2021年(令和3年2月) 50号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/

編集:ⓒリトルヘブン編集室 〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

吉岡良祐シェフの「完熟金柑と蜂蜜で鰆の艶焼き」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

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     「今日の料理は金柑を炊くことがメインです。金柑が炊き終わったら、後はすぐですから」と、吉岡良祐シェフが独り言のように呟いて調理が始まる。宮崎で〈たまたま〉とブランド化され、知名度が上がっている大粒の完熟金柑20個のヘタを竹串で取り、同時に竹串の先で金柑の表面に針打ちをしていく。

     「炊く時に中の空気が膨張して破裂しないようにですね。料理人は金柑の周囲に包丁の角で切り口を作り、種を取り出して炊きますけど、種を気にしなかったら針打ちは果汁が出ないので美味しいんです」

     ヘタを取り終わった金柑を直径25センチほどの片手鍋に入れ、たっぷりの水を注ぎ強火に掛ける。「金柑のえぐみを抜くのに一回煮こぼしますね。どんな料理でもそうですけど、沸騰するまでは強火です。沸騰したら火を弱めて更に炊き続けます。金柑が大きくなってきたと思うんですよね。中の空気が膨張してるんです。中まで火が通ったということなんで、氷水に入れて余熱を取ります。本当は流水で晒した方がアクは取れるんですけど、〈たまたま〉はえぐみが少ないんで……。時間短縮ですね」

     しばらく氷水の中で金柑を揺り動かし熱を冷ましてから、再び、金柑を鍋に戻してミカンジュース500ccと白ワインを100cc注ぎ入れ、ガス台の火を点ける。ボッと強火の青い炎が鍋全体を包み込む。少しすると鍋の端にチリチリと小さな泡ができ始めた。

     通常は蜜煮するんですけど、今回は、金柑そのものの旨みを引き立てるために、みかんジュースを使います。味を調えるのは蜂蜜です。保存料の代わりにもなりますね。糖分を入れることによって、すごく日持ちが良くなります。蜂蜜は味を調えながら数回に分けて入れていきます。蜂蜜からもアクが出ますので取りながら炊きますね」

     良祐シェフが小さなお玉で焚き汁を掬い取り味見をする。再び、蜂蜜を少しずつ鍋全体に行き渡るように円を描いて垂らしていく。

     「結果的に蜂蜜は200グラムでしたね。これだけ蜂蜜を入れたら2、3か月は保ちます。家庭用では少し甘めにしておいた方が良いですね。料理人は皆、金柑を食べるために炊くので、この地(煮汁)は捨てるんですよ。私は修業時代、この地が好きで炭酸で割って飲んでいたんですよ。それで今日の料理を思い付いたんですけどね」

     「10分くらい炊いたら火を止めます。これを常温でゆっくり冷やすと金柑の中まで味が入っていきます。最後になりますけど、これはお好みで良いんですが、火を止めてから30ccほどオレンジリキュール・コアントローを加えます。抗菌作用になりますし、香りが引き立ちますね。プロとしてのワンポイントですね。プロは香りを大事にしますんで……」

     冒頭で良祐シェフが話していた金柑を炊くメインの調理はこれで終わった。

     「地を何に使えるかを次にやります。僕は、これから先のことをしたいのですが、それをするには仕込みが要るということですね」と前置きをすると、良祐シェフは手元にあったジャガイモやカボチャ、ズッキーニ、平茸を適当な大きさに切り、素揚げにして天ぷらバットに並べていく。

     「次に鰆に塩をします。下味ですね」と、大皿に並べた鰆の切り身に高さ3、40センチの所から塩を薄く振ると、薄力小麦粉をまぶしトントンと叩いて余分な粉を落とした。直径30センチほどのフライパンにサーッと油を流し入れ馴染ませる。

     「鰆は皮目の方からフライパンに入れていきます」と、小麦粉をまぶした鰆4切れをフライパンに並べ前後に大きく揺すると、しばらく火に掛けたまま置いておく。トングで鰆を持ち上げ焼け具合を確認する。「ちょっとパリッとするまでです。粉を打ったのは、今からフライパンに入れる地が粉に絡んで、外は甘酸っぱい衣で中はフワッとした鰆の艶焼きにするためですね」

     フライパンをガス台の上で円を描くように揺すりながら、金柑を炊いた地を100cc入れる。ジャジャーッと大きな音がして地が沸騰する。そこへバターを20グラム入れ、強火で泡立つようにガス台の上でフライパンを揺する。

     「ちょっとだけ香り付けの醤油を加えます。少量です。火を消します」

     ここで一旦火を消して、地を絡めた鰆の切り身をフライパンから取り出すと、再びガス台に火を点け、素揚げした野菜を地に絡めて取り出す。最後にフライパンに残っていたソースに地を注ぎ足し、醤油も少し加えて煮詰め、盛り付けた鰆の上に掛けて照りを出すためのソースができれば完成だ。

     「このリメイクをやりたかったんですよ。甘いんだけど砂糖ゼロですからね。甘みが尾を引かないんで、どんどん食べられますよ」

     鰆の艶焼きをひと口頬張る。僅かに酸味を感じ、続いて柔らかい甘みが口一杯に広がる。ふくよかな鰆の白身がしっかり存在感を示す。傍で塩川カメラマンが「フルーティで天然の甘さなんで上品。自然の甘さで飽きがこないな。辛口の白ワインか日本酒が合うね。これは旨い」と、すっかり晩酌モードである。

    吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

    大阪、福岡の「なだ万」にて修業し5年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。現在、宮崎市内で3店舗を経営。

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