2017年(平成29年11月) 2号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/ 編集:ⓒリトルヘブン編集室
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吉岡良祐シェフの「ゆず甘酒プリン」
大きな調理台が並ぶ「クッキングスクールりょう」は料理教室が終わったばかりで、広々とした教室はガランとしている。土曜日の午後、通りに面したドアの隙間から街のざわめきが伝わってくる。
吉岡シェフはいつものように上下黒の制服をきちんと着込んでいるが、連日のハードスケジュールで目元に疲れが見える。そんな自分を奮い立たせるように、調理台の上に並べた今回のデザート「ゆず甘酒プリン」の材料を前に、「では、いきます」と大きな声を出して片手鍋を手にした。
「豆乳300ccです。続いて甘酒100ccですね。火を付けます」
IHの火力を最大にして、豆乳と甘酒を入れた鍋を載せる。
「続いて蜂蜜30グラムとゆず皮を適量ですね。プリンにゆずの香りを出したいので早めに入れますが、煮出すことはしないで一回沸かす程度ですね」
間もなく鍋の中央が泡立ち始めた。
「完全に沸騰していいんです。中央付近は沸騰していますけど、周辺はまだなんで。IHだと真ん中からきますね。炎だと外からの対流になります。IHと炎は対流が逆なんですよ。IHは内から外へ、炎は外から内へ。だから野菜を炊く時にも炎だと噴き上がらない。外から押さえてくれて、野菜が踊らないので煮崩れしないんです」
IHと炎の違いを解説しながらも、鍋の豆乳と甘酒をヘラで掻き混ぜ続けている。ふわーっと鍋全体に泡が立ち上ってきた途端に「はい、消します」と、吉岡良祐シェフがIHのスイッチを切る。
「ここでふやかしてあったゼラチンを加えますね」と、40ccの水で溶いてあった5グラムのゼラチンを鍋に入れる。「もう火は止めてありますから、ゼラチンをよく溶かしますね」と、ここでも吉岡良祐シェフは丁寧にヘラで鍋を掻き混ぜ続ける。プルプルしていたゼラチンの塊は、みるみる鍋の豆乳や甘酒の中に消えていく。
「ゼラチンが溶けましたら、大きめのボールに氷水をたっぷり作り、その中に浮かべた小さめのボールに鍋からプリンを移し冷やします。もし、甘酒の米麹の粒々が気になるようでしたら、冷やす前にミキサーに掛けるのも良いですね。粒々があった方が良いか、ツルッとしている方が良いか。それは好みですからね。今日は、粒々のある方でいきますね」
吉岡良祐シェフは氷水に浮かべたボールの中のプリンを掻き混ぜ続けている。
「ちょっとトローッとするくらいまで冷やして固めます。固まってしまったら、もう型に流せないし、逆に柔らか過ぎると型の中で比重の違いで分離するんで、ある程度冷やして固まる寸前に型に流します。もしですね、作ってすぐ食べたい時には、茶巾にしてしまうのが良いですね。冷蔵庫に入れないで、ラップに包んで氷水で冷やすのが一番早いです。今日は、茶巾でいきます」
こんな説明をしながらも、氷水に浮かべたボールの中のプリンを掻き混ぜ続けている。
「だいぶ重くなってきました。トローッとしてきましたね。ここまできたら、もう周囲温度で冷却され、どんどん固まっていきますから、茶巾の準備をしますね」
調理台の上に湯飲みを4つ並べ、その一つ一つに大きめに切ったラップを敷き込み、ボールの中の状態を確認する。
「もう固まってきましたね。ギリギリまで待ちますよ」と、吉岡シェフは流し込むタイミングを慎重に計っている。
「型に入れて冷蔵庫で冷やすのだと、冷たい温度が型の中まで伝わるのに時間が掛かるんですよね」と独り言のように呟きながら、ボールの中のプリンをヘラで持ち上げて硬さを確認する。
