料理の手順
サテとは何か。杉松さんが夫の仕事の都合でマレーシアに1年、インドネシアに2年暮らしていた時に馴染んだ食べ物で、「パサマラム(夜市)の屋台で現地の皆さんもよく食べていた串焼き料理ですが、東南アジア風の焼き鳥ですね」とのことだ。
焼き鳥とサテは何が違うのだろうか。焼き鳥は塩か醤油で焼くが、サテは様々な材料を混ぜたタレに漬け込んでから焼くところが大きな違いである。
さて、話を調理に戻そう。最初に準備した鶏のもも肉の皮と脂とスジを取り除く。
「そんなに神経質にならなくても良いんですけど、気になる所を取っていきます。で、後では、これを切っていきますけど、柔らかいままで切るより少しだけ冷凍庫で凍らせておくと切りやすくなりますね。脂やスジを取り除いたら串に刺しやすい大きさに切っていきます。およそ2㎝角ですね。肉は形が整った方が良いので、端の方は切って別の器にとっておいて、チャーハンを作る時に使えば良いですよね」
およそ2㎝角に切った鶏のもも肉に塩をして、よく揉み込む。鶏のもも肉2枚に対して塩は小さじ4分の1ほどだ。よく揉み込んだら下味を馴染ませるために1時間ほど寝かせておく。
「その間に肉を漬け込むタレを作っておきます」と、耐熱ガラスのボールを持ち出してきた杉松さんだが、入れる材料の順番にちょっと迷っている。
「どれが最初でも良いんですけど、タマネギを摺り下ろしたもの50gをまず入れます。次に摺り下ろしたニンニク一片と摺り下ろした生姜を大さじ1杯、ピーナッツバターを大さじ2杯と少し追加で入れます。ピーナッツバターは粒々が入っているものが美味しいですね。続いてめんつゆ、3倍希釈用を大さじ3杯、酒を大さじ1杯、カレー粉も大さじ1杯。それに蜂蜜を大さじ1杯ですね。これを混ぜ合わせておきます。インドネシアで使うケチャップマニスという甘口醤油の代わりに蜂蜜とめんつゆを使っているんですね」
これが漬け込むタレだ。先ほどの1時間以上寝かせた鶏のもも肉を、このタレに漬けて手で揉み込む。
「ピーナッツバターが固まっているところがあるので、丁寧に肉を混ぜてから、これを冷蔵庫でもう一度1時間以上寝かせます。寝かせる時間が結構掛かるので、前の日にやっておくと良いですよね」
タレに漬けた鶏のもも肉を寝かせている間に、インドネシア料理の簡単な講習会だ。
「アヤムゴレンは油で揚げた鶏肉で、ナシゴレンは焼き飯、ミーゴレンは焼きソバ。インドネシア料理はめっちゃ美味しいですよ。日本人に合いますよね。でも日本にあるインドネシア料理を食べても味が違うように思いますね。日本人に合わせているんですかね。最近はインドネシアから沢山の方が働きに来ていますよね。日南のカツオ漁船に乗っているのは、ほぼインドネシアの人ですよね」
そんな話をしているうちに冷蔵庫に寝かせておいた肉を竹串に刺す時間となった。しかし、竹串に肉を刺すのは、オーブンの予熱を200℃にセットしてからだ。水に浸しておいた少し長めの竹串に漬け込んだ肉を刺す。
「焼き鳥を刺すみたいに竹串に刺してもらえば良いんですが、肉が真四角に切ってあるとやりやすいですね。実際現地でサテに刺しているのはすごく小っちゃいお肉ですよ。これは鶏ですけど、牛やマトンもあります。けどやっぱり、オーソドックスなのは鶏かな」
鶏のもも肉を竹串に刺し終わった頃に、予熱が200℃に到達した合図の音がチーンと鳴った。天板の上にクッキングシートを敷いて、肉を刺した竹串を並べてオーブンに入れる。
「予熱が完了したオーブンの上の段に入れます。15分間焼いたら終わりです。焼き上がったらサンバル(辛味調味料)を付けて食べるんですけど、辛いのが苦手な人は少しにした方が良いかも知れませんね。サンバルは何にでも美味しいんです。ラーメンに入れても良いですよ」
やがて15分が過ぎた。杉松さんがオーブンの扉を開けると、カレーとピーナッツバターの焼けた香りが一気に噴き出し厨房の中に充満する。折しも窓の外は突然のにわか雨。インドネシアの蒸し暑い湿気に満ちた林の中を歩く気分だ。
杉松さんは大きめの無垢の木皿に「かいしき」として大ぶりの緑葉を一枚敷き、焼き上がったばかりのサテをきれいに並べる。周りにライムとミニトマト、キュウリと赤タマネギをあしらい、グロッパ(ショウガ科)の花を添えた。
おもむろに一本のサテを手に取ってサンバルを少し付け、竹串を横に引くように鶏肉を頬張った。焼き鳥とは違うが、その違いを言葉にできない。鼻に抜ける香りは明らかに東南アジアの風を思い起こさせる。冷たいビールが欲しくなる。それにしてもイスラム教を信仰しているインドネシアの人々は、サテを食べて何を飲むのだろうか。若い頃、海外旅行のトランジットで何度も立ち寄ったシンガポールの街の匂いだけが思い出された。
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi