2021年(令和3年9月) 56号

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料理の手順

 「プレーンヨーグルトをひと晩コーヒーフィルターで漉すと、水切りヨーグルトと呼ばれるクリームチーズのようなものが出来るんです。今日の料理は、そのヨーグルトをメインに使った前菜サラダです。コロナ禍のまん延防止等重点措置の適用で休業していて、登山しかしてないですもん。久し振りに料理を作れる機会があって、嬉しかったですよ」

 桑原研郎シェフが久し振りに仕事のできる気持ちを率直に話す。収入の道もさることながら、料理人が厨房に立つ機会を得たことの喜びが伝わってくる。

 研郎シェフが、前夜から漉しておいたプレーンヨーグルトを冷蔵庫から取り出す。フィルターの中身はクリームチーズのように見える。

 塩川カメラマンとライティングの打合わせを終えた研郎シェフが、ピスタチオ5粒の堅い殻を取り除くと、淡い緑色の皮を被った実が姿を現した。ペティナイフで、その実を細かく刻み、続いてアーモンド5粒も刻む。刻んだナッツを小さなボールに入れ、蜂蜜を適量加えて和えておく。研郎シェフがアーモンドの欠片をポイと口に放り込む。ポリポリと噛み砕いて「美味しい」とひと言。

 「次は、果物を切っていきます。福岡で採れるイチジクです。天ぷらとかタルトとか、加熱する料理ではイチジクを皮ごと食べるんですけど、今日は生食なんで皮を剥きます。シャインマスカットも丸のまま食べられるんですけど、種が当たりますんで、ヘタの部分を切って半分に割っておきます。口の中でガリッとすると嫌な食感が残りますので、種は丁寧に取り除いておきたいですね。ミニトマトを切ります。トマトはなるたけ甘いトマトを選んでください。シャインマスカットもイチジクも甘いので、色味、食感が、それに負けないようなトマトということですね」

 イチジク1個の皮を剥いて縦に4等分しておく。シャインマスカット8個はヘタを落として半割にする。ミニトマト3個もヘタを切り落とし、それぞれ4等分にする。

 「次は、味に変化を付けるためのヘベスです。これから秋にかけて柑橘類が出てきますよね。サンマの塩焼き、土瓶蒸しには欠かせないですね。大分のカボスもいいです。積極的に色々な料理に使っていきたいですね。最後にバジルを刻みます。最近は比較的、手に入りやすい食材になっているのではないでしょうか」

 厨房にバジルの食欲をそそる香りが一気に広がる。

 「後は、グラスに盛り付けて、味変を楽しみます」と、研郎シェフ。深く大きめのグラスを取り出し、クリームチーズのようにねっとりした水切りヨーグルトをグラスの3分の1ほどまで入れる。その上にマスカット4、5片、イチジク2片、ミニトマト4、5片を上に乗せ、蜂蜜で和えたナッツを上から掛けてから、バジルを添える。

 「後は、味変を楽しんで欲しいので、最初はそのまま食べて、次にオリーブオイル、塩、へベスの順に3つの味を加えてみてください」と研郎シェフ。

 見た目も清々しい前菜サラダだ。「朝食で出たら最高ですよね」と、研郎シェフも出来映えに満足の様子だ。主役は、水切りヨーグルト。グラスの底から掬い出すようにヨーグルトを口に運ぶ。蜂蜜で和えたナッツが口の中で絡み、ヨーグルトの滑らかな食感とナッツのポリポリ感が同時進行だ。バジルの香りが際立ってくる。甘みはそれほど感じないので、前菜サラダと研郎シェフが説明するのも納得だ。次に、エキストラバージンオリーブオイルを少量加えると、俄(にわか)に食感にまろやかさが出てきた。続いて、岩塩を少々振り掛けると、驚いた。味に核が出来たようにまとまりを感じるのだ。この時になって、オリーブオイルの存在を意識させる香りを、鼻の奥に感じた。最後はヘベス。夏の朝食に相応しい酸味が効いて、食が進む。気付くと、グラスの底のヨーグルトを余すところなく掬い取っていた。

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