2014年(平成26年)8月・創刊号

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料理家・藤原奈緒の蜂蜜を使った「あたらしい日常料理」①

「タイ風焼き鳥」

タイ風焼き鳥

若い頃の一人旅で体験したアジアンナイトの雑踏が、記憶の底から立ち上がってくるような味だ。ココナッツミルクと蜂蜜のコラボで、トリのもも肉を優しく包んでいる。オリーブオイルを垂らしたフライパンでしっかり火を通しているのに、肉はフワッと軟らかく、トリ肉の臭みを感じさせない。

「それが、まさに蜂蜜の効果なんです」。我が意を得たりと、藤原さんはちょっと得意顔。「蜂蜜を下味に使うと、お肉が軟らかくなるんです。蜂蜜の中にタンパク質を凝固させない成分があるので、お肉を軟らかく美味しくするんです。もう一つは、蜂蜜を下味に使うと、調味料を色々入れなくても、肉や魚の臭みが気にならなくなるので、手間は省けるし、調味料の節約にもなるんですよ」。

 

蜂蜜を使った料理と言えば、スイーツしか思い浮かべなかった短絡的な自分が恥ずかしい。藤原さんによれば、蜂蜜を料理に使う効果は、まだまだある。

「砂糖に比べて、蜂蜜は、糖度が78%なんで、お砂糖よりも自然な甘さですよね。それで、馴染んでくれるっていうか、他の調味料と調和してくれる感じがします。料理を作って、どうしても素材同士がバラバラな感じの時があるじゃないですか。そういう時に、蜂蜜をちょっと隠し味に、甘味を感じるか感じないか程度に入れてあげると、味がぴたっとまとまったりするんで……。また、蜂蜜は、どの花の蜜かによって、味は全然違いますので、アクセントとしても使えますよね」。料理に蜂蜜を使う極意は、奥が深い。

 

藤原さんの料理工房は、桜古木が並木となっている敷地に建つ築50年の住宅だ。暮らしに馴染んだしっとりとした空間が、藤原さんの作る料理のセンスを感じさせる。

調理台の上に、ステンレスの四角い深バットが置いてある。「深バットに、ココナッツミルクとナンプラー、その他、下味の材料を全部合わせて混ぜます。もちろん蜂蜜大さじ一杯も、ここで入れます。それにニンニク半かけ。ニンニクは細かければ細かいほど、香りがしっかりと立ちますし、絡むので、今回は、全体に絡ませたいので、細かく摺り下ろします。それに、今回、ガラムマサラというミックススパイスをちょっと入れますが、お家にあるカレー粉でも充分です。暑い時は、スパイスを効かせた方が食欲を増しますので」。

 

トリ肉を漬け込むソースは、一気に仕上がった。トリのもも肉の脂身は丁寧に切り落とし、筋も取って、食べやすい大きさに切り分ける。皮は、取っても取らなくても構わないが、カリッとさせたい時は、皮があった方が良い。混ぜ合わせたソースにトリ肉を漬け込んで冷蔵庫で寝かせる。目安として6時間(ひと晩)だが、出来れば2〜3日漬け込んだ方が、美味しく仕上がるそうだ。

 

「ココナッツミルクソースに漬けたトリ肉は、今日はフライパンで焼きますけど、油で揚げても美味しいので、何回かに分けて、変化を付けて料理しても良いですよね」

藤原さんが、ココナッツミルクソースに漬け込んだトリ肉を、冷蔵庫から出してきた。オリーブオイルを垂らし、フライパンにトリ肉をきれいに並べる。油の弾ける激しい音が、私の食欲を呼び起こした。途中で一旦、フライパンに蓋をして蒸し、じっくり火を通してから一つ一つを裏返すと、トリ肉は、こんがりきつね色に焼き上がっていた。

前もってフライパンで焼いておいたピーマンとナスを合わせ、大皿に盛り付ければ出来上がりだ。赤いトマトと緑のクレソンは彩りとして。

 

クセのない淡泊な味ながらも、深みのある風味が、充実した一品の印象を与える。藤原さんは2人分と言っていたが、ココナッツミルクとナンプラーの風味に呼び覚された遠い記憶を辿っているうちに、私一人で、ひと皿をほとんど食べ終わっていた。

■ 主な材料

トリのもも肉 2枚

ココナッツミルク 100cc

ナンプラー 大さじ2杯

蜂蜜(百花蜜) 大さじ一杯

ニンニク 半かけ

カレー粉 少々

藤原 奈緒(ふじわら なお)

料理家。札幌市生まれ。2004年より東京都小金井市のカフェで、地場野菜を使った料理とケータリングを担当。

2006年に素材の扱い方を伝える「日常料理教室」を開講。2013年に独立し、「あたらしい日常料理」をテーマに料理家として活動。

 

① 調理台の上に、揃えた材料

② ココナッツミルクを100cc

③ ナンプラーを大さじ2杯

④ 蜂蜜を大さじ一杯

⑤ 材料を混ぜ合わせたソースにトリ肉を漬け込む

⑥ きつね色になるまでフライパンで焼く

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