2017年(平成29年11月) 1号<創刊号>

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 午前0時まで店を営業して厨房の片付けを終えると、自宅に帰るのは午前2時を過ぎるそうだ。この日の取材は午前中。吉岡良祐シェフは、まだ眠そうな様子である。前もって「取材の本文と合わせて、ショウガを使った家庭料理を」とお願いしていたが、どんな料理が提案されるのか楽しみである。

 「今日は、新ショウガを使った煮浸しを作ろうと思います。それも海鮮を使った煮浸し。家庭ではお浸しを作るより煮浸しを作った方が、いつでも食べられるお浸しができます。ボイルせずに炒めながら、さっと炊いたお浸しなんですね。炒めることによって、細胞が壊れ、味が入りやすいんです。今日は海鮮煮浸しなんで、ちょっと温かい煮浸しになります。材料さえあれば、もう一品という時にすぐ出来上がります」

 厨房で、こんな話をしながら材料を揃えている間に吉岡シェフは仕事モードに入ったようだ。「材料が揃いました。それではいきます」と言った時には引き締まった料理職人の顔になっていた。

 「主役は鯛です。鯛でなくても白身魚でも良いですね。始めに、新ショウガ、セロリ、ニンジン、イカを細切りにしていきたいんですけど、新ショウガは皮を剥かなくていいんです。いいんですけど、皮を剥きたい時はですね、スプーンで剥くといいですね。包丁だと分厚くなっちゃいますよね。スプーンだと皮だけきれいに取れますから」

 皮を取り除いた新ショウガを板状に切り、それを横にずらして重ねて広げ細切りにしていく。

 「今日はショウガを食べるということで、ちょっと大きめに主張するぐらいの細切りにします。2人前と全体の量が少ないんで、このままだと辛すぎるから水に晒しますよ。次は、アクセントにセロリ。セロリは出汁が出ますね。洋風のブイヨンには絶対入ってますもんね。家庭では刻めば筋は取らなくていいです」

 トントントントン、包丁でセロリを刻むリズミカルな音が心地良い。

 「今日は軸だけ使います。セロリの葉っぱは色が変わっちゃうんで、仕上りの色を良くするためですね。次はイカですね。イカは噛めば噛むほど甘みが出てきますよね。イカの表面に隠し包丁を入れてあげることによって、噛んだ時の状態から始まるんですね。そうすると、最初から甘みを感じられます。イカの表に真っ直ぐ包丁を入れたら、裏は斜めに入れないと切れてしまいますからね」

 包丁の先を使って、スーッとイカの両面に何本も切れ目を入れた後、イカソーメンの要領で細長く切り揃えておく。

 「あとはニンジンですね。ニンジンって空気に触れた部分が皮になるんですね。そして一番栄養があるんです。でも水に流れちゃうんで出汁を取る時に良いんですね。ニンジンも細切り。マッチ棒くらいですね。包丁を立てて引いてあげると、くっ付かないで薄く切り離せるんで、そのまま横に倒して上から切ると最後まで細切りにしていけます」

 吉岡シェフは「家庭料理」であることを考慮して、包丁の使い方まで解説してくれているのだ。再び、トントントントンとニンジンを細切りにする包丁のリズミカルな音が厨房に響く。

 「水菜も3センチの長さで切っておきます。レシピは、いつも空想で書いてぶっつけ本番だから。レシピ通りやったら面白いものは出来ないです。頭の中でこれとこれは合うだろうという感じですかね。蜂蜜とショウガ。合いそうな物をピックアップして空想で作っちゃう。はい、これで、下準備は完璧です」

 「今日の主役の鯛に塩をします。普通、鯛の上から塩を振り掛けるんですけど、家庭ではですね、器に塩を振った方が良いんです。そしたら、どのくらい塩が入ったのか分かるんです。塩を振った皿の上にペタッと、そしてペタッと裏返す。塩がどのくらい入ったか、目で分かる。塩を薄くしたいんですよ」

 黒っぽい平皿に薄く塩を振り、鯛の切り身を載せ、次にクルッとひっくり返すと、簡単に鯛の切り身の両面に均等の薄塩をすることが出来た。薄塩をした鯛の切り身に刷毛で小麦粉をまぶし、なたね油を薄く敷いたフライパンを熱する。

 「魚の切り身は皮目から焼くと良いですね。盛り付けの時に上にくる面を先に焼くと良いんです。見せる側を多めに焼き、下は少なく。7対3ぐらいですかね。フライパンの上で最後まで火を入れると、タンパク質が全部壊れてバサバサになっちゃいますよ」

 皮目に焦げ目が付き反対側はレアの状態の時に、フライパンをガス台から降ろした。鯛の切り身はフライパンに残したままだ。

 「次に仕上げ、いっちゃいます。鍋にゴマ油を少し、まず新ショウガを炒めます。セロリもニンジンも加えます。イカを軽く炒めます。そしたら調味料を全部入れます。鰹出汁(市販の和風出汁の素でも良い)200ccから、料理酒、薄口醤油、最後に蜂蜜10ccを加えますね。蜂蜜を使うとコクが出ますんで、万能調味料ですよね。さっと炊いた後、彩りで水菜をパッと入れたら火を止めます。では、鯛を盛り付け、煮浸しを上から盛り付けます。具沢山の煮浸しになりましたね。ヒタヒタに出汁を入れます。鯛は見えなくなってしまいましたけど」

 「煮浸し」と聞いた時は小鉢で出てくる突き出しの印象だったが、スープ皿に盛り付けられた「新ショウガの海鮮煮浸し」は立派な一品だ。

 煮浸しの野菜の下に隠れている鯛を箸で崩し、野菜と一緒にいただく。口に入れた途端、ショウガの香りが鼻に抜ける。新ショウガだからこれだけの香りが立つのだろうか。野菜がシャキシャキで旨い。鯛の甘みも良い感じだ。噛むとイカの食感が前面に出てくる。濃厚で奥深い味だ。食べ終わると、口の中にショウガの辛みが少し残っている。それが一層の食欲を刺激してくる。

 辛口の日本酒が欲しいと思わせた。箸が進む。吉岡シェフが、そっとレンゲを脇に置いた。「スープを飲んでみて」という合図だ。

 スープも濃厚だ。ふくよかな味とでも言うのだろうか。隣の吉岡シェフが黙っておられないという感じで、自信たっぷりに話し始めた。

 「あんだけの野菜で、こんだけのスープを取ってるんですから。野菜の濃厚スープですよ、これ。昔ながらの和食の技法を使った煮浸し。焼き魚の香ばしさで、さらに出汁にコクが出ますから」

 レンゲで掬い取れず皿の底に僅かに残ったスープがもったいないと思わせる一品だった。

吉岡良祐(よしおか りょうすけ)

大阪、福岡の「なだ万」にて修行し、3年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。

① ショウガの皮はスプーンで剥く

② ショウガを細切りにする

③ 細切りにしたショウガを水に晒す

④ イカの両面に切れ目を入れる

⑤ ニンジンを細切りにする

⑥ 塩を振った皿に鯛の切り身を置いて

   塩をまぶす

⑦ 塩をした鯛に小麦粉をまぶす

⑧ 油を敷いたフライパンで盛り付けの際に

  上になる方を先に焼く

⑨ 千切りにした野菜に調味料を加えて煮る

⑩ 鯛の切り身を最初に盛り付ける

⑪ 煮た野菜を鯛を覆うように盛り付ける

⑫ 野菜を煮たスープを上から掛けて完成

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