2015年(平成27年12月)9号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

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桑原 志織さんの

サクッねっとりの食感が命

フランス菓子 フロランタン

フロランタンは、今を遡る480年ほど前、1533年にイタリア・フィレンツェからフランス第2王子アンリ2世に嫁いだ大富豪の娘カトリーヌ・ド・メディシスに随伴した菓子職人によってフランスに伝えられた菓子として知られている。

|「フロランタンは、サブレ生地とアーモンドヌガーの2層になっていて、サブレのサクサク感とヌガーの歯に粘りつくねっとりとした食感のバランスが大切なんです」

こう話しながら志織さんは、二つに割った卵の殻を左右に動かしながら、卵黄を取り分けている。大きなボールに入れた薄力粉に、卵黄とグラニュー糖、無塩バターを一度に加え、素手でサブレ生地を捏ね始めた。

|「部屋の温度や湿度、それに卵の大きさによって生地の硬さが変わってきます。手の方が微妙な変化が分かるので、フードプロセッサーは使わないですね。サブレは砂という意味のフランス語で、サクサク感が命なんです。そのためにグラニュー糖を使います。砂糖は甘さだけでなく、食感にも影響しますよ」

サブレ生地は、やがて一つの固まりになり、小さなラグビーボールのような形にまとまった。

|「生地がまとまったらオーブンを180℃で予熱し、その間にサブレ生地を伸ばします」

40センチ角ほどのクッキングシートに、厚みが均等になるよう四角く生地を伸ばしていく。

|「生地を薄く伸ばすのが、私のこだわりです。上に載せるヌガーがアーモンドや蜂蜜を使っているので、サブレの部分はできるだけ存在感を消して、アーモンドヌガーの美味しさを引き立てたいですね」

ピッピッピッとオーブンが合図し、予熱の準備ができたようだ。クッキングシートごとサブレ生地を天板に載せ、はみ出した部分は中へ折り込みながら厚みを均等にしていく。

|「材料の分量が決まっているので、厚みはいつも一緒なんですよ。形が整ったら、全体にフォークで穴を開けます。ベーキングパウダーが入っていないので、生地を落ち着かせるためというか、空気を抜いておきます」

オーブンに入れ、15分から20分ほど焼くのだが、一気に焼くとオーブンによっては焼きむらができてしまうことがあるので注意が必要だ。

|「ここで、しっかり焼くことがポイントですね。焼きが甘いとサブレ特徴のサクサク感がなくなりますので、水分をできるだけ飛ばします」

サブレを焼いている間に、アーモンドヌガーの準備をする。小鍋に、蜂蜜、グラニュー糖、バター、生クリームを合わせて火に掛け、木ベラでかき回しながら煮詰めていく。

|「アーモンドは一番最後に入れます。入れるのは、もう煮詰めた後です。ヌガーを煮詰めるのは10分掛からないので、サブレの焼き上がる時間に合わせて煮詰め、出来たてをパーッと塗るんです」

最初は、中火の強いくらいだ。志織さんは、ヌガーの煮立ち具合を泡で確認しながら、火加減を微妙に調整している。

|「いま、透明感があるでしょ。これが白っぽくなるまで煮詰めるんです。ブクブクなってきたら火を一番小っちゃく弱めます」

志織さんは、視線を小鍋の泡立ちに注ぎ、右手は木ベラ、左手がガスレンジのコックを持ち、火加減を微妙に調整し続けている。時折、小さなボールに入れた冷水に、ヌガーを数滴垂らしてみる。

|「出来てないと、すぐ水に溶けてしまうでしょ。これが飴みたいに固まる時が来るんですよ。そのタイミングまで煮詰めます。ここでしっかり煮詰めると、ガシッとして歯に粘りつくようなねっとり感のあるフロランタン独特の食感になります。この食感に、蜂蜜がひと役買っていると思いますね」

