40年前に蜜源として苗を植えた
ユリノキ
新女王蜂が交尾に飛び出した後、無事に巣箱に帰っているかを
確認する住夫さん
蜜を搾らなければならない。分封を防がなくてはならない。来年採蜜するための蜂群を作らなければならない。年間で作業の1番多いのが、取材に伺った5月中旬だ。
「うちは毎年、新しい女王蜂に替えますのでね。女王蜂の寿命は産卵の数、交尾した時の精子の数で決まるんです。分封前の女王蜂は1日に3000個近くの卵を産むんで、急激に蜂数が増え分封することもありますからね。小まめな内検が欠かせないんです」
大滝蜂場で内検する住夫さん
「正面の山が南宮山、右に見える池田山の麓にずっと巣箱が置いてあるんですよ。左に見えるのが北方系植生の伊吹山ですね」
住夫さんの軽トラックに乗せてもらって大滝蜂場へ向かっている。
「ここに居る蜂はほとんど育児するための蜂なんで……」と、住夫さんは保温バッグの中に切れ込みのあるスポンジを入れ、そのスポンジに挟み込むようにして、翌日には新女王蜂が誕生する予定の人工王台を運んでいる。
住夫さんが蜜源として植えたユリノキ
「孵化して3日目の幼虫を(人工王台に)入れて、10日後に王さんの居ない群に入れてやると、その翌日に女王蜂が誕生しますからね。人工王台は(女王蜂の)出る日が分かっているので管理がし易いです。もし(群の中に)未交尾の女王蜂が居れば、人工王台が齧(かじ)られるし、居なければ新王が誕生しますから……」
住夫さんは次々と内検しながら、女王蜂が確認できなかった群に翌日には女王蜂が誕生する予定の人工王台を巣板の上部に埋め込んでいく。
「この群は王さんいないね。羽音が違うもん」と、住夫さんが私に注意を促す。言われて気付いたが、その群は乱れ飛ぶように秩序無く巣門の前で蜂が飛び交っている。住夫さんは当然のように巣板に人工王台を埋め込んで巣箱の蓋を閉める。
大滝蜂場ゲートのロープを閉じた住夫さんが振り返って
ユリノキを見上げる
「去年は雨が多くて気温が低くて、蜜は採れない、蜂を割る(1つの群を2つに分け、女王蜂が居なくなった方の群に人工王台を埋め込んで新しい群とする作業)こともできない。最悪の年でしたね」
ふっと昨年の自然現象に抗うことはできなかった養蜂業の宿命を思い出したように呟いて、大滝蜂場ゲートのロープを閉じた住夫さんが振り返るように空を仰いだ。
「あの木は、私が20歳の時に蜜源として苗木を植えたユリノキ(モクレン科)なんです。もう40年になりますね」
ひときわ太く高く伸びたユリノキが7、8本。その近くに幹はまだ細いが同じくらいの高さまで伸びたユリノキも数本ある。ということは、住夫さんは20歳の時にすでに養蜂家としてやっていく気持ちを固めていたということなんだと気付き、ここで人生を振り返ってもらうことにする。
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