蜂屋は4年に1回、海外旅行
北海道から移動してきた継ぎ箱の蜜蜂群を群勢に併せて巣板を詰め餌として蜜巣板を足す
「結婚してから2年くらいは、お義父さんが越冬に行っていた鹿児島県の(曽於郡・そおぐん)大崎町へ一緒に行きました。仲良くしていた隣の農家のご主人が猟をされる方で、狸を捕ってきて大根やニンニクと一緒に味噌煮込みにして食べさせてくれるんですけど、狸肉の匂いを知っていますか、それを食べないといけないと思って必死で呑み込みましたね。純一さんと結婚したのは私が19歳の時。養蜂のことは何も知らなかったです。小学4年生の時に近くで分封騒ぎがあったのを覚えていますし、生まれ育ったのは札幌市の隣にある北広島市なので、初夏にはアカシアの花が咲いていましたけど、その花から蜂蜜が採れるのも知りませんでした。そのお陰で蜂屋さんと結婚することになっても抵抗はなかったですよね。だいたい結婚前の説明では蜂屋さんは4年に1回は海外旅行に行くということだったんですよ。それに蜂を九州まで持って行くから半年は旅行気分でおられるということだったんです。その他に「蜂屋は体力勝負」ということと「蜂蜜採りと洗濯ができれば良い」とも言われましたね。私は、夫婦はいつも一緒に居たいと思っていたので、それは実現できていますけど……」
大浜養蜂場全景
本拠地を北海道滝川市に置く高見養蜂場の高見純一(たかみ じゅんいち・69)さんと珠江(たまえ・62)さん夫妻が、約210群の蜜蜂を越冬させるために滞在している長崎県五島市吉久木町(福江島)を3月下旬に訪ねた。
珠江さんが狸肉を必死で呑み込んだ話は、結婚したばかりの新妻が「ここで生きていかなければならない」と思い詰めた覚悟が伝わってくる。傍で話を聞いていた純一さんが笑いながら「4年に1回ではなく、毎年、五島列島に海外旅行しているだろ」と茶化すが、自らも大崎町で新妻と始めた異郷での暮らしを思い出したのか、「養蜂家は仮の宿ですから、煙がけむたくて涙が出るのか、寂しくて涙がでるのか」と、呟いている。
内検を終え、蜂の状態を5段階で蓋に記入する
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