2021年(令和3年6月) 53号

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翌日は誕生すると分かっているから人工王台

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 この日の午後は、梅谷蜂場で内検だ。

 「ここは上にしか飛べないんで、上に昇っていくように飛び出して行くので、見てて気持ちが良いですよ」と、住夫さんがお気に入りの蜂場なのだ。春日養蜂場の蜂場はどこも巣箱が整然と並び清潔感が漂っている。雑草が茂るのを防ぐため蜂場全体に黒い防草シートが敷き詰めてあり、真っ直ぐ線を引いたようにコンクリートブロックが並ぶ上に巣箱が整然と置いてある。ブロックを美しい緑色の苔が覆っている。周りを樹木に囲まれているため、真上から照り付ける太陽に向かって蜜蜂がキラキラと輝きながら飛び出していく。

 ここでも女王蜂の居ない群に、翌日には新王が誕生する人工王台を埋め込んでいく作業が続く。こうして新王の群を増やしていくのだ。女王蜂が居ない群は、働き蜂が変成王台を作って、新しい女王蜂を誕生させるはずなのに、住夫さんは敢えて人工王台から誕生する女王蜂にこだわっている。

 「自然王台は基本的にまったく使わないですね。(女王蜂が)いつ生まれてくるか分からず、計画が立てられないので……。人工王台で翌日誕生すると分かっている女王蜂ならば生まれて1週間後には交尾飛行に出て、その翌日から卵を産み始めますから」。成り行きに任せるのではなく、あくまでも養蜂家が計画的に群を管理することが、強い群を作り多くの蜂蜜を採るためには必要なのだ。

 蜂場からの帰り道、軽トラを運転していた住夫さんが突然声を上げる。

 「桐の花が咲いている。桐の花とアカシアの花は同時に咲くんです。アカシアがあれば、どこかで咲いている筈なんですけど……」

 助手席の私には桐の花がどこに咲いていたのか見えなかったが、さすがに養蜂家の面目躍如だ。自然への目配りが違う。アカシアの花と関連付けて桐の花を見るということは、住夫さんの中にウォーターホワイトと呼ばれる透明感のあるアカシア蜂蜜に対するこだわりが強いのかも知れないと思った。

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