2017年(平成29年11月) 1号 <創刊号>
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/
編集:ⓒリトルヘブン編集室〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203
掘り出されたショウガは先がピンク色で真っ白く透き通るように瑞々しい。この後、茎を根元から1センチほどの長さに切り、泥を落として分別し加工所に出荷される
ショウガの香りが漂い、清々しい秋空の下、季節契約社員と一緒に契約農家の赤木勇さん(右)も畑に座り込んでショウガの茎を切る
鏡野町と津山市の境界に位置する黒沢山の中腹から望む鏡野盆地の朝
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土が柔かかったら、ええものができる
ほっこりとした土の中から姿を現した新ショウガの肌は、瑞々しく透き通るように薄く白い。昨年までは米を作っていた水田だったが、ショウガ生産契約農家の赤木勇(あかぎ いさむ)さん(60)が、米ぬかや鶏糞を入れ、土壌消毒をするなど、土壌の改良を重ねてショウガ畑にしたのだ。
「知り合いの農家に米の梱包を手伝いに行って米ぬか貰って、量的にどんだけ入れたらどうなるというデータが無いんで、当てずっぽうの量を入れてですね。土が柔らかかったら、ええものができると思うとるけん。それから後もずーっと米ぬかと鶏糞を撒いてトラクターで混ぜるんです。5月の連休前に親ショウガを植えるんですけど、その前に土壌消毒して2週間置かんと薬が効かんと言いよったけん、ビニール被せて置いて、植える前に畑の四隅と真ん中の5か所、土壌を採るんですよ。山田養蜂場がそれを調べてくれるんですわ。結果は、だいたい良かったようなんじゃけど、ショウガは肥(こえ)喰いじゃ言うんで、鶏糞でも入れておけばええかなと思うて鶏糞を入れたんじゃけどな。それから、畝作って親ショウガを植えていくんです。この畑は、昔、河原だったんで小石が多いんです。ちいーっとでも除いちゃろ思うて、草取りしながら小石を拾ってね。ショウガの勉強会を2回やったな。その時に資料を津山農協から貰って、まったく初めてじゃけんノウハウが分からんもんね」
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藤井知也さんが操作するショウガライザーで葉を切り落とし、
茎を持ち上げ掘り出しやすくしておく
茎を切り泥を落としたショウガは、A級B級C級の3ランクに
分別しコンテナに入れる
茎を切る鋏は、休憩時間の度に消毒液に浸しショウガの病気を
予防する
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ピンクでな色白で、気持ちがええな
岡山県苫田郡鏡野町の赤木さんのショウガ畑を訪ねたのは10月下旬。秋の長雨や台風21号の影響で土がどこまで乾燥しているかと、心配しながらの収穫2日目だった。
山田みつばち農園のチーフ・笹井寿貫(ささい ひさつら)さん(34)の指揮の下、季節契約社員として収穫作業に従事している鏡野町内と近くの地域から通勤している退職者や主婦など10人に混じって、契約農家の赤木さんもショウガを収穫していた。山田みつばち農園が今年初めてショウガの契約農家を募り、応募した中の一人が赤木さんだったのだ。
藤井知也(ふじい ともや)さん(67)が操作するショウガライザーで、ショウガの茎の上部を切断すると同時に、茎を持ち上げて土から浮かした後、片手備中鍬を新ショウガの脇に打ち込んで捏ねるように起こす。そうすると、先がピンク色で真っ白なショウガが姿を現すのだ。
「ピンクでな色白で、気持ちがええな」
掘り起こしたショウガの茎を根元から1センチほど残して切り落としていた内海輝子(うつみ てるこ)さん(70)が、ふっと気持ちを言葉にする。晴天の秋空の下シャキシャキと小気味よく茎を切るハサミの音がリズムを刻むように絶え間なく聞こえる。たまに近くの幼稚園から園児の賑やかな声が流れてくる他は、遠くから野鳥の鳴き声が聞こえるだけだ。凜とした空気とショウガの清々しい香りも手伝って、晴れ晴れとした気持ちになる。
「ここは子どもの声がするけん、ええぞ」と赤木さん。
「そうやな、子どもの声がうるさい言う人の気が知れんな。うちら子どもが居らんけん、寂しいて」。茎を切り落としながら男性が相づちを打つ。
それぞれが思い思いの場所に座り込んで茎を切り泥を落とす作業を進める。休みなく手を動かし
ながらも世間話に花が咲く
分別を担当していた荒田広江さんは「責任があるから気が重い」と少々弱気だったが、皆が手伝って
滞りなく終了できた
午前2回午後2回の休憩時間は、皆が好きな場所に腰掛けてほっかりとした時間を過ごす
ヨトウムシが喰った痕
ズイムシが茎に入った穴
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一旦植えたからには、
世話し続けんとな
「一つの親から大きな塊が出来とんのがええショウガ。掘ってみらんと分からんけどな」。片手備中鍬でショウガを掘り起こしていた男性が、赤木さんに言う。
