2021年(令和3年7月) 54号

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面布も手袋も着けずに内検

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 貴一さんが、今ヒマワリ畑が満開だと誘ってくれた。研究所の近くを流れる徳島県の母なる川、吉野川に浮かぶ中洲の善入寺島にあるという。これが中洲かと疑うほどに広大だ。貴一さんの軽トラでしばらく走っても、まだ続く畑の所々に一面のヒマワリが満開を迎えていた。農道脇には乗用車が連なって駐まり、高級カメラを構えるカメラマンたちが自分のアングルを探して行き交っている。ヒマワリ畑の帰り道で「カボチャの交配に貸し出している群があるから」と、貴一さんが内検に立ち寄った。カボチャの花は終わりに近く蔓は少し黄ばみ始めている。貴一さんは面布も手袋も着けずTシャツのまま、巣箱の蓋を開け、巣板一枚一枚を丁寧に見ている。「卵、産んでますね」と小声で私に伝える。交配用とはいえハウスの中とは異なり、一箱だけポツンと置かれた群でも順調に生育しているのだ。巣板を一通り見た後、巣箱の蓋が風で飛ばされないようにベルトを掛ければ、内検は終了だ。

 帰りの軽トラの中で貴一さんが教えてくれた。「うちの代表(輝信さん)は蜂蜜を目にも塗ってますよ。その意味では研究所を身を挺してやっていますよね」。

 貴一さんと私が研究所に帰り着くのを待ちかねたように、輝信さんと養蜂研究所の技術部長を務める山本忠志(やまもと ただし)さん(71)が大テーブルの席を立つ。それまで話をしていた新見さんもそそくさと帰って行った。事態を飲み込めずにオロオロとしている私に、山本さんが「皆で温泉に行って、夕飯もそこで食べますから」と説明する。輝信さんはすでに蜂蜜入りシャンプーと蜂蜜入りボディソープ、それに絞り出し容器に入った蜂蜜など風呂道具一式が入った木箱を手に提げて歩き始めていた。佐紀子さんは私を見送るために庭に出て待ってくれている。「一緒には行かれないんですか」と声を掛けると、「私は家を空けることができないから」と笑顔で言う。

 私は再び貴一さんの軽トラに同乗させてもらって温泉へ向かった。県道12号線を西へ走り始めるとすぐに吉野川の支流に架かる橋に出る。その橋の手前で貴一さんが「待ちましょうかね」と呟く。言われて橋の対岸を見ると、大型トラックが橋に進入してくるところだ。橋の上も一応2車線であるが、確かにギリギリの幅。貴一さんの穏やかな性格の一端を垣間見た気がする。

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