2020年(令和2年11月) 47号

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〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

桑原研郎シェフの「ポーク ビネガー」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

 繁華街に店を構える研郎シェフがカウンター越しに悲鳴のような声を出す。「コロナの感染者が増えたとニュースが出るたびに予約のキャンセル電話が鳴るっちゃが。もう大変」。宮崎のような地方都市でも都市圏から流れてくるコロナ禍の全国ニュースに一喜一憂しているのだ。

 撮影の照明を仕込んでいる塩川カメラマンと研郎シェフが打合せを始めている。「簡単に言うと酢豚です。でも肉を油で揚げると大変だからフライパンで焼きます。肉は宮崎ブランドポークです。野菜を切って下茹でして、肉を切ってフライパンで焼いて、フライパンで仕上げます」。

 照明の仕込みが終わった。塩川カメラマンが研郎シェフに目で合図を送る。調理が始まった。

「レンコンから切りますね。厚みは1センチほど、輪切りを4等分して食べやすい大きさにします。次に、安納芋(サツマイモの一種)は厚さ3ミリほどで輪切りにします。この2つの野菜は硬いので、2分間下茹でします」

 「次はズッキーニですね。これも3ミリほどの厚さに切ります。これは安納芋と間違えやすいので半円形に切っておきます。赤いパプリカは斜めに切ると盛り付けで見栄えがしますので、三角に切りますね。内側の綿は苦味になるので取ってもらって、ヘタも取ってください。野菜はこれで揃いました」

 ここまで下ごしらえをした後、小鍋に湯を沸かし、レンコンと安納芋を2分間茹でる。「湯に塩は入れてないです」と研郎シェフ。タイマーが2分間をピッピッピッと知らせる。ステンレスのザルに茹でた材料を受けてザーッと鍋を返す。「次にズッキーニとパプリカを下茹でします。新しく湯を沸かします。同じ湯でもいいんですけどね、今こぼしちゃったから。これは1分間茹でます」。

 タイマーが1分間を知らせる。同じようにザルに材料を受けて湯を返す。

 「次に豚肉です。宮崎ブランドポークです。脂が美味しいですよね。食べやすい大きさに切ります。厚みは2センチほどで3×4センチ角くらいですかね。これに塩、胡椒します」

 研郎シェフが人差し指と親指で塩を掴み、30センチほどの高さからパラパラとまな板に並べた10切の豚肉に振り掛ける。ホールブラックペッパーをペッパーミルでカリカリと振り掛ける。

 「肉を炒める前に調味料を合わせておきます。ニンニクは半片だけ使いますね。縦に切ると中に芽がありますので、包丁の角で弾くように取り除いてからまな板に置き、包丁の腹に手を当てて体重を掛けて押し潰します。そうすると香りが出ますのでね。それからみじん切りにしていきます」

 研郎シェフがみじん切りしたニンニクを小さなボールに入れる。続いて合わせ調味料の材料を入れていく。

 「入れる順番は決まったものではありません。バルサミコ酢大さじ4杯、蜂蜜は大さじ2杯です。ケチャップ大さじ2杯、粒マスタード大さじ2杯です。で、塩を少々、これを良く混ぜてください」

小さな陶器に入った材料を掬い取るたびに、スプーンが器に当たる音がカチカチと響く。「よくかき混ぜてください。蜂蜜がよく絡まるようにですね」

 ここから肉をフライパンで焼いて、仕上げの段階だ。

 「では、豚肉を焼いてまいります。油を敷きます。サラダ油で結構です。肉から脂が出るので、サラダ油は少々で結構です」と研郎シェフ、こう言ってガス台にボッと火を点ける。

 「あまり強くない火で炒めます。ゆっくりと……」。ジィジィジィジィーと肉の焼ける音が厨房に響く。「中まで火が通るように、こんがりになる位までゆっくり長く焼きます。2、3分ほど経てば肉をひっくり返しますね。何回もひっくり返します。これいい焼き色ですね、あ、これもいい色ですね」

 研郎シェフが満足そうな声を出す。

 「宮崎の豚は美味しいですよね」と研郎シェフ、誰に言うともなく呟く。

 「最初は肉が大きいなと思いましたけど、だいぶ縮みますよね」。時折、トングでフライパンの肉をひっくり返す。肉の焼ける香りが店の中まで漂ってきた。

 「だいぶ肉に火が通ってきましたんで、ここに先ほどの茹でた野菜を投入します」と研郎シェフ、大きく前後にフライパンを揺する。「もう全部の材料に火は通っているので、合わせ調味料をフライパンで絡めていきます。少々火を強めます」。バルサミコ酢の香りが漂ってきた。「ソースにとろみがついたら完成です」と研郎シェフが、フライパンをガス台から降ろし、真っ白い大皿に「ポーク ビネガー」を盛り付ける。

 欧風料理だが、今回は箸で戴く。まずはレンコンを口に運ぶ。シャキッとした歯応え。たっぷりとソースが絡んだ豚肉を口に含む。甘みを感じる。1回2回と噛めば、肉汁が口一杯に溢れ、肉は口の中から溶けるように消えていく。その後には酸味が舌の奥に残っている。蜂蜜とバルサミコ酢が絶妙のバランスだ。2人分の材料と研郎シェフから聞いたが、1人分でも結構なボリューム。隣で一緒に戴いていた塩川カメラマン「うん、これには赤ワインがいいな」と満足そうだ。

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