「そうよ。ズイムシが入ってくる。それとネキリムシな、あれがバタバタ倒すんじゃ。一所懸命作っとんのに、あれにやられると腹が立つ。まあ、それでも作るというのは楽しいですわ。それにしても土壌いうて一遍には良うならんもんな。ケイントップいうて圧縮した藁の代わりがあるんよ。それを80本入れたんよ。土壌改良やわな。あれが入ると保水力がようなりますもんね。来年のことを、ああでもないこうでもない思うて、地道にやらなな」
赤木さんが、収穫までの苦労の月日を一気に思い出したように話す。赤木さんは兼業農家だ。本業は、左官業と大工。今年の夏には建築工事で、中国山地を越えた隣の鳥取県まで車で1時間半ほど掛けて通っていたのだと言う。そういう状況でもショウガ畑の世話は待ったなしだ。
「2反の畑に1反6畝ぐらいかな植えとんのは。ショウガは土寄せしよる時でも葉っぱからええ香りが匂ってくるけんな。それはええんやけど、虫は来うでもええのに来るしな。草が大変じゃわな。一旦植えたからには、世話し続けんとな。日頃からやりよらんと大変なことになるけん、草がね。朝4時ごろ起きて草取りしよったけど、草に負けとられるか思うて、この野郎と思うてしよった。でもショウガ作りは面白いですよ、充実しとるいうんか」
赤木さんの話を聞きながら隣でショウガの茎を切っていた婦人が聞く。
「何回ぐらい草取りしたん?」
「いやーっ、そりゃ数えられん。草にゃ負けられん思うてやりよったけん。草がな(ショウガの)生育にはどえらい悪りぃ思う」
掘り出したショウガの茎を1センチほどに切り落とす
夕陽が山の端に沈む時刻になると仕事の区切りを付けようと気が急いてくる
赤木さんが持ち帰り用に準備してくれていた級外のショウガを持って帰路につく内海輝子さん
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栄養も土から摂りよんじゃけん
ショウガの収穫をしている季節契約社員の世代が同じということもあるのか、思い思いの場所に座り込んでショウガの茎を切りながら話が弾む。
「ブドウの栽培がほぼ終わったけん、それでショウガの手伝いに来とんのです」と、髙橋篤之(たかはし あつし)さん(69)が問わず語りに話せば、「ブドウは何を作っとん」と質問が飛ぶ。「ピオーネ、フジミノリ、ベニを作っとんのですけどね。成木を受け継いで、今年初めて出荷なんですけど、全然収入に結び付きませんね。もう上ばっかり見て仕事していますからね。首が痛くなって」
今度は、髙橋さんが赤木さんに質問だ。専業ではないにしても、同じ農業に携わる者として関心があるのだ。
「肥料はだいぶ入れられたのですか」
赤木さんが答える。「肥料というか、鶏糞はだいぶ入れたけど、来年は試しに牛糞を入れてやろうかな思うて」
「牛糞入れられたら、後はもう、米は作られんでしょう。濃いすぎるけん」
「牛糞は酪農試験場で自分で積んだら只言いよったで。只ほど怖いもんは無いかも知れんけど」
「土壌には鶏糞、牛糞はええ言いますよね」
そのやり取りを聞いていた男性。「鶏糞は土壌にはいけん言いよったぞ」。
それを受けて、別の男性。「そりゃ、鶏糞が安いけん、そんなもん入れられたら合成肥料が売れんようになるけんじゃろ」。
「そんでかい」と、先の男性が応じて一件落着。
しばらくの間、茎を切り落とす小気味よい鋏の音がシャキシャキと聞こえるばかりだったが、感心したような独り言が聞こえた。
「ええショウガや」
それを受けて、「そやな、こんなん作らないけん」と、誰かが応じる。
赤木さんも黙っている訳にはいかなくなったようだ。
「去年は3畝で作るように指導があったようだけど、今年は2畝にしたのが良かったんじゃないかな。土寄せが大事や言うてな。球根が上へ上へ伸びてくるんでな。それが出てしまわんように土寄せして、栄養も土から摂りよんじゃけん。やっぱり、泥掛けただけ良かったんかなあ思うて。まあ、ぼくらの体は只じゃけ」
牧秀美(まき ひでみ)さん(70)が共感を示す。
「畝の間隔を広うしといた方がええ言いよったやろ。そうせんと土寄せしても、土が落ちてくるんや」
技術指導をしている農園チーフの笹井さんが、牧さんの言葉を受けて畝数を減らした理由を補足する。
「うち(山田養蜂場)では、スライスにしてショウガ漬にするんで、大きい方が見栄えが良いんで、大きいのを目指して作ってはいるんですが、本格的に作り出して2年目なんで、まだ全然、試行錯誤の連続で」
赤木さんも試行錯誤は同じだ。
「土ん中に埋まっとったら、どないなっとるのか全然分からんしな。気になるけ、畝の端の方をちょっと掘ってみたりしよったけどな」
分別したショウガを笹井寿貫チーフ(左)が15キロずつ計量してコンテナに入れて、加工所に出荷される
終業時間が近くなると分別されたショウガを一か所に集めて計量し、その日のうちに出荷する
皆が帰宅した後、「腐っとるのを、そのまま残しといたら来年ようないから」と、赤木さんは独りで畑に放置されているショウガの破片を拾い集める
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