2021年(令和3年8月) 55号

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 蓋の裏に溢れる蜜蜂

 三岩(みついわ)蜂場に到着するなり、小笹元矢(おざさ げんや)さん(36)が上空を指して「あれ、分封ですよ」と、私に教える。見上げると、高さ7、8mもあるエンジュの梢付近を無数の蜜蜂が飛び交っている。

 「今年は異常ですよ。(採蜜群を)作って1ヵ月で分封しちゃったり。こんなことは今までにないです。エンジュの流蜜が良くて、ガツッと入って、花(の期間)は2週間ないくらいですけど……。エンジュがドカッと入ったのは、これまでにはないんで……、8年くらい前に1回あったかな」

 今年の流蜜は例年になく豊富で、養蜂家には恵まれた年になっている。しかし、その分、蜜蜂群の勢いが良くなるため分封が起きやすいのだ。

 小笹太史(おざさ たいし)さん(36)が巣箱の蓋を開けると、蓋の裏に巣箱から溢れるようにびっしりと蜜蜂が集っている。巣門周辺の巣箱にも溢れ出した蜜蜂が貼り付いている。

 「僕らは、こういう蜂を目指しているんです」と、太史さんが得意げだ。

 蜜蜂の生態として、巣板の中央から下へ半円形を描くように女王蜂が卵を産み付け、その周辺に働き蜂が餌として採集してきた花蜜や花粉を溜めていく。そのため採蜜期には、養蜂家は隔王板と呼ぶ女王蜂が通り抜けられない格子状の枠(隔王板)を下段の巣箱と上段の継ぎ箱の間に挟み、女王蜂が卵を産み付けるのは下段の巣箱だけにさせるようにする。そうすることによって継ぎ箱の巣板は全て、蜜を溜める蜜巣板にしている養蜂家が多い。

 しかし、太史さんは隔王板を使わない。

 「隔王板を使うと、どうしても蜂数が減っていくので、(巣箱を)3段にするなど上に伸ばしていくようにしてるんです」

 なるほど、緩やかな傾斜のある蜂場に並ぶ2段になった巣箱の中に、すでに幾つか3段になった巣箱もある。

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