流蜜が良いと攻撃しない
内検を進める太史さん「今年は蜂の出来が全体に良いですね」
幾つか巣箱の内検を進めていた太史さんが、ある巣箱の巣板だけは王台を切り取らないで、そのまま元の場所に巣板を戻した。何故と不思議に思っている私の疑問に気付いたのか。
「この群は分封して王が居ないので、新王が自然に生まれてくるのを待つんです。他の王台の女王は新王が殺してしまいますからね。僕らは、(移虫など)特別な何かをする訳でなく、最後まで(蜂群を)使い切るんですよ。今年はちょっと暑くて、油断していると、すぐ飛んじゃいます(分封しちゃいます)」
三岩蜂場に到着した時に見たあの分封群が、この巣箱の群だったのかも知れない。私は気付かなかったが、働き蜂が騒いでいれば女王蜂が居ないと羽音で判るのだそうだ。
それにしても緩い傾斜に横に3列並んだ上側の列の巣箱に、蜂が溢れている巣箱が多い。これも不思議な現象だ。
前方の巣箱から寄って来た蜜蜂も加わって巣箱から溢れ出た蜜蜂群
「前の箱から寄ってくるんですよ。好きで入ってくる虫(蜂)がいるんですよ」と太史さんが教えてくれる。巣門を傾斜の下に向けて置いてあるので、蜂が溢れているのは、後ろ側の巣箱ということになる。「好きで入ってくる」と言っても、養蜂の常識としては、働き蜂が異なる群に間違って入ろうものなら、噛み殺されてしまうのが普通だ。それが「好きで入ってくる」のを受け入れることもあるのだろうかと不思議に思った。
「流蜜が良いと他所から来ても攻撃しないですね。前の巣箱の奴(蜂)が後ろに寄りやすいんですよ。それと蜂場の隅の巣箱にも寄りやすいですよ」
太史さんの説明だ。つまり食料が潤沢にあると、他所者が来ても受け入れるというのは、生物世界の法則ということなのだろうか。
内検を進めていた太史さんが、巣門の周りから継ぎ箱の外側にまでびっしり蜂が集っている巣箱の蓋を開けながら呟く。「熱を起こしていますね」。この群は、すぐにでも分封をしようとしていると言うのだ。熱というのは分封熱のこと。分封をさせてしまえば女王蜂と一群の働き蜂が居なくなるのだから養蜂家にとっては大損であるが、その直前の状態、つまり蜜蜂が活発な活動を維持しているが、分封はしない状態を保つのは養蜂技術の一つの到達点とも言える。
三岩蜂場の内検は午前10時に終わった。
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