2021年(令和3年8月) 55号

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女王が卵を産む前に蜜を溜め

 別の巣箱の列で内検を続けていた元矢さんが、女王蜂の居る巣板を見せる。ちょっと小ぶりの体型で動きが速い。

 「14年くらいやってますけど、大事なのは女王蜂の大きさではなく、交尾の時の状況が大事ですね。何匹の雄峰と交尾したかなどですね。今年は全体に蜂の出来が良いですね。養蜂の仕事に自分だけ良いってないですから。今年は全体に良いですよ。それでも名人と言われる人の腕前の違いは出てきますね。搾るタイミング、(採蜜群を)作るタイミング、それが絶妙なんですよ。3代目、4代目の養蜂家さんはそういうタイミングがすごいですよ。倉庫一つ見ても、蜂場の地主さんとの付き合いをみても、長年やっている養蜂家は違いますよ。SNSが発達しているお陰で、昔より(養蜂の技術などを)調べ易くて助かりますね。それでも、僕ら初代だから、苦労しましたね。やり方が分からないで遠回りして、助け合いながら2人でやっている感じで……」

 元矢さんが、女王蜂の居る巣板を見せて説明する。

 「ほんとは、この部分は育児用なんですけど、今年はもう蜜が入ってますもんね。女王が卵を産む前に蜜を溜めているのは、普段はないです。今年はまれですね。青森からこっちに移動する時にトラックの荷台で蒸殺になっていたりすることもありますけど、諦めないで、そのまま他の蜂群に預けるんです。そうすると、他の群の蜂がきれいに掃除してくれて、また蜂児を育ててくれたりするんですよ。以前だと、もう腐っているし駄目だからと思っていたけど、何年かやっているうちに1枚の巣板の重要性に気付いて、大事にするようになりましたね」

 「まともな糖度の蜜が採れているのは、今年が何年かぶりですもんね。でも、雨が多いのがね。蜜は湿気が1番応えるんで。問屋さんが好む蜜を採らないと……、僕たち。蜂との二人三脚。蜂には頭が上がらないです。熊にやられていないか、蜜は入っているか、心配ばかり。今年のシナ蜜は巣箱を置いた時に、シナの匂いがしないんです。駄目だなと思って置いたんですけど、実際にはすごい蜜で、流蜜全体が駄目ということではなかったんですね」

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