2021年(令和3年8月) 55号

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面布をめくって齧った

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 続いて10分ほど移動して日髙蜂場へ。

 「ここは元、日髙町の町道なんです。アスファルトの上に腐葉土が溜まって、もう見ただけでは分かりませんけど」と、太史さんが説明する。言われなければ分からないほど自然が蘇っている。良く見れば、林の中に帯状の空間があり、所々にアスファルトの塊が転がっている。「電柵の杭が打ち込めなくて」と、思ってもいなかった苦労があるようだ。

 太史さんと元矢さんは、蜂場に到着すると燻煙器に火を付ける前に、準備していたクーラーボックスから氷の入ったカップを取り出しボトルのコーヒーを注ぐ。「熱中症が怖いですからね。僕ら、小まめに休憩は取りますね」。元矢さんが、私にもアイスコーヒーを勧めてくれる。

 日髙蜂場では4日前に採蜜したばかりだが、すでに蜜巣板は満杯状態。蜜蓋も巣板の上部に半円を描くように出来ている。太史さんの内検は丁寧だ。巣箱を覗き込むようにゆっくり蓋を開け、巣箱の後ろ側に裏返して置く。その上に、巣箱の真ん中から取り出した巣板を巣箱に立て掛けるように置いた後、外側の巣板を取り出してじっくり巣房の状態を見つめる。外側の巣枠にはムダ巣が付いていることが多い。切り取ったムダ巣を面布をめくって齧(かじ)った太史さんが、報告するように私に話し掛ける。

「三岩よりこっちの方(の蜜)が赤っぽいですね。赤ジナの蜜が入ってんのかも知れないです」

 シナ蜜はお盆の頃と決まっていたが、温暖化の影響なのか全体に流蜜の時期が早まっているようだ。

 気になっていたので、太史さんが素手で内検をしている理由を聞いてみた。

 「特に理由ないです、暑いからです。ほんとは僕、アトピー持ちなんで、薬も飲んでますんで、素手ではやりたくないんですけど……」

 理由は単純だが、真夏に完全防御の服装で作業をする大変さは切実なのだ。

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