農業のことしか知らんですもん
収穫のため早朝にイチゴハウスに出て来た雅彰さん
次は、入口が急坂になっている「安永さん」と呼ぶ蜂場へ移動した。
「近くにレンゲ畑があるけん、ここは今年から置かせてもらってるんです」と雅彰さん。ここでも兄弟それぞれが自分のペースで内検をしていく。遥輝さんが巣箱に取り付けた小さな丸い磁石を指差して教えてくれる。「磁場が蜂に良いらしいんですよ。取り付けて1か月なんで効果はまだ分からんですけど」。良いと聞いたら試してみる好奇心に若者らしく好感が持てる。少し離れた巣箱を内検していた雅彰さんが声を掛けてくれた。「未交尾の処女王が居ますけど、写真撮りますか」。カメラを構えて処女王を追うが、動きが速くて追い切れず、結局、群に紛れて撮影出来なかった。
継ぎ箱と隔王板を外して巣箱の内検をする雅彰さん
内検を終えようとしている時だ。雅彰さんが女王の居なかった群に、サナギの出来ている王台が付いた巣板を一枚、別の群から蜂が集ったまま移動させた。その後、雅彰さんは「やっぱ喧嘩が怖いです」と、何度も巣門を振り返るように確認している。
内検は順調に終わったようだ。しかし、見付けられなかっただけならば良いのだが、女王蜂の居ない群が何群もあったのは気になるところだ。概ね群の勢いが良かったことは救いだ。
蜂場からの帰り道、軽トラックを運転しながら雅彰さんが心細そうにポツリと言う。「他所で働いたことがないけん、農業のことしか知らんですもんね」。年長者の私としては、「それで良いんだよ。一つの分野を極めれば根っこは全ての分野に通底しているんだから」と、励ましにもならない平凡な言葉を掛けるしかなかった。自らの不安をポツリと口にする雅彰さんの口ぶりから彼の誠実な人柄が伝わってくる。
雅彰さんと遥輝さんには、生まれ育った故郷で家族と共に過ごす幸せの時間を、いつまでも大切にして欲しいと願わずにはおられない。
「安永さん」蜂場で内検をする遥輝さん(左)と雅彰さん。「女王を見付けられないけど、蜂は荒れてないから居ると思うんですよ」
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