「流していきますよ」と言うと素早く、ボールの中のドロッとしたプリンを湯飲みに敷き込んだラップに流し込む。4つ均等に流し込むと、すぐにラップを持ち上げ、「空気を抜くように絞ってあげます」と、ラップの上端をつまみ上げるようにして持ち、キューッと空気を抜くように下へ手を滑らせて絞る。ラップの余った上部をクルクルッと手元に巻き付け、そのまま新しく作った氷水のボールの中に浸けた。
「プリンが固まるまで20分くらいは掛かりますから、その間にプリンの上に掛ける『ゆず蜂蜜ソース』を作ります。これは量が少ないからすぐ出来ます。鍋に水30cc、蜂蜜20グラム、それにゆず皮5グラムを入れて火に掛けます。強火です。焦げる前ぐらいまで煮詰めますよ」
IHのスイッチを入れると、すぐに鍋底に泡が立ち始めた。焦げ付きに注意してヘラで掻き混ぜ続ける。
「蜂蜜の良い匂いがしてきましたね。だいぶ良い感じです。焦げ付かないギリギリまで熱を加えて、IHから降ろします」と片手鍋を調理台へ移動させ、冷えてトロッと固まってくるまで放置する。
さて、10分ほどは過ぎただろうか。吉岡シェフが氷水からラップに包んだプリンを取り出して、慎重に包みを開く。予定通りに固まってくれているか、ちょっと緊張気味だった吉岡シェフの表情が緩んだ。結び目を開くと淡い黄色をしたプリンがプルプルと揺れている。吉岡良祐シェフが、掬い取るように3本の指の上にそっとプリンを載せ、絞った痕を下にして丁寧に器に盛り付けた。
「さあ、あとはスプーンでゆず蜂蜜ソースを掛ければ完成です」
吉岡シェフと向かい合って、ひと口いただく。プルンと滑り込むように口の中へ。ほんのり冷たく滑らかだ。噛むと、ゆずの皮なのか粒々が歯に当たって喉に滑り込む。微かにゆずと甘酒の香りが残った。優しい甘さだ。
吉岡シェフが小首を傾げている。「いやーっ、これは好みだと思うんですよね」。何だかはっきりしない物言いだ。「まぁ、ぼくはもうちょっと滑らかにしたかったなあ。甘酒をミキサーに掛けたら良かったと思っています。粒々感があった方が良いかなと、わざと粒々を残したんですけどね。結果として滑らかな方が良かったですね。この粒々は米麹の粒です。結果としては、甘酒に左右されるデザートになったっていう感想ですね」
ゆずの皮だと思っていたが歯に当たる粒々は、甘酒の米麹の粒だったのだ。私が特に違和感を感じなかった粒々にこだわるとは、さすがにシェフだ。
「ゆず甘酒プリン」一個を食べ終える。ずしりとしたボリューム感だ。優しいがしっかりした甘さである。「砂糖を使った甘さじゃないですからね。デンプンが糖に変換された甘さですから」と言っていた吉岡シェフの言葉を思い出した。蜂蜜と甘酒と、自然の甘さが気持ちを和ませ、吉岡シェフの疲れも取れたことだろう。
吉岡良祐(よしおか りょうすけ)
大阪、福岡の「なだ万」にて修行し、3年前に宮崎にて独立。「Japanese Restaurantりょう」をオープン。カジュアル割烹という親しみやすい中にも、こだわり抜いた料理を提供。県外から通う常連ができるほどの店となった。素材の知識や調理法には常に進化を求め、今なお新しいアイデアでお客の「美味しい」を引き出している。
① 豆乳に甘酒を加える
② 加熱してから蜂蜜を加える
③ 加熱しながらゆずの皮を加える
④ 1回沸かす程度に熱を加える
⑤ 沸騰したら火を止めゼラチンを加える
⑥ ゼラチンが溶けたら氷水で冷やす
⑦ ねっとりしたら湯飲みにラップを敷いて
流し込む
⑧ ラップを絞り口を閉じる
⑨ ラップしたプリンを氷水で冷やし固める
⑩ 水、蜂蜜とゆずの皮を煮詰めソースを作る
⑪ プリンが固まったらラップを外す
⑫ 盛り付けてゆず蜂蜜ソースを掛ける
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