オーブンを開くと良い匂いが漂ってきた。サブレ生地が焼き上がったようだ。ここで、オーブンの設定温度を160℃に下げて、予熱を維持しておく。

■ サブレ生地の材料

薄力粉

グラニュー糖

無塩バター

卵黄

■ アーモンドヌガーの材料

蜂蜜

グラニュー糖

バター

生クリーム

アーモンドスライス

 

240グラム

120グラム

120グラム

2個分

 

80グラム

80グラム

60グラム

(有塩・無塩どちらでも)

100cc

100グラム

桑原 志織(くわはら しおり)

栄養士。1976年宮崎市生まれ。福岡女子短期大学 食物栄養科卒業。観光で訪れたフランスで出合った食材や菓子の色鮮やかな魅力に取り憑かれ、料理と菓子の勉強を始める。その後もパリ近郊の料理教室を受講するなどして、研究を続けている。現在は一女を育てながら、宮崎市の欧州料理レストラン「ボンターブル」のデザートとケータリングを担当。2016年春には、ケータリング料理ラボを立ち上げるため準備中。

冷水にヌガーを数滴落とすと、底に透明な固まりができた。これでヌガーも出来上がりだ。これにアーモンドスライスを加え、まとわせる感じで混ぜ合わせる。焼き上がったばかりのサブレ生地の上に、流し込んで隅々までに広げていく。

|「端っこまで万遍なく、サブレ生地を隠す感じで伸ばしていきます。これを160℃のオーブンに入れますね。ここからは焦げやすいので、時間を短めにして、ちょくちょく見ながら焼きます」

タイマーの設定を3分にし、3分ごとに天板の向きを前後左右に変えながら慎重に焼いていく。全体が濃い茶色にむら無く焼き上がると、完成だ。オーブンから出したばかりの時は、表面にフツフツと小さな泡が立っている。この泡が収まってからクッキングシートごと天板から外し、熱いうちに4センチ角に切り揃えたら、480年の歴史を遡るフロランタンの完成だ。

|「食べるのは、冷めてからの方が断然美味しいです。出来たてだと、まだふにゃっとしててフロランタンのイメージとはちょっと違う感じですね」

志織さんには、詩(うた)さんという小学6年生の娘がいる。

|「今朝、フロランタンを作るよって言ったら、すごく喜んでいました。パクパク食べるおやつというよりは、ちょっとおしゃれなお客さん用なんです。いつもあげるのは切れ端なんですよ。四角いのは、あまり娘の口に入らないんです」

すっかり冷ましてからコーヒーと一緒にいただく。パキッとした歯応えは志織さんの狙い通りだ。サクと噛み砕くとヌガーが歯に絡む。同時にアーモンドの香りをふっと感じた。素朴な甘みだが、表現が難しい。この味を、娘の詩さんは何と表現するのだろうか、聞いてみたいと思った。

さて、志織さんが調べてくれた資料によると、フロランタンがイタリアからフランスへ伝えられた16世紀ごろ、砂糖は貴族が薬として扱うような貴重品で、ジャムを作るにも貴族は砂糖を使い庶民は蜂蜜を使ったとあった。

そもそも人は、いつから蜂蜜に親しんできたのだろうか。花蜜を分泌する蜜腺を持った植物が地球上に出現したのは8000万年前ごろとされている。蜜蜂の出現はそれ以前と考えられているので、人類(ホモ・サピエンス)が地球上に登場したと推定される150万年前には、すでに自然界の恵みとして蜂蜜が存在していて、登場したばかりの人類は身近な食料として親しんでいたことだろう。そんな壮大な物語を想像すると、蜂蜜に一層の愛着が湧いてくる。

① 材料を揃える

② サブレ生地の材料を手で混ぜ合わせる

③ サブレ生地を薄く均等に伸ばす

④ 焼きムラをなくすため
  天板の位置を変える

 

⑤ アーモンドヌガーの材料を全て

  手鍋に入れる

⑥ 焦げ付きに注意して煮詰める

⑦ ヌガーが煮詰まったら
  アーモンドスライスを加える

⑧ 焼き上がったサブレ生地に

    素早くアーモンドヌガーを伸ばす

 

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