越波に蜂箱を置きたかった
チクマ養蜂事務所から車で20分ほどの所にある
国指定天然記念物の「薄墨桜」
トチ蜜は、チクマ養蜂との因縁が深い。創業者の仁一さんの3番目の妻・みつさんの実家が本巣郡の最北部に位置する越波村(おっぱむら)にあった。標高755mの折越峠を越えた谷間の集落周辺には樹齢350年もあるトチノキの大木を筆頭にトチノキの巨木が林立し、5月初旬から6月初めまでの開花時季は、集落がトチの香りに満ちていたという。
チクマ養蜂自宅玄関の間 品評会で獲得した賞状やカップが
展示してある
「仁一さんは研究熱心でね、探究心が旺盛でしたから、遠くても不便でも、越波に蜂箱を置きたかったんですかね。トチ蜜は樹木の蜜だから、他の蜜と違って滋養が特別だと言ってましたね。みつさんは普段から着物を着る人でした。越波は星がきれいだそうですよ」
幸代さんが、遠い記憶を手繰るように思い出し思い出し記憶を紡ぐ。
仁一さんは妻の実家を頼りに、越波村から林道を上った谷筋の広場に折越(おりこし)蜂場を持つことが出来たのだ。それ以来、トチ蜜といえば仁一さんの蜜と評判となり、その名声を仁一さんと孝成さんから受け継ぎ、チクマ養蜂が2018(平30)年に出品したトチ蜜で、第29回岐阜県はちみつ共進会の農林水産大臣賞を受賞することになる。
「ゆき、ようやったな、と言ってくれるんやないかと、勝手に思うとるんですけどね」
幸代さんの声が弾んで明るくなってきた。
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