2021年(令和3年3月) 51号

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桑原研郎シェフの「豚肉の日向夏ドレッシングサラダ」

撮影:塩川陽一

撮影・編集:塩川陽一

桑原 研郎(くわはら けんろう)

1976年生まれ。2003年に宮崎市で開業した「ボンターブル」のオーナーシェフ。イタリア料理を中心に、欧州料理を書籍や食べ歩きをして独学で学ぶ。「県産野菜のバーニャカウダ(北イタリア料理・温かいソースの意)」が、宮崎市健康増進課の「伝えたい健やかなおとなメニュー」に選定。地産地消にこだわり、安心で健康な料理を作ることを目指している。

 材料をカウンターに並べながら桑原研郎シェフが逡巡している。「最終的な料理の名前は作りながら考えますね」。研郎シェフは毎回、蜂蜜を使った新しい料理に挑戦してくれる。「一昨日、試作品は作ったんです。その時はまだドレッシングが確定できてなくて、昨夜、家族で食事に出た時に色々とアイデアが浮かんできて、やっぱりひとの作った料理を食べるのは刺激になりますね」と何気なく語る研郎シェフの言葉から、料理に対する前向きな姿勢が伝わってくる。

 照明のセッティングを終えた塩川カメラマンと打合せをしている。「ドレッシングから作ろうかな」と研郎シェフ。「いきなり蜂蜜が入りますけど……」と、小ぶりのステンレスのボゥルに大さじ2杯の蜂蜜を入れる。「続いて白ワインビネガーを大さじ2杯」と呟きながら入れて、ボゥルの材料をかき混ぜる。次にマスタードを大さじ1杯加えて、更にかき混ぜる。「黒オリーブを5つ刻んで入れます。細かく刻みます」と、動画の録音を意識するように言ってボゥルに入れる。手慣れた様子で包丁の刃をペーパータオルで拭き取る。

 「これにアーモンドを入れます。アーモンドは包丁の腹で押して割ります。食感にアクセントが……」。語尾が聞き取れないと思ったら、次の動作に移っていた。左手を握りこぶしにした親指の付け根にドレッシングを数滴落とし口に含む。味の確認だ。ここで塩を一つまみ入れて、ボゥルの材料をかき混ぜる。「これでドレッシングは出来上がりです」。

 ひと区切り付いた時、研郎シェフが両手に芋焼酎の瓶と日向夏ミカン一個を持って、私に見せる。「ここらに郷土愛を感じてください」とアピールだ。

 「これから豚のバラ肉を茹でます。最初にショウガを薄くスライスします」。直径15センチほどの鍋に入れた水にスライスしたショウガ5枚と焼酎50ccを入れ、ガス台の強火で沸騰させる。そこに豚のバラ肉を入れ、しゃぶしゃぶをするように肉の色が変わる程度に茹でて鍋からザルに上げると、もうもうとした湯気と共に焼酎の香りが一気に立ち上ってきた。これをザルに上げて冷ましておく。「豚肉を冷ましておく間に具を作ります」と研郎シェフが、斜め薄切りにしたニンジンを重ねて、千切りにしていく。「これを湯がきます」と、再び鍋に水を入れて沸騰させ、千切りにしたニンジンをサッと茹でて小さなザルに上げる。ニンジンの香りが立ち上ってくる。

 ここで、ちょっとしたアクシデント。「ドレッシングにオリーブオイルを入れるのを忘れていました。今から入れます。撮ってもらっていいですか」と、研郎シェフが塩川カメラマンに話し掛ける。もちろん料理に影響はないのだが、塩川カメラマンは苦笑い。

 気持ちを取り直して料理を進行だ。「日向夏を切ります」と研郎シェフ、セラミックのペティナイフでリンゴの皮を剥くように日向夏の表皮を剥いていく。日向夏ミカン特有の香りが漂ってくる。表皮を剥き終わった日向夏を縦に4つに割り、袋の芯の硬い部分を削ぎ取ってから半割にして種を取り除いたら、乱切りにしていく。「盛り付けます」と研郎シェフ。黒い大皿の真ん中に茹でた豚肉を盛り上げ、その上に茹でたニンジンの千切りと日向夏を被せるように載せる。その上にブロッコリースプラウトの上部だけをハサミで切り取って置いた。ドレッシングを上から回すように掛けると出来上がりだ。

 「先ほど日向夏ミカンの皮を剥く時に、それまで使っていた包丁ではなくペティナイフに持ち替えたのは何故」と、研郎シェフに聞いた。「ニンニクを切るのに使う包丁は、果物を切る時には使わないです。まな板も替えますよ」と、そんな事は当たり前という感じで研郎シェフが答える。

 さて、ニンジンの赤と日向夏の黄色、その上にブロッコリースプラウトの緑色と、清々しい初夏の彩りの「豚肉の日向夏ドレッシングサラダ」を戴く。盛り付けの下から掘り出すように豚肉をフォークに刺して口に運ぶ。ほのかな甘さを感じる。豚肉を更に噛みしめると、鼻に抜けてくる香りがある。経験のある香りだが正体が分からない。しばし考える。恐らくだが、豚肉を茹でる時に汁に入れた焼酎の麹の香りではないかと思い付く。日向夏ドレッシングの酸味が食欲をそそる。大皿を持ち上げて最後の一滴までドレッシングを飲み干した。ドレッシングに入れたオリーブオイルの香りが鼻の奥に残る。日向夏ドレッシングは、香りのドレッシングなのだ。

 

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