フードプロセッサーに掛けても、下ろし金で擦っても良いです」
和希料理人はこう言うが、本心は包丁を使いたいから、刻んでいるのではと思わせる。というのは、調理台のすぐ上に包丁を納める棚があり、研ぎ澄まされた包丁が数本収まっている。現に今使っている包丁も見たことのない幾重にも波紋のある包丁だ。
「ニンニクも一緒ですね。塊が苦手な人は擦っても、ご家庭ならばチューブのニンニクでも大丈夫です。ニンニク大好きという人はゴロゴロで……。僕はニンニクとショウガが好きなので、ちょっと粗めに刻んでますけど」
ニンニクが刻み終わると、火の点いたガス台にフライパンを載せゴマ油を入れる。
「ショウガとニンニクを炒めていきます。香りを出さなければいけないので、しっかりと炒めますね。今日は粗めに刻んでるので強火ですね。豚肉も粗挽きなので、ここに入れて炒めます。ニンニクとショウガの香りが出てきて、豚肉のピンク色が無くなってくるところまで火を入れます。豚肉のピンク色が無くなったら焼酎を入れます。続いて味噌を入れます。ここでしっかり煮込めば濃い豚味噌になりますし、あっさりと煮込めば浅めの豚味噌ですね。味噌を入れてからはちょっと弱火にして味噌を溶かしながら混ぜていきます。作っている時には熱があるので緩めですけど、冷えていけば段々固くなっていくので、仕上がりは作っている時より固くなると思っていてください。味噌が完全に溶けたら蜂蜜を入れます。まだまだ緩い感じですが、これが冷えたら丁度良く固まってきますから……。蜂蜜が全体に回ったら火を止めて完成です」
ガス台のフライパンにゴマ油を入れてからは、休む間もなく一気に完成だ。
「粗熱が取れたら、ビンなどの器に入れて氷水で冷やしてから冷蔵庫で保存します。これで豚の蜂蜜味噌は終わりですが、焼きおにぎりと野菜スティックを準備します。ピーマンは縦切りが良いです。繊維に沿って切ると苦みが出ないですね。軸の白い所が苦いので避けて切ります。大根は松葉切りにすると、簡単なのに見栄えがするのでぜひやってみてください。キュウリも普通に切って良いんですけど、竹に見立てた飾り切りも良いですよね。キュウリは色々な飾り切りが簡単にできますからね。切る材料によって包丁は変わりますね。今使っている包丁はダマスカス製法といって深い材質を何枚も重ねて打っていく製法で切れ味に粘りがある包丁なんです。料理人の命と言われている包丁ですから、私はこだわっていますね。シリアのダマスカスで最初に生まれた製法で、ZDP189という鋼を薄く重ねて打っていくんです。普段は鋼の包丁ですが、仕事のシーンに合わせて使い分けています。白鋼は白紙2号といって昔から良く切れると言われていますけど錆びます。白鋼にクロームを混ぜて硬くして粘りを出したのが青鋼、白鋼にステンレスを混ぜて作ったのが銀三。これは錆びないです。モリブデン鋼の上位鋼のスエーデン鋼の包丁もありますね」
職人に道具の話を差し向けたのが失敗だった。包丁の話は終わりがなさそうなので、そろそろ試食をということで、大皿にたっぷり盛り付けられた「豚の蜂蜜味噌」と飾り切りの野菜、それに焼きおにぎりを戴く。
「甘塩っぱい感じが郷土料理感ですよね」と、和希料理人が先手のひと言だ。一推しのちぐさピーマンに豚の蜂蜜味噌を載せて口に運ぶ。確かにパプリカとは歯触りが違う、肉厚なのだ。和希料理人が自分の子どもを心配するように言葉を挟む。「万能ですよね。ご飯にそのまま載せても良いし」。確かに、単なる焼きおにぎりが充実した食事に感じる。次は、豚の蜂蜜味噌だけを口に運ぶ。豚肉が口の中で存在感を現す。噛みしめると肉汁の旨みが口に広がる。旨い。これだと野菜スティックは要らないし、焼きおにぎりも要らない。ただ、焼酎のお湯割りが欲しい。
市川 和希(いちかわ かずき)
1989年生まれ 高校の調理科を卒業した後、岐阜県の料亭で日本料理を4年間修業し、郷里の宮崎でも修業を重ねた。2017年に宮崎市で開業した「美酒&肴 和季」の店主。農家の長男として生まれ、農家を継ぐべきか悩んだ末に、食材が軽んじられ生産者の顔が見えない現状を変えたいと、退路を断って料理人の道に入った。野菜ソムリエの資格を活かし、生産者が思いを込めた宮崎の食材を消費者とつなぐ料理を提供。「新鮮安全は当たり前、しっかりした手仕事で食材を昇華させる」を心掛けている。
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