もう雄は要らない
若畑蜂場で内検をする髙橋さんが、巣房の底を確認するため巣板を太陽に照らす
翌日は、再び若畑蜂場での作業だ。
「今日は暖かいのでオニヤンマが相当飛んでますね」と、髙橋さんは巣箱の上を見ながら、脇にファンが付いている空調服を着ている。「これだと、真夏でも2時間くらいいきますもん。(養蜂家は)他の人もやっぱり使っていますね」
髙橋さんがオオスズメバチの捕獲器を取り付け始めた。オオスズメバチの来襲が、いつ来ても不思議ではない季節になっているためだ。若畑蜂場は巣箱の数が多いため、高下蜂場のように蜂場全体をネットで覆うことは難しい。
巣箱の前で草の葉にすがりついている働き蜂は飛ぶことも歩くこともできそうもない。一カ月余りの寿命が近いのかも知れない
手際良く捕獲器を巣箱に取り付けていく髙橋さんの傍らで、巣門を出入りする蜜蜂の動きを見ていると、巣箱前の草の葉にすがりついている働き蜂が一匹目に入った。草の葉に掴まりじっとしていて、時折、触角を前後に動かし、体をブルブル震わせているが、飛ぶことも歩くことも出来そうもない。働き蜂の寿命は1か月余り。寿命を察知した働き蜂が自ら巣箱を出て最期を迎えようとしているのだろうか。
「今月末までは、(女王蜂が)卵を産むんじゃないですかね」と、内検を続けていた髙橋さんが呟いている。来春の群の勢力に直結するので、養蜂家としては初秋の産卵が望ましい。「雄の幼虫を齧(かじ)って、巣箱から出していますもんね。たぶん寒くなってきたから、もう雄は要らないということなんでしょうね。雄が入ろうとしたら、巣門の所で入らせないようにしていましたもん。蜜蜂にとって、季節はすっかり秋になったということなんですかね」
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