これからの農業は蜂が必要になる
影山養蜂研究所の未来を属望されている貴一さんが分封して
いた群を巣箱へ戻そうとしている
いつものように大きなテーブルの椅子に腰掛けてコーヒーをご馳走になっていると、すぐ脇をツバメがすり抜けるように奥へ飛んでいく。納屋の梁に巣を掛けているのだ。輝信さんが独り言のように呟く。
「ツバメが蜜蜂食べよるけんな。それでも遠い所から来よるけんな、仕方ないな。最初、家の西側でね、巣箱を2、3箱置いて蜂を飼い始めて、ずっと観察していると、何とも言えん心の安らぎを感じてましたね。うちのお母さんから『あんた、もう、蜂と一緒に寝なさいや』と言われましたね。当時は、蜂蜜がようけ採れてね。レンゲが咲いとりましたからね。ノリの大きな瓶に入れて皆さんに差し上げたりして、皆が美味しい言うてくれてね。その頃、蜂で交配しよる西条柿は品質が違うと聞いて、これからの農業は蜂が必要になると思うて、当時、ハウスの中を走り回ったのを覚えていますよ。それから女王蜂の本を買うて読んでみたり、養蜂用具を売る会社でノウハウをね、教えてもろうたりね。養蜂家同士ではなかなか教えてくれたりはでけんのでね。うちのお母さんは『お金は天下の回りもの』と言うております。蜂と出会えて人の財産が出来てね。『影山さん』言うて来てくれるのは有り難いと思うております。うちのグループは皆が仲良うにしてくれて、移虫の時も皆で集まってくれて、蜂と出会えて幸せな人生を送らせていただいて、有り難いなと……」
影山養蜂研究所門下生の岸田繁義さんが内検をする。
「今では蜂蜜を売ることができるようになりましたけんね」
輝信さんは「蜂と出会えて人の財産が出来てね」と何度も繰り返した。確かに、私が滞在させてもらった僅か2日間だけでも、朝から夕方まで何人が、入れ替わり立ち替わりあの大きなテーブルの周りに座ったことだろうか。「人の財産」と輝信さんが言葉にする現実の姿を見せてもらった2日間だった。輝信さんの誠実で積極的な人柄はもちろんだが、佐紀子さんの穏やかな笑顔も忘れられないし、純朴さを失わない孫の貴一さんの存在に希望を感じた取材だった。
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi