2021年(令和3年8月) 55号

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クローバーの糖度は乗らない

 翌朝、午前5時過ぎに集合して富川蜂場でクローバー蜜の採蜜だ。国道から脇道に入り小さな住宅街を抜けると、未舗装の農道に入った。緩やかなカーブを進み、谷へ降りる手前右側の小さな広場が富川蜂場だ。キモクレンとアカギの樹が丁度良い木陰を作っている。

 トラックを巣箱近くに停めると、太史さんと元矢さんの2人で遠心分離器を抱えて降ろす。元矢さんがバッテリーを繫いで空回しをする。昨日、内部を洗った後に残った水分を振り飛ばし、丁寧に拭き上げる。空の一斗缶を8缶並べ、端の缶の上に漉し器を載せると採蜜の準備完了だ。

 太史さんが、その間に蜜巣板を継ぎ箱から黄色のコンテナに移すと、元矢さんが抱えて運び、蜜蓋を切り遠心分離機へセットする。採蜜を始める時の儀式のように、太史さんが搾ったばかりの蜂蜜の糖度を糖度計で測る。一瞬、太史さんの表情に戸惑いが走る。「78度」と小声で呟く。基本的に糖度が78度あれば、規格上も問題はない。しかし、太史さんと元矢さんの表情が優れない。「前に搾ってから10日間は置いてあるんですけどね。クローバーは樹の蜜ではないので、糖度が上がりにくいですね」。元矢さんが「どうしてだろう」という疑問を自らに投げ掛けるように私に話す。恐らく小笹兄弟は、私の取材のためにできるだけ良い蜜を採ることができる蜂場を残しておいてくれたのだ。まさか糖度がここまで上がっていないとは……。

 続いて4箱、5箱まで搾ってみたが、糖度は78度から上がらない。

 「3日前に整理して、いけるかなと思っていたんですけどね。クローバーの糖度はなかなか乗らないんだ。日髙沿岸の湿気は馬鹿にならないですよ。モチやレンゲは柔らかくても糖度は高い傾向がありますけどね」。太史さんの言葉から残念な気持ちが伝わってくる。

 「たぶん熱ダレですね。ここ数日、あまりにも暑くて蜂が動けなくて、巣箱に止まってじっとしていることがあるんですよ。僕らの中では、採っちまえというのはないですね」と、元矢さん。阿吽の呼吸で、2人の合意は出来ているようだ。本日の採蜜は中止となった。

 この後は、蜜巣板の蜜蓋を切ってから巣箱に戻して糖度の上がるのを待つか、巣箱によって蜂数にムラがあるのを調整したり、よく集めている群の蜜巣板を、集めていない群に移したりして、全体の糖度を上げる調整をするのだ。

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