2022年(令和4年9月)65号

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由加山蓮台寺参道横の池。奥に竣工間近い新本堂が望める

由加山蓮台寺の不動明王。この前で毎月28日に護摩供養が行われる

 「権現さん言うて、神社とお寺が一緒になっとるんじゃ。香川の金比羅さんと両参りしたら、ご利益があると言われて、皆、お参りに来たんじゃ。元旦から成人式まで境内の入口で備前焼を1日で80万円も売りよった。昔の話よ」

 倉敷田中養蜂場の田中常雄さんが、このように紹介する由加山蓮台寺を訪ねた。厄除けの霊山として、岡山藩主の祈願寺としても知られ、毎月28日には午前11時から護摩供養が行われる。幽玄な雰囲気の中で写真を撮りたいと思い、午後5時過ぎに駐車場に車を停めて境内へ向かうと、総本殿へ向かう石段は工事中で通れない。左手上を望むと10月4日に落成式が予定されている新本堂が竣工に向けて周辺工事の最中のようだった。右側の通路から境内奥へ行こうとしたが、総本殿も売店も扉が閉まり取りつく島もない。仕方なく、境内入り口のケヤキの大木に付いたサルノコシカケなどを撮影していると、大きな懐中電灯を肩から斜めに下げた警備員らしき職員に呼び止められた。

 「どちらから来られているんですか」「宮崎です」「あの九州の宮崎ですか」「そうです」「遠方からですね。ありがとうございます。何の写真を撮っておられるんですか」「いや、特に何ということではないんですが……」「もう5時を過ぎましたので、ゲートを閉めますよ、いいですか」「ええ、もちろん」

由加山蓮台寺境内にて

 そんな会話をした後、ゲートを出て境内の外側を巡る遊歩道を歩き始めた。道端の茂みや左手の池の様子などを撮影していると、先ほどの警備員が全速力で走り寄って来るのが見えた。近くに来るなり「あんた、なに写真撮ってんだ」と怒気を含んだ声で問いただす。私は、怒りの理由が分からない。「何かあったんですか」と聞くが、それには答えず「あんた宮崎から来たと言っただろ、証拠を見せろ、証拠を」。ますます怒りは激しさを増しているようだ。「名刺を差し上げますよ」と名刺を出すと、「あんた写真屋さんか」と、少し落ち着いた様子だ。「そんな格好をしているから、怪しいと思って……」と、警備員が言い訳じみて言う。そう言われて自覚した。倉敷田中養蜂場からの帰り道に寄ったので、白い繋ぎの服に長靴を履いて、目深く帽子を被っていた。確かに、目立つ格好ではある。

 「今、神社荒しやお寺荒しが流行っているんでね。丁度、マンが悪い時に来たから……。夕べも今朝も警察官に来て貰ったばっかりだったから、1回だけじゃないんです。お賽銭泥棒に何度もあってるんですよ」。少し落ち着いた声で警備員が言い訳する。「お賽銭泥棒が、こんな目立つ格好で来ると思いますか。その方がおかしいでしょ」と私。警備員は苦笑いだ。「そこに池があって、カブトムシを探しに来る人も居ますよ。長靴を履いておられるから大丈夫だとは思うけど、足下に気を付けてください。マムシがおりますからね。この名刺貰っときますよ」。警備員、バツが悪かったのか、話題を変えて、笑顔で帰って行った。その間にとっぷりと日が暮れて、もう撮影の状態ではなくなっていた。

ケヤキにサルノコシカケ

 翌日は、「わしが案内してやる」と、常雄さんがクラウンを運転して連れて行って貰うことになった。以前は、常雄さんが境内の一画に備前焼の窯を設けていて、窯出しの備前焼を境内で販売していたとのことだ。そんな縁があるので常雄さんは蓮台寺の職員たちとも懇意の様子だ。そのお陰で、日本最大級の木造座像である厄除け大不動明王(総高7m59㎝、仏神3m66㎝)を普段は参拝者が入れない2階正面から拝観させて貰うことができたし、常雄さんが寄贈した杉の一枚板のテーブルも見せて貰うことができた。

 資料によると、現在は「有求必応」(求めあらば必ず応ず)の霊山として知られ、年間40万人ほどの参拝者があるそうだ。岡山県内のみならず瀬戸内海沿岸に名を知られた由加山蓮台寺は、常雄さんに案内していただいたことで身近な存在になった。近々お披露目になる新本堂はもちろん、毎月28日の護摩供養にも一度くらいは参拝したいものだと思っている。その時には、あの警備員に咎められないよう、目立たない格好で参拝しようと心に決めている。

田中常雄さんが由加山蓮台寺に寄贈した杉の一枚板テーブル

竣工間近の由加山蓮台寺新本堂

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