料理の手順
吉岡良祐シェフは少し迷っている風だった。腰に手を当てたまま、調理台の上に置いたレシピをじっと見つめている。
「サルサ(ソース)なんですけど、夏野菜の和ソースです。野菜で和えたみたいなサルサです。トマトをみじん切りにしたら、トマトから水分が出るので勝手にソースになるみたいな……。ソースは自由なんで……」
良祐シェフは料理の手順を頭に描いて、ソースのイメージを固めていたのだ。
塩川カメラマンに「ソースを初めに作りますわ」とひと声を掛けると、最初にキュウリを手に取り縦に半割りにする。「種を取っていきます。包丁で取っても良いんですが、小っちゃいスプーンだと取りやすいですね」と、家庭で調理する場合を想定して提案してくれる。種を取ったキュウリを更に縦に半分に切った後、幅5ミリほどに細かく刻む。「角切りみたいなもんですね」と良祐シェフ。
「ちょっとしんなりさせるために塩を振っておきます。今日使っているのは岩塩ですね。15分くらい馴染ませるとOKです」。良祐シェフは、ボウルでキュウリに塩を軽く絡ませて、小鉢に移した。
「次、トマトを切っていきますね。トマトは半分、100g使います。キュウリと同じような大きさですね。包丁の刃先をまな板に着けて、引いて切ると、トマトが潰れずにきれいに切れます。切ったらボウルに移して、次は、ミョウガを切っていきます。半分に切って根のところの芯を取ったら、細かく刻みます。包丁を前に押し出すように使うと、繊維が壊れないですね。ニンニクは芯を向こう側にして、芯を残しながら細かく縦と横に包丁を入れた後、先端から切っていくとみじん切りになります。全部ボウルに入れていきます」
良祐シェフの包丁の使い方を見ていると、縦に引いては横に押し、刃先を使っては腹を使うなど自由で繊細だ。
「玉ネギは8分の1ほどですね、30g。根のところを残して縦と横に細かく包丁を入れた後で先端から切っていくと、きれいなみじん切りができます。残った根のところも後でみじん切りにします。続いて生ハム20gもみじん切りにします。包丁を押し出すように細かく刻んでいきます。生ハムを入れることで、塩味と熟成の深みが出てきますね」
これで夏野菜の和ソースに入れる材料が、ボウルに揃った。
「仕上げていきます。先ほどの塩を馴染ませたキュウリですね」。そう言って良祐シェフは、小鉢に分けてあったキュウリの角切りをボウルに移し、オリーブオイル80g、黒酢50g、塩と胡椒を適量加える。
「野菜の味を感じたければ、塩を少なめにします。蜂蜜で、更に香りとコクを深めて和えます。ソースを先に作っておくと、素麺を茹でている間に味が馴染んでいきますね。ここで味を調えます……、ちょっと塩を足しますね。最後に宮崎名産のヘベスですね。香りが良くてジューシーで、程よい酸味がお勧めです。半個分くらい搾りますね。ヘベスを入れると、更に、夏らしい爽やかさが出ます。レモンやカボスでも代用はできますよ。はい、これでソースは出来上がりです」
次に、揚げナスだ。
「夏なんで、ナスを使っていきます。縦に半分に切ってヘタを取ります。皮の方に隠し包丁を入れると、皮が柔らかくなって食べやすくなります」と、ナスの皮に軽く包丁を入れたあと、5ミリほどの幅で先端から切っていく。
「ナスを180℃の油で揚げていきます」と、一口大に切ったナスをフライヤーの中で泳がせるように揚げていく。もちろんフライパンで揚げても構わない。
「程よく色付いてきたら、上げていきます。熱いうちに塩を振っていきます。塩が、色止めになり油を適当に吸収してくれます」
ほんのりキツネ色になり掛かったところで、一気にナスを掬い上げ、軽く塩を振る。
続いて盛り付け用に、大葉4枚を水分がなくなるまで素揚げしてチップスを作っておく。
最後に素麺を茹でる。大鍋でたっぷりの沸騰した湯に、素麺200gをパラパラと捌いて入れていく。
「茹でる時間は1〜2分。箸で引き上げて、芯がなくなっていたら、すぐですね。早く上げるよりは芯がなくなるまで茹でて、氷水でしっかり冷やした方がコシが出ます。盛り付けのポイントとしてはですね、箸一本で(氷水の中から)素麺を掬い上げて、(簾のように垂らして)水を切ってから皿の上で折り畳むように重ねていくと良いですね。揚げナスを置いていきます。色が良いですね。本日メインの和ソースを上から掛けていきます。レンゲでたっぷり掛けてください。最後に、大葉のチップスを添えて出来上がりです」
キュウリの緑とトマトの赤、それに大葉の緑、揚げナスの紫色がポイントになっている。大皿に盛り付けられた「揚げナスと和ソースの夏素麺」は、見た目に清涼感があり食欲をそそる。盛り付けされた素麺の下に箸を入れ、全体に和ソースを絡ませてから、すするように素麺を戴く。程よい酸味の清涼感とニンニクの香りが食欲を促す。「旨い」と、つい声に出る。夏に戴く素麺は麺汁に下ろし生姜と刻みネギが定番だが、本日の「揚げナスと和ソースの夏素麺」は、揚げナスを一緒に頬張ることで充実感もある。残り僅かになった夏の名残を乗り切る昼食の一品、或いは、宴の後の締めとして重宝されること請け合いだ